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6-2.少女の能力

本日三話目

「実際に見てもらった方が早い。だが、ひとまず食事を終わらせようか」



 早く知りたいが、食事中であるからには中途半端なままではいけない。残さず食べるべし。


 晁斗(あさと)らは克己(かつき)に幼い頃からそう言い聞かされて育っているので、大人しく従った。菜幸(なゆき)もオーナーには逆らえないのでもくもくとオムライスを頬張っていく。



「ああ、悠耶(ゆうや)。終わったら久しぶりにあれ(・・)を持ってきてくれないかな?」

「え? なんで?」

(れん)ちゃんの能力と言うより、お前が気になるだろうからね」

「うーん……わかった」

「あれってなんですか?」

「すぐにわかるって」



 漣の疑問に、晁斗は軽く頭を撫でてやることで秘密にさせた。


 食事は早いものから順に終えるとトレーを店側に持っていき、ついでに締め作業や(あかり)達の仕込みの手伝いなどをしていけば、約一時間後に全てが完了した。


 燈も合流して、万屋事務所に全員集まる形となるのは実に久しい。燈は店のこともだが、万屋の仕事でちょくちょくいないことも多かったから。



「さて、これで万屋の所員と所長は揃ったね」

「最近店の方はともかく、こっちで揃うことはないからな」

「よろずや?」

「あえて説明しなかったのは、改めて全員を紹介したかったからさ。晁斗、説明してあげなさい」

「ああ」



 だが少し長くなるだろうから、彼女と共にソファに腰掛けた。



「万屋の万って言うのは、簡単に言えば『なんでも屋』って意味だ。と言っても、商品を扱う方じゃないな。何か異常があれば解決に繋げるのが仕事だ。今日のは大変な方に入るが」

「異常、と言うと?」

「生き物の体には、必ず『気』を宿している。お前にわかりやすく言えば……元気の源ってとこか? とりあえず、そう思っててくれ。気は良くも悪くも体だけでなく心も左右させるものだ。それは、魂を分け与えた存在とされてる守護精も同様。ほんのわずかな不調があれば対応する。一種の医者のような仕事だと言えばわかるか?」



 大雑把にはそう言ったことでいい。


 記憶の有無はともかく、裏社会を知らない少女にはあまり多くの情報を与えられないからだ。



「……お医者さんにしてはここ、お店とあんまり変わらないですけど」



 おそらく、今日自分が検査を受けてきた大学病院と比較しているのだろう。


 仕事内容に深入りしてこないことに少しほっと出来た。


「浄化って言うのが主だからな? 今日漣が見てきた場所とは違って当然だ。俺達が行うのは、その気が邪気と言う悪いのになってしまった時への対処。ここにはないが、黒ずんだ霧のようなものをまとった状態を治すんだ」

「黒い、きり?」

「今は忘れていい。他にも細かいことを上げればきりがないが、なんでもするから万屋と名乗ってるんだ。喫茶店の方は一応副業ってことで、本業はここ」

「両方って、大変じゃないですか?」

「そりゃあ、な。けど、なんとかなってるから、克爺が始めてからずっと続けられている。俺は、二代目だ」

「にだい、め?」



 こてんと首を傾げる辺り本当にわかっていないみたいだが、これは予想の範疇。


 晁斗はその頭を軽く撫でてやった。



「ここを始めたのは俺じゃない。克爺だ」

「今は、引退してウィンタージュだけを切り盛りしてるがね」

「克己さんが、最初?」

「基本を作ったのは、だがね。去年くらいに晁斗には譲ったばかりなんだよ」

「まだ新米所長ってことだ」



 教わることは日々山のようにある。


 それが苦とは思わない。


 父親が出来なかった夢を、代わりに果たせる希望を与えられているのだから。



「私は引退したが、時々は手伝うようにしているよ。晁斗は所長、悠耶は副所長。咲乃(さくの)は二人の補佐。燈君は情報収集担当で、菜幸君は経理。詳しいことは、これから知っていけばいい。ここは君の居場所でもあるんだから」

