7-3.フードコートで
本日三話目〜
*・*・*
最上階のフードコートに着くと、漣はほぼ予想通り呆気に取られたかのように惚けてしまった。
「お、お店がいっぱい……?」
咲乃から簡単に説明はされていても、実物を見たら圧倒されたのかもしれない。隣で菜幸は自分の子供時代の時とはまた違う様子に笑いが堪えられない。咲乃も似た感じでいた。
「これがフードコートって言うんだよ? ひとつ一つはそこまで大きくないけど、食べ物屋さんが集まった場所なんだ」
「全部、食べ物?」
記憶が欠如しているせいで、幼児でも知っている知識すら持っていない。菜幸は昨日出会ったばかりでも仕事があったためにほとんど話していないが、その部分を除けばごく普通の少女にしか見えないでいた。
「とりあえず、選びに行きましょう? 漣ちゃん、遠慮せずに好きなの……って言いたけど、わからないわよね?」
「お、お箸使わないの以外なら……」
「もうお箸使ったの?」
「今朝……全然でした」
「だと和食や中華の大半はパスね。私達のを分けてあげてもいいけど……」
「だったら、こんな機会しか食べれないものにしましょう!」
「何を?」
二人が疑問に思ってるのはもちろんだが、菜幸は久しく口にしてないあれをどうしても食べたかったし漣にも是非食べさせてあげたかった。
「うちの店では裏メニューにしか出さない、ジャンキーなやつっすよ!」
「あら、ああ言うのね。そうね……私も久しぶりだし、箸も使わないからいいかもしれないわ」
「え、えーっと?」
「とにかくおいで! 絶対美味しいから」
漣の手を掴んで少し足早に目的地へと向かった。
咲乃ものんびり後からついてくるのはちゃんと見てから。
「…………なんて読むんですか?」
到着してから、漣は看板に書いてある文字が読めないのか首を捻った。
だがそれも無理はない。記憶喪失状態なのだから英語はほとんど読めないだろう。
「ワクワクハンバーガーって読むんだよ。ここにはハンバーガーって食べ物が美味しいんだー」
「どう言うのですか?」
「論より証拠。まあ、見ればわかるよ。嫌いなものがなければ、オススメ頼むけどいいかな?」
「あ、はい。大丈夫です」
「咲乃先輩はどうしますー?」
「じゃあ、アボカドディップとチーズのかしら? ドリンクはアイスコーヒーでいいわ」
「了解っす! 漣ちゃんは先輩と席探して来て? 私が全部持ってくから」
「お、重くないですか?」
「軽いから平気平気」
一人で持って行けれるのもあるが、咲乃を一人にしたくなかったのだ。
「すみませーん。ダブルチーズバーガーの大と小のセット一つずつでドリンクはどっちもオレンジで。あとアボカドディップのチーズバーガーにアイスコーヒーのセット一つお願いしまーす」
「かしこまりました。本日からセットのポテトがキャンペーンでLサイズにも変更出来ますが、いかがなさいますか?」
「じゃ、全部Lで」
二人が食べ切れなくても菜幸には足りないくらいだ。
出来上がるまでほんの数分かかるが、菜幸は今のうちに咲乃達を探しておく。割とすぐに見つかって、二人はそう離れていない四人がけのテーブルで仲良く談笑していた。
周囲には、平日だからか人もまばらで彼女達からもだいぶ離れているので視線を向けたりしていなかった。
(先輩はウィンタージュいちの看板娘っすからねー)
自覚はあるものの、彼女はあの容姿であるから悠耶がいないとほぼ絡まれてしまう。ようはナンパだ。
漣も可愛いに違いないが、咲乃と比べるとごく普通にしか見えない。モデルとよくてアイドル未満と言うところか。菜幸自身は眼鏡っ娘で通っているので漣とそう変わりないとバイトからは昨日言われている。
嬉しくないわけではないが、童顔かと思ったので少し落ち込んだのは余談。とにかく、何も問題がないので一応ほっと出来た。
