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6-1.一時休息

本日二話目〜

 





 *・*・*









「つまり、半堕(はんお)ちにも満たなかったと言うことかな?」

(あつ)兄の考えじゃ、多分そうらしい」



 ウィンタージュの締め作業を終えてから一同は万屋の事務所に集まった。


 ただ、(あかり)蛍嵐(けいらん)だけは仕込みがあるからと厨房に残ったが。代わりに全員分のまかないは用意してくれていた。


 本日はハヤシオムライスセット。


 菜幸(なゆき)咲乃(さくの)もだが、(れん)も目を輝かせていた。すっかり味の区別がわかったのと、燈の料理の虜になった証拠だろう。


 女性陣は和気藹々と団欒しているのに対し、晁斗(あさと)悠耶(ゆうや)克己(かつき)に報告をしていた。



「バイトの子が言うには、本当に普通の来客のように現れたらしいよ」

「あれだけ邪気放っといて道中何もなかったっつーのもおかしいが」

「もしかしたら、突発性かもしれないね。半堕ちになりかけた時だと思うが」

「あれが?」

「私は直接見てないから推測だけだよ」

「でも、それはあり得るかも」



 まだ篤嗣(あつし)達から簡易的な連絡すらない。

 篤嗣が失神させた男性や守護精が目を覚ましていないか、事情聴取などがまだ続いているか。


 どちらにしても、半堕ちでもあの男性は罪に問われる。自身と守護精を闇に堕ちるきっかけだけでも犯罪と同等。今回はまだ浅かった結果で済んだにしても、半堕ちですら正常な状態には戻りにくい。


 宿主本人もだが、守護精の方が特に。己の魂を分け与えた存在とされている彼らは常に宿主と一心同体。

 魂の影響が表面化しやすくなるのは守護精の方なのだ。そして、引きずられてしまうのは宿主となる。



(禁固刑は避けられんな……)



