9-3.癒されない
お待たせ致しましたー
*・*・*
奈央美は気がついたら、病院らしいベッドに寝かされていた。
(……どこ?)
最後に記憶しているのは、黒いもやをまとってた人物に抱きとめられた部分しかない。
何故、ショッピングセンターじゃなくて、病院に。しかも、大部屋ではなく個室に運ばれているのか、奈央美には意味がわからなかった。
あの時、どこか体調を崩してしまったかと思ったが。体はどこにも痛みや違和感を感じない。
「柘植さん、起きた?」
「……え?」
誰かいると思わず、声を出すと。入り口近くに、見覚えのある女性が、豪奢な鳥の姿をした守護精を肩に乗せていた。
仲良くなった、菜幸ではなく同伴していた柔らかいウェーブが特徴の美女。たしか、宮境と言う女性だったはず。
「浄化は完了したけれど、体に問題はない?」
「あ……はい。痛みなどは特に」
浄化。
なら、あの時のモヤのようなものは、つまり邪気。
邪気に飲み込まれかけて、ここに搬送させられたのだろうか。だけど、記憶がない程だと相当浴びたはず。なのに、奈央美の体はほとんど無傷だ。
(あ、そうか。この人、も万屋の一員だから)
菜幸と話してばかりだったのと、万屋よりは喫茶店の方をメインに話していたから、詳しいことは特に聞いていなかったが。
だが、自分よりは年上でも、この若さで浄化のエキスパート。初回で万屋に行った時の、所長と副所長もだが、この女性もすごい。
「大半を浄化したのは、別の職員だけど。無事でよかったわ。半堕ちに抱えられてたから、かなり至近距離で浴びてしまってたし」
「はんお……ち?」
「あなたを抱えていた男性。彼が守護堕の手前の、半堕ちって状態だったの。甲本って男性はご存知?」
「こう……もと?……あ」
どうして、気づかなかったのだろう。
部署が違うせいで、と言うのは言い訳かもしれないが。時々事務仕事の雑用に手を貸してくれたエンジニアの男性の先輩。
ウィンタージュの方で、襲撃事件が起きた先日もあの店を訪れていたがもやでよく見えていなかった。
たしか、携帯のストラップを少し前にもらったのも、彼からで。
「彼は、なんらかの手段であなたと懇意になりたがっていたらしいわ。彼も今搬送されて別室にいるけど」
「私……と?」
「ちょっと、ストーカー以上の行為をしてしまったから警察にご厄介になるわ。あと、半堕ちとは言え守護精を降格させてしまった行為も含めて。謹慎だけじゃ済まないと思うわ」
「……そう、ですか」
地味だが、優しい先輩だとは思っていた。
好意を寄せられていたかなとは思っていたが、自分も地味の部類であると自負している奈央美にとって縁のない関係だと思ってはいた。
けど、自分の守護精を堕としてまで、奈央美と懇意になりたかったと言う思いは許してはいけない。
守護堕ちは、犯罪の中で特に死罪に匹敵するほどの、重罪だからだ。
「気を落とさないで、と言いたけど。うちの菜幸ちゃんとも仲良くなってもらったし、気晴らしでも構わないから喫茶店にはいらっしゃいな?」
「……ありがとうございます」
たしかに、ショックではあるがまだ実感が沸かない。
好意を寄せられていた相手が、守護堕に近い状態で自分に近づこうとしていただなんて。
そんなことが自分の身に起きてただなんて。
それに、自分の守護精が邪気に塗れてしまったのも、おそらく甲本のせい。だから、許してはいけない。けど、ショックになり過ぎてもいけない。
すると、外からノックする音が聞こえてきた。
「よ」
「お兄ちゃん」
スーツを少しだらしなく着た、おそらく警察らしき男性が入ってきた。
宮境の兄だとは思わなかっだが、兄妹なせいか、兄の方も妹に負けず劣らず美形の部類に入る。きっと、すごくモテるに違いない。
「柘植さん、だったか?」
「あ、はい」
声をかけられたのと、来訪の目的はおそらく事情聴取についてかもしれない。
姿勢を正すと、彼は大きくため息を吐いた。
「率直に言う。相当ショックなことだが、偽りを伝えるのは刑事として出来ない。覚悟して聞いてくれ」
「は……はい?」
「……甲本が殺された」
「……え?」
「お兄ちゃん、それ本当!?」
ついさっき、妹の方から別室にいると聞いたばかりなのに。
今度は、殺されたと知らされた。
何故、なんで、と頭の中がぐちゃぐちゃにになりそうだったが。兄の方はまだ伝えることがあったのか、もう一度息を吐いた。
「甲本が、あんたを自分のモノにしようとして依頼した相手が。失敗したと言う理由だけで、奴を病室で殺した。俺ともう一人の刑事が、一度応戦して対応しようとしたが……ダメだった」
「「そ、そんな……」」
奈央美を好きになってくれただけで。
けど、振り向かせようとして、甲本は違法とは言え依頼をした。そして、守護堕になりかけてまで、奈央美を自分のモノにしようとしたのだが。
失敗に終わったから、殺された。
さすがにショックを堪え切れずに、奈央美は布団に顔を伏せって泣くしか出来なかったのだった。
次回は10時〜