「お待たせしました」
「お。ありがとうございます」
ともあれ、腹ごしらえだ。
菜幸は転ける癖があるので、出来るだけ慎重に足を運びながらトレーをしっかり抱えた。
*・*・*
見覚えのある女性達がいた。
「あの人達は……」
どこで、と奈央美は思い浮かべていると、すぐに昨日も世話になったばかりの喫茶店の従業員達だ。うち一人だけは他の二人に比べると幼く見えるが友達だったのだろうか。
仲良くハンバーガーを食べている辺り、自分と変わらないごく普通の女性達にしか見えない。
が、眼鏡の女性はあの黒ずんだ霧をまとった男性を拘束出来たし、猫っ毛のモデル並みの美貌を持っている女性の方は奈央美達に浄化術をかけてくれた。
守護精の力があるのはもちろんだが、それを制御可能とする二人を奈央美は純粋に凄いと思った。自身のライトを卑下するわけではないのだが、役に立てるかと言われれば口をつぐんでしまうことが多いから。
「……でも、お礼は言いたいわ」
ほんの少しだけならいいだろうか。
会社からのお使い帰りに、気分転換とお昼を食べに来ただけだから、このエリアにまったく用がないわけではない。
それに気になってしまうと、あとあと引きずる悪い癖が出てしまうので後悔はしたくない。ライトの一件で奈央美が決めたことの一つだ。
「あ、あの……」
ただ、口実のために自身も同じ店のハンバーガーを買ってから行動に移した。メニューはフィッシュチーズバーガーとメロンソーダのセットに。
「ん?」
「あら? どうされました?」
やはり、直接会話してない分覚えてもらっていないのだろう。それは重々承知なので口を開こうとしたが。
「あ、万屋に依頼に来たお姉さんっすね!」
「え?」
今言おうとしたことを、眼鏡の女性に先に言われた。
あの時はいなかったのに何故彼女が奈央美を知っているのだろうか。
「あら、そうなの?」
「守護精の治療に来られたんすよね? あれから大丈夫っすか?」
「あ、は……い」
男の子のような敬語を使うが、ハキハキとしていて聞き取りやすい。反射で頷けば、猫っ毛の女性が空いてる席のイスを引いた。
「よろしければ、お話しませんか?」
「い、いいんですか?」
自分はただお礼を言ってから近くの席で食事をしようとしてただけなのに。
眼鏡の女性も了承のようで、一人黙ってた小柄な女性はじっと奈央美を見ていた。
「え、えっと……?」
「あ、いえ。ぼ、僕も大丈夫です!」
見た目によらずボクっ娘とは。いくつかはわからないが、普段使いならまだいいだろう。
社会に出ると差別意識を持たれることの方が多いので、あまりオススメはしない。と言うのも、奈央美の旧友の一人にそう言う子がいたからだ。
とりあえず、厚意に甘えて同席させてもらうことにしてイスに座った。
「えっと……昨日もありがとうございました。私は柘植奈央美と言います」
「あら、ご丁寧に。私はウィンタージュのサブリーダーの一人で宮境咲乃と言います。万屋では所長と副所長の補佐ですが」
「私は古厩菜幸っす! ホールスタッフで万屋では経理担当っすね」
「えっと……熊谷漣です。今度からお店で働きます」
お互い自己紹介することになり、奈央美は聞き覚えのある名字に反応した。
「漣……さんは所長さんの妹さんですか?」
「え、ち、違います! その……親戚です」
「漣ちゃんは名字は同じなんですけど、少し遠いんです。私が彼の父方の従兄妹ですが」
「名字が違うのは、お母様が?」
「はい。母は彼の父の妹なんです」
なるほど、少し納得出来た。
それにしても、この面々の顔立ちは整い過ぎやしないだろうか。咲乃は当然だが菜幸もそれなりに綺麗な顔立ちでいるし、漣も愛らしい雰囲気だ。自分とは月とスッポンだなと自覚せざるを得ない奈央美だった。
次回は15時〜




