7-4.その頃、の半堕ち?は
本日四話目
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昨日搬送された半堕ちになりかけたと言う甲本泰彦。
高位の守護精を持つ浄化スペシャリストに、現場で浄化が間に合ったとは言え。
この陸螺市警察病院に搬送されて、バイタリティチェックを受けてからも、ずっと守護精ともども意識を戻さないままだ。
「……起きません、か」
見回りの警備以外に、今ここにいるのは顧問の一人である荘重敦子女医だ。
件の、『万屋ウィンタージュ』とも信頼関係が深く。まあ、言うなれば治癒関係の後処理を任されているのが多いらしいが、まだ三十代と若いながらも敏腕女性医師として、医学界では名を馳せている。
「はい。一通りのバイタリティチェックをして、身体には問題箇所はありませんでした。守護精も現在は良好。なのに、搬送以降も」
「わかったわ。じゃ、私が今から簡易的に診察します。カルテの記入、米原君。あなたにお願いするわね?」
「了解しました」
看護師兼警護の米原にカルテ記入を頼むなど、医学界の端くれにも満たない自分がと思うと恐れ多いが、指示されたのなら受けるまで。
すぐにカルテの新しいものを用意して、甲本の眠っている個室に入ると。中は甲本の穏やかな寝息しか聞こえなかった。
「……たしかに。叩いても何をしようとしても起きなさそうね?」
荘重医師は、簡易的に視認しただけで患者の容態を理解したようだ。
すると、手を甲本に向けて伸ばし、守護精降臨の詠唱を唱えた。
『……我が真名との盟約に従う者よ。ここに降り給え』
軽く風のような衝撃が起こり、甲本のベッドの布団など、カーテンもはためかせた。
それが収まる頃には、伸ばしたままの荘重医師の腕には、青いフクロウのような守護精が留まっていた。
「苑生、堕ちにはだいたい二種に分かれているわ。米原君もわかっているでしょうけど、守護堕ちでも半堕ちでも最近は第三者からの介入が多いわ。今日はそれを調べましょう」
「はい!」
「承知やで〜、敦子。つか、相手方の守護精どこや?」
「「え?」」
苑生、と言うフクロウの守護精が関西弁のような口調で二人に告げてきたが。
今朝方、枕元で寝てるのを確認したエルフのような守護精の姿がどこにもない。
まさか、と米原は顔を上げて宿主である甲本に向くと。
いつのまに目を覚ましたのか、上半身が起き上がっていた。
「甲本……さ」
「米原君、離れて!」
「え?」
荘重医師にいきなり声を上げられた瞬間、米原の体は後方の壁に激突させられていた。
とっさのことで、受け身も満足に取れず、もろに衝撃を肉と骨に受けてしまい、一瞬息も止まった。
「米原君!」
「か……っは」
不覚。
仮にも、半堕ちに満たない甲本とは言え、堕ちは堕ち。邪気に身体を満たされて、宿している守護精を闇に墜させてしまった人間の成れの果て。
けど、今回の甲本の場合はまだ救い上げられたと報告を受けて、一般人ともそう差異がないと言われていたのに。
現実は違った。浄化されたはずでも、甲本からは邪気が溢れ、術に似た攻撃方法で米原を壁に激突させたのだ。
「ったく。宮境兄妹の浄化は未熟でもバッチリのはずなのに! こいつは、やっぱり自分で堕ちたんじゃない。第三者の介入によるものね!」
駆け寄ってきた荘重医師は、守護精に結界を頼んだのか無傷だった。おそらく、声をかけただけで標的を絞って甲本は米原に攻撃してきたのだろう。
呼吸が整ってきてから、米原は荘重医師に謝罪した。
「すみません、警備失格ですね」
「謝罪はあとあと。とにかく、甲本を止めなきゃ。ここから出るつもりよ」
「……ええ」
既に、臨戦態勢である甲本は。ベッドから下りていて、身体に黒い靄状の邪気をまとわせていた。
顔は邪気のせいでよく見えないが、おそらく邪魔をしようとするこちらを始末しようかと考えているのだろう。
苑生が飛びながら見据えていると、奴はいきなり自分の後方に振り返って、手から何かを放った。
「ちょ、はあ?!」
「退路を後方に!?」
正面突破かと思いきや、裏をかいて退路を別でとって逃げ出してしまった。
後ろは他の個室とかはない代わりに、廊下などの通路が多い。つまり、紛れ込むには絶好のチャンスだ。
が、米原達には面倒事でしかないので、荘重医師と慌てて追いかけた。
「苑生! 外には出ないように出来る!?」
「そうは言っても、わっちは後方支援やで? 結界張りまくるしか出来んよ!」
「それでもいいから!」
「あいな!」
けど、二人のやり取りはもう間に合わず。
邪気のせいで急激に身体能力が上がった甲本を止められずに、取り逃してしまうことになったのだった。
「あー、もー! 追いかけたいけど、仕事じゃないから出来ない! 米原君、警視庁の一課に連絡して! 宮境って刑事に!」
「わかりました!」
米原は会った回数が少ないが、浄化スペシャリストに若いながらも戦闘能力が高いと噂の刑事だと知ってはいる。
荘重医師と知り合いなのか、と少し気になったがそれどころじゃないのが現状。
急いで携帯を使って連絡したら、『嘘だろおい!』と相手方から声が上がったのだった。
次回はまた明日〜