「い、ばしょ?」

「晁君達の家もだけど、ここも漣ちゃんのお家だと思えばいいのよ」

「部外者なんて言いっこなしだよ、漣ちゃん!」

「菜幸ちゃんははしゃぎすぎないようにね?」

「……うぃっす」

「菜幸は兄貴の言うことは聞くよな?」

「尊敬してるからっす!」



 咲乃を皮切りに、皆も集まって騒ぎ出した。


 女性二人は特権とばかりに漣に抱きつき、彼女を大いに慌てさせたが。



「漣ちゃんへの説明はそんなところかな? それより、克爺。漣ちゃんの潜在能力って一体なんなの?」



 悠耶の言葉に晁斗も同感だった。


 口頭で説明せずにもったいぶっている意味がわからない。それに、悠耶に久々に持たせている"あれ"のことも。



「ああ。悠耶、用意は出来てるようだね?」

「まあね」



 悠耶の手には黒いケースがある。


 不思議がるのは当然漣だけで、また首を傾げていた。



「それ、なんですか?」

「悠君が得意な楽器よ」

「がっき?」

「うーん……音を出すことが出来る道具って思えばいいわ。とにかく、悠君のバイオリンはすごいのよ」

「ばいおりん?」

「こう言うものだよ」



 咲乃が説明している間に、悠耶はケースを開けて本体と弦を持っていた。



「……これが、ばいおりん?」

「やっぱり見たことないか? 結構オーソドックスな楽器なんだけど」

「いえ。病院で言われた絵に似てるなと」

「固有名詞の識別の時だね。あれだけあったのによく覚えてたね?」

「可愛かったので。これは、どちらかと言うとかっこいいです」

「ありがとう。こうやって、音を鳴らすんだよ」



 弓で軽く弦を弾き、澄んだ音を奏でる。


 久しく触れていないはずなのに、腕は衰えてないようで安心出来た。



「綺麗ですっ!」

「ご希望とあらば、簡単なジャズとか聴かせてあげたいけど……僕は何をすればいいの?」

「まあ、そのまま待ってなさい。漣ちゃん、今日先生の前でやってみたことをもう一度皆にもしてくれないかい?」

「え、あ、あれを?」



 急に漣が口ごもり、顔を赤くさせていく。


 何事だと一同の注目を集めたが、彼女は何故かもとより小さい体をさらに縮こませていた。



「あ、あああ、あれを、ここでですか!?」

「そう気を負わずに。病院と違って気心知れた相手ばかりなんだから大丈夫だよ」

「う、うぅ……辛かったら、耳塞いでくださいね?」

「多分、それはないから」



 一体病院で何をしてきたのか。


 行っていないものが大半故に、克己以外誰も皆目見当がつかなくて今度はこちらが首を傾げたい気持ちになる。


 すると、縮こまっていた漣はソファから立ち上がり、祈りを捧げるように胸の前で両手を組んだ。



「……いきます」



 何をするのか、少し晁斗にも理解出来た。悠耶に目配せすれば、既に弓を持って構えていた。


 漣は小さな口を少しだけ大きく開けていく。





『小さく、浮かぶ雪の羽根

 街中へ降るよ降るよ、綿菓子色の雨になって



 思い浮かぶ貴方、瞳を閉じて手をのばす

 優しいぬくもり、心にまで届くよ

 I wish for you.』




 やはり、歌だった。


 それも単純に上手いとだけで評価出来ない。


 悠耶の演奏会などで耳が肥えているはずの晁斗ですら、心を打たれたかと思うほどに美しい歌声だった。

 伴奏もなしにこの声量と音域は、相当の努力費やせねば出来ないだろうに、漣はいとも簡単に可能にさせていた。




『頬を撫でる風は、まるで天使の吐息のように

 道端から見上げた夜空は、微かな星しか見えない



 今、ここにいない貴方、決して忘れない

 いつかまた、会える日に言葉にするから』




 悠耶が、ゆっくりと弓を引いた。


 即興だが、いくらか漣の歌声から拾ったメロディを頭で覚えさせ、体に変換させたのだろう。プロとしては活動してないのに、相変わらずこう言うのが得意でいる。


 だが、見事に調和していた。


 思わず聴き惚れてしまうくらい。



「え、え?」



 菜幸が声を上げたので何事かと振り返ったが、晁斗自身も自分に起きた異常に目を丸くした。



「……いい音ー」

空呀(くうが)?」



 やけにしまりのないへろへろした状態で、空呀が出て来た。


 詠唱破棄も、こちらの呼びかけもなしに出てくることはたまにあるが、こんな調子のままの顕現は一度とてない。


 まさか、と他も見れば全員の守護精が似た状態で宿主の中から出て来ていた。



「ふむ。漣ちゃん、もういいよ?」

「あ、はいっ」



 克己の指示によって歌が止まれば、同時に守護精達我に返った。



「あ、あれ?」

「何故外に?」

「私、出られてますね?」

「何か心地よい夢を見ていたような」



 顕現するまでのことを全く覚えていないようだ。



「オーナー、これは一体?」



 燈にもわけがわからないようだ。


 克己に一斉に注目が集まると、彼はゆっくりと口を開けた。



荘重(むらしげ)君とだけしか見解していないが、漣君は『癒し手』に近い素質があるようなんだ」

次回は15時〜

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