 そう言った刑罰の知識は篤嗣や御子柴(みこしば)達からよく言い聞かされていた。


 懲役に比べれば軽く思われるが、実際の精神的苦痛は比べようがないらしい。絶対務所に入るようなことはするなよとも克己も含め、他から散々言い聞かされてきた。


 万屋の所長を継いだからこそ、その肩書きの重みは日々増すばかりだ。まだ継いで一年も経っていないが。




「ふわふわっ」


 何かに感動したような声が聞こえて視線を少しだけ向けた。そこには、オムライスを口に入れて肩を震わせながら喜びを表現している少女の姿があった。



「でしょー? 燈さんに教わってもこのふわとろ加減って真似できないのよね」

「私よくて普通に巻くくらいっすよ」

「たんぽぽオムライスも難しいしねー?」

「悠耶先輩には作ってあげるんすか?」

「たまーにね? 三回に一回は失敗しちゃうけど」

「たんぽぽ?」

「あ、それはねー」



 実に和やかな雰囲気だ。


 つい数時間前まではここでなくとも店内は殺伐とした状態であったのに。


 咲乃もあれだけ浄化作業で気力を使って疲労がたまっているはずが、今はごく普通に菜幸と漣と楽しげに女子会のように話し込んでいる。


 そう言えば、晁斗はスープ以外口にしてなかったなとオムライスを口に運んだ。彼女達が言うように絶妙な卵の焼き加減。漣がはしゃぐのも無理もないと納得出来る。



「さながら、普通の女子会に見えるね?」

「だな」



 休暇は不定期のため、ウィンタージュの従業員同士で都合がつく者同士が多い。おかげで、悠耶と咲乃はちょくちょくデートに行けているが。


 それでも旧来からの友人同士の集まりは都合がつきにくい時もある。晁斗もよくあることだ。


 だからか、従業員ではない新しい来訪者と交えた食事はことさら新鮮に見える。



「……暗く考えても前には進めない。私達には漣君のこともある。あちらは篤嗣達に任せて、こちらはこちらのことをすべきだろうね」

「ああ」

「だね」



 引退しても、まだまだ克己の方が所長歴が長かった分経験も貫禄もあるのは仕方ない。


 晁斗や悠耶も了承して食事を再開した。



「あ、そのネックレスって晁君が作ったのだよね?」

「ぶっ」



 突然の指摘に晁斗はスープをむせかけた。


 しかも気管支に入りかけたようで、盛大に咳を繰り返し周囲を大いに驚かせてしまうほどに。さすがの悠耶も気遣って背中をさすってくれた。



「あ、晁斗さん、大丈夫ですか?」



 漣の声が近い。


 少し顔を上げると、思った以上に近くて反射で体を引いてしまった。当然驚かせてしまい、少し目を丸くしていた。



「え、あ、いや……」

「大丈夫だって。漣ちゃんの顔が近過ぎてびっくりしただけだから」

「ゆ、悠耶!」

「誤解は早いうちに解いておかないと。漣ちゃんはまっすぐな子なんだから」

「まっすぐ?」

「んー、素直な子って意味かな? いいことだよ」



 漣の興味が逸れて助かった。だが、追求は免れそうにない。



「けど、それ結構時間かけて晁斗が作ったやつでしょ? 何、あげたの?」

「ま、まぁ……」



 雪の結晶に小さいながらもパワーストーンをはめ込んだトップのネックレス。


 パーツを一から作り上げたもので、晁斗も自信作だった。二個目はまだ製作していないが、売れればリピーターはつくだろうと思ったやつだ。


 それを漣は、一目見た途端釘付けになったかのように見つめ、ただでさえ大きな黒目をこれでもかと丸くした。最初は記憶が戻りかけたのかと思いきや、聞けば形が綺麗で可愛いと物凄い褒めちぎってくれたので、結局そのネックレスをあげた次第だ。メンテナンス方法もあとで教える予定ではいる。



「季節的にはあってるし、漣ちゃんの漢字にも水が入ってるからぴったりじゃないかしら?」

「咲乃、調べたの?」

「ああ言う難しい漢字を二人で決めたとはいえね? 受付表書くのちょっと大変だったんじゃなかったお祖父ちゃん?」

「まあ、ちょっとばかしはね」

「漣自身が決めたんだから、ちぃっとは我慢だろ」



 晁斗も最初はスマホに頼りがちになりそうだが、自分の名前も含めて書きづらい漢字なのだから覚えなくてはいけない。



「それもっすけど、漣ちゃんの続き聞かせてもらえないんすか? 待機中もオーナーはぐらかして漣ちゃんの基礎教養確認するばっかでしたもん!」

「は、そうなのか?」



 てっきり菜幸にはとうに伝えていたと思ったが、二度手間をとらせないためか。



「ああ、晁斗達抜きに話を進めてもね。菜幸君には盗み聞きしていたからお預けしていたんだよ」

「うぐっ」

「あー……納得」

「自業自得だよ、菜幸ちゃん。けど、年齢にはびっくりしたよね」

「ああ」



 まさか成人済みとは想定外だった。年の差も晁斗達とそこまで変わらないにしては小柄過ぎと思っていたから。



「あーら、これくらいの子だって多いわよ? このもちもちつやつやぷるぷるのお肌が羨ましいわ」

「そうっすよね! なんですっぴんでもこのハリが羨ましいっす!」

「ふぇ? え、え、え?」



 左右からつんつんぷにぷにと突かれたりつままれたりされて、漣はわたわたしてしまっていた。



「おいおい。咲乃は三つ違いだろ? 菜幸も一個じゃねぇか?」

「そう言う女心わかんないから晁君には彼女出来ないのよ!」

「そうっすよ!」

「え」



 そこまでかと悠耶に目配せしたら、肩をすくめながら苦笑いしていた。



「女性のスキンケアは生涯付き合う悩みだよ? 咲乃だって中学生からやり出しているくらいだったし、僕も付き合わされたから今こうだけど」

「……ああ。お前異常に肌キレイだもんな」



 かく言う晁斗も、身だしなみを整える程度に手入れはしているが。



「こらこら。漣ちゃんのことを褒めるのはひとまずとして、続きだったね? どこからだったかな?」

「年齢のところで菜幸ちゃんが割り込んで来たから、その後だね?」

「ゆ、悠耶先輩!」

「ああ、その辺りだったか。そうだね……基礎的な教養知識は半堕ちが来た以降も確認したが、かなりまばらだったよ。菜幸君以外は昨日実際に見て確認してくれた者もいるから、それはわかっているだろうけど」

「識字については、検査だとどうだった?」

「晁斗が確認してくれた通り、だいたい中学生の一般知識くらいだったね。他の教養知識についてもやってもらったが、そちらも似たものだったよ」



 だが、住宅街や名前と言った単語や認識の薄さが際立つのは不思議だ。重度に近い中症と言っていたからそこも関係があるのだろうか。



「守護無しについての検査も色々してみたの?」

「ああ。降臨させる詠唱をいくつか唱えさせてみても一切反応は無し。透化スコープで視ても同じだったようだよ」

「先天性か後天性かは?」

「どちらとも言えないようだと言っていたね。荘重(むらしげ)君も症例として実物を見るのは初めてだったようだから」

「そんなにもあったらまずいらしいからな?」



 燈が言っていた危険に巻き込まれるだけですまないかもしれない。そんなことは、万屋として絶対させない。



「ただ一点、不思議な能力を持っていることがわかったんだよ」

「能力?」

次回は12時〜

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