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ウィンタージュに憩いの羽音を  作者: 櫛田こころ
万屋ウィンタージュ
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1-2.万屋ウィンタージュ①

お待たせ致しましたー

 *・*・*








「本当に、ここでいいのかしら……」



 どう見たって、ただのレストランかカフェにしか見えない。


 けれど、紹介してもらったあの医師から受け取った住所と場所の名前はたしかに合っていた。

 意を決して、女性はテラスから中に通じる扉に手をかけた。


 が、



「ありがとうございました!」

「かっわいい! これがたわしだなんてもったいないなー」

「こっちの革の財布も凝ってるよね。使うのもったいないかも」

「そう言いつつ使うくせに」

「あ、バレた?」



 仲のいい友人同士の女性二人組だった。


 中はたしかに店なのか、雑貨も取り扱ってるようで二人はいい買い物をしたと言うような感じで出てきた。

 二人の邪魔にならぬよう避ければ、彼女達は気にせずに行ってしまったが、自分は気合を入れ直してもう一度扉に手をかける。



「いらっしゃいませ」



 出迎えてくれたのは、柔和な笑みが印象的な青年だった。


 一瞬見惚れてしまうが、それどころではないと気持ちを切り替える。



「あ、あの」

「はい?」

「こちらは、『ウィンタージュ』さんでよかったですか?」

「ええ。当店は喫茶『ウィンタージュ』でございますが」

「そんな、じゃああの先生はなんでここを……」



 ただの喫茶店ならば帰るしかない。

 そう思って、断りの言葉を告げて帰ろうとしたが。



「……お客様。でしたらこちらではなく『裏口』をご利用の方でしょうか?」

「え、裏口?」

「どなたかから紹介がおありのようですしね。僕がご案内しますので、少しこちらでお待ちください」

「あ、はい!」



 有無を言わせないような言葉に思わず同意してしまい、玄関前で待つ事になってしまった。青年は他の店員に言付けしたのか、それからすぐに戻って来た。



「お待たせしました。事務所にご案内しますので」

「え、事務所?」

「ご安心を。喫茶店の方ではなくあなた(・・・)がお望みである方の事務所ですよ」



 にこっと柔和な笑顔を向けられても、まだ少し不安ではあったが、ここで地団駄を踏むよりかは一度聞いてみるしかない。


 とにかく、自分には切羽詰まってる事態が起きているのだから。



「お願いします」

「では、こちらへどうぞ」



 青年の後に続き、関係者用の扉をまず潜った。


 そこに入れば少し長い廊下があり、奥へ進んでいくと渡り廊下であることがわかった。通る度に扉がいくつかあったが、特には関係がないようだ。


 青年は一番奥の階段目掛けて自分を連れて行き、階段の前に着くと一度立ち止まった。



「この上が事務所になります」

「……すみません、急に」

「いえ。失礼ながら御用件は大体察しがつきます。僕は所長が来るまでの中継ぎしか出来ませんので、ご了承ください」

「え、あなたが所長さんじゃないんですか?」



 驚いて一瞬階段を踏み外しそうになるが、なんとか耐えた。



「よく間違われますが、僕は副所長です。所長は店の方で少し出ていますが、あなたのことには気づいてるはずですからすぐに来ますよ」

「気づくって、お兄さん以外お会いしてませんが」

「それがわかるんですよ、彼には」



 小さく笑った青年は先に一番上の段に登り、事務所らしい部屋の扉を開いて待っててくれた。


 とんとんと木製の階段を上って右手の扉の向こうを覗けば、ちょっと散らかってるかなぁとは思っていたのとは真逆に、とても整頓が行き届いてた事務所があった。


 それと、



「……ここも、お店みたいですね」

「よく言われますね」



 調度品が喫茶側のアンティーク調に揃えられ、デスクもファイルがあるような棚もほとんどが税理士や弁護士などのような事務所とは逆に木材中心だ。


 照明などはさすがにLEDになっているが、よく見なければわかりにくい。



「さっ、中へどうぞ。お茶の準備をしますので、そちらの応接スペースにあるソファに座ってらしてください」

「あ、はい」



 どこだときょろきょろすれば、棚のすぐ側にそれはあった。


 大手コーヒーショップなどにも置かれてるような、座り心地を重視した黒いシックなものだ。実際座ってみれば、ふかふかで気持ちを落ち着かせてくれるような感じになって来る。


 そして、程なくして青年が紅茶セットを携えて戻ってきた。



「どうぞ」

「ありがとうございます」



 可愛らしい花型のカップがローテーブルに置かれ、芳しい紅茶の香りが鼻をくすぐる。


 だけど、まだそれに手をつける訳にはいかない。

 青年もそれはわかってるようで自分用の紅茶に手をつけずに向かいのソファに腰掛けた。



「さて、依頼内容をと思ったんですが……所長が来ますね」

「え?」



 物音は特に聞こえて来ないが、どうして彼にはわかるのだろうか。

 だが、すぐに自分にも階段を上って来る音がかすかに聞こえてきた。




 ガチャ。




 木製の扉が開き、ぬっと大きな人影が目に飛び込んできた。



「悪い。悠耶(ゆうや)、依頼聞いてたか?」

「ちょうど今からだったよ。ナイスタイミングだね」



 入ってきたのは、日本人にしてはかなり背丈のある青年だった。

次回は17時〜

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