7-5.和やか、が
お待たせ致しましたー
*・*・*
偶然とは言え、万屋の依頼人に外で会うとは。
大概が一期一会で終わることもあれば定期的に続くこともある。柘植奈央美の場合はどうなるかはわからないが、喫茶側では常連になりそうだ。
「シフォンケーキだけは私が任されるんだよー」
「あ、昨日食べたわ。チョコチップだったわよね? すっごく美味しかったわ」
「えへへー」
話すうちに菜幸と同学年と言うことがわかり、二人は敬語を使わずに話すようになっていた。
奈央美はどちらかと言えば消極的な印象を受けやすかったが、同学年の同性がいたことでいくらか緊張が和らいだのだろう。強張りが少しなくなって柔和な笑みを浮かべている。
「はむ……んぐっ」
二人に遠慮してなのか食べるのに夢中なのか漣はチーズバーガーをちまちまと食べていた。その様子がハムスターのような小動物をイメージしてしまうのは咲乃だけではないだろう。
「漣ちゃん美味しい?」
「なんか止まらないんです」
「あら、じゃあ食べ慣れてるのかもしれないわね」
奈央美の前では漣が記憶喪失者であることはあまり口外しておきたくない。追求はされぬだろうが、一応は部外者。それにあまり良い印象は持たれないはずだ。
漣自身も無意識に察知しているのか、いつものような質問返しをしてこない。空気が読める子なのかもしれないと思った。
程なくして食べ終えれば、それまで手付かずにいたポテトにも手を伸ばせば同じように夢中になってつまんでいく。足りなければ自分の分を上げよう。菜幸は自分が平らげるつもりであえて大きめのサイズを注文してきたが、漣にあげても問題はないはずだ。
どうも、餌付けさせたくなるような気持ちに駆られるのだこの少女の場合。
「じゃあ、LIMEのID交換も出来たし、私はそろそろ仕事に戻るわ。お邪魔しました」
「ナオちゃんまたねー?」
「うん、ユキちゃんもまた」
もうあだ名で呼び合うくらいの仲に。相変わらず、菜幸は他人を懐に入れるのが上手い。
漣を見ながら聞いてはいたが、彼女はIT企業の人事課の事務にいるらしい。入社二年目とは言え時々今日のようにお使いを頼まれることがあるので、その度に守護精とランチを共にしてるようだ。
先輩や同期と仲が悪いわけではないようだが、あまり社交的ではないらしく一人が多いとか。だから、今日は久しぶりに人と食事出来て嬉しかったそうだ。
奈央美は空のトレーを持って咲乃や漣にも一礼してから行ってしまった。
「相変わらずお客さんとすぐに仲良くなるわね?」
「まあ、なんか自然と出来ちゃうんすよね?」
「特技とも言えるわね」
咲乃は別に社交的じゃないわけではないが、あまり積極的にいこうとはしない。菜幸のようにハキハキと対応が出来ないわけではないものの、余程のことがない限り進んで交流しないせいだろうか。
あとは、従兄弟達と過ごす時間が長かったのと、その中でも悠耶がいつもそばに居てくれるからもあるが。
今日のように彼抜きにショッピングなどをするのも随分久しぶりだった。
「…………なんかいっぱいにならないです」
「おや」
「あら」
漣は意外にも食べる方らしい。
昨日のまかないでしか一緒でなかったが、あの時はお代わりも言わずにいたからてっきり咲乃より少し食べる程度かと思ったのだ。だが、比較したら大分少ない量なので、そのせいもあるだろう。
「なら、今は空かせてお茶する時に甘い物を多めに注文しましょうか?」
「あまいもの?」
「パンケーキとかなら、ここ良いとこがあるっすからね!」
「? ぱんけーき?」
「説明はまたあとね」
咲乃や菜幸も途中までしか食べてなかった食事を再開させた。ポテトは少しだけ漣に分けてあげることにしたが。
*・*・*
まさか、友達が出来るとは思わないでいた。
(どれくらいぶりかしら……?)
大学を卒業して以来、その友人達とも仕事の忙しさですれ違って疎遠がちでいた。
彼氏も自然消滅以降は出来た試しがないし、会社内では大人しくて控え目と言われてるので積極的に交流することはなく無難な付き合いが多かった。
だから、今回のようにきっかけはあってもまったくの他人と話すだけでなく、意気投合して連絡先を交換すること自体久しぶり過ぎたのだ。
「ユキちゃん、か」
あだ名でもう呼び合えるくらいに菜幸は気さくで、何のためらいもなく懐に入れてくれた。
少々おっちょこちょいな感じは見受けられても、それもまた彼女の魅力なのだろう。昨日の事件では迅速に対応していたのを思い返せば、とってもカッコ良かった。
奈央美には出来ないことだから、余計に。
そんな彼女と偶然にもフードコートで再会出来て、あまつさえ同学年だからと言うことで話し込んで連絡先を交換するとは思わなかった。しかも、あだ名呼びさせてくれる程にすぐに仲良くなるなんて。
「今日はお休みだって言ってたし、また明日ウィンタージュに行こうかしら?」
帰宅してからLIMEで話し合うのもいいかもしれないが、彼女達が何時まで女子会をするかはわからない。
だから、直接会う口実も兼ねてウィンタージュに行こうと思った。事件のことはあの時の眼鏡の刑事により秘匿するように言われているし、あれだけのことがあってもきっと営業しているはずだ。
ライトに眠らされてからしばらくして起きた時に、店は少し荒れてても大きな損害が見受けられなかったから。
「さて、再開時間までそんなにないし。さっさと戻らなくちゃ」
そうして一階までのエレベーターに乗り込もうとした時。
奈央美の視界すべてが黒に染まった。
*・*・*
「マネージャーっ! 篤嗣さんからお電話です!」
「おー、なんで携帯じゃなくって店の方なんだ?」
「晁斗がたいていロッカーに置いてるからじゃないの?」
「あ、そっか」
仕事中には出来るだけ私情を持ち込むことはしないようにしているので、あの従兄弟もそれを覚えているのだろう。
それと、この時間帯には万屋側でなく喫茶側にいることが多いのも、昔はバイトしていたからの経験か。
配膳しようとしてたのを悠耶に任せ、バイトから電話を受け取りながら何か進展があったのかと期待しながら応対しようとしたが。
「どうした、篤兄?」
『やばいぞ、晁斗! 昨日の男が搬送先の病院から抜け出した!』
「何っ!?」
あの男が抜け出した。状態まではわからないが、きっと正気ではないはずだ。
『そっちに行ってる可能性が高いと思ったが、どうやら何もないみたいだな?』
「来てないし、誰の守護精も邪気に反応してねぇよ!」
『と言うことは別か。悪い、お前か悠耶だけでも応援に来てくれないか? 依頼として受けて欲しい』
「わーった」
最悪の事態だ。
電話を切ってからすぐに克己に説明すれば、何かあってからでは遅いと二人で行くように言われた。着替えも手早く済ませてから駐車場に出て、空呀ではなく、星燕を降ろして巨大化させた。
「あてはあるの?」
「正直ねぇが、病院の場所はあそこだろ?」
漣の行った大学病院ではないが、彼女が今いる場所からは近いはず。
悠耶も気づいたのか、星燕に飛び乗ってから晁斗にもすぐ乗るように言った。
「全速力で頼むよ!」
「応!」
あのショッピングモールに、行ってないでほしいが。
次回は10時〜




