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5-6.不明多し

お待たせ致しましたー

「お兄ちゃん宿主(やどぬし)の人は?」

「伸しただけだ。邪気はいくらか繋がってるがこっちが先でいいだろ」

「雑過ぎますよ。俺が診ておきます」

「僕も行きますね」



 皆がてきぱきと動いて行くのに対して、晁斗(あさと)御子柴(みこしば)が眠らせた客とバイト達の様子を見に行くことにした。


 御子柴の術で起きることはそうそうないが、半堕(はんお)ちとは言え邪気を放っていた侵入者への恐怖は尋常じゃなかっただろう。晁斗達も慣れてはいても全くないわけじゃない。




(……(れん)には克爺(かつじい)達がどう説明したんだろうな)



 直接見ずとも、知ってしまったことは覆せない。


 だが、彼女は健常な状態ではないのだ。常人よりも常識どころか自身の記憶すらまばら過ぎる程欠如している。これからしばらく晁斗達と共にいることになるならば、万屋の仕事のことを知るのは避けられないが。



「大丈夫だったかい、晁斗君?」

「……兄貴」



 厨房で待機していたはずの(あかり)がいつの間にか来ていた。肩には彼の守護精が調理最中と同じくコックスーツを身につけている。



「晁斗の坊ならでーじょうぶだろぃ?」

「適当なこと言うなよ蛍嵐(けいらん)……」



 口調が特徴的なイタチ。鎌鼬を模した守護精だ。


 普段は万屋の情報収集担当か、主人の燈と厨房の担当をしている。



「つか、俺はもうガキじゃねぇんだが?」

「坊はいつまでも坊だろぃ。あっしから見りゃ、充分坊だかんな?」

「てめぇは兄貴と一緒だろうが……」



 守護精の精神年齢はともかく、実年齢は主人と等しく同じだ。空呀(くうが)も晁斗と同じで、従兄弟達も同学年であるのでそちらも同じく。


 なので、克己(かつき)岐笙(きしょう)はこの中では一番の古参だ。ただ岐笙は誕生してから性格も気質もほとんど変わってはいないそうだが。



「こら、蛍嵐。つっかかりに来たんじゃないんだからやめてあげなよ」

「燈は坊に甘いだろぃ」

「坊じゃねぇ!」

「蛍嵐も相変わらずだなぁ?」

「空呀もそうだろぃ。久々に守護具にまでなったそうじゃねぇか」

「見てたのか?」

「それより晁斗君。疲れてないかい? 守護具まで出しちゃってたし」

「まあ、全力出す前だったから大してねぇよ」



 多少の気疲れはあるが、そこまで無茶はしていない。


 実際守護具を装着した状態で戦闘をしていたら、それはまた別だっただろうが。



「甘く見ない方がいいよ。君はまだ守護具との憑依の回数が僕らより少ないからね。ひとまず、回復のお茶淹れてきたから飲みなよ」

「サンキュ」

「おっれもー!」



 待機している際に沸かしておいてくれたのだろう。飲みやすい用に冷やしておいてもくれていた。


 晁斗達はそれぞれグラス一杯を一気に飲み干してから息を吐く。味はごく普通の麦茶と差は大してないので飲みやすい。



「あー、生き返るー」

「空呀、おっさんくせぇぜ?」

「うっせ!」

「あ、あの……」

「ん?」



 誰だと首を動かしても姿がない。どこだと見渡しても誰も見つけてないでいたようだが、蛍嵐があっと声を上げた。



「あ、お前さんそのお姉さんの守護精かい?」



 そして注目が集まると、客の中に昨日万屋に来てくれた柘植(つげ) 奈央美(なおみ)がいるのに気づき、その守護精のライトがうさぎ耳を垂れさせながら見上げていた。



「は、はい。ライトと言います」

清司郎(せいしろう)君の術があったのによく寝てないね?」

「わ、私が司るのが眠りだからだと思います。主はお辛そうでしたので寝ていただいてもらいました」

「じゃあ、君は僕らに用があったの?」



 うさぎ耳の少女を模しているとは言えかなり豪胆な気質の持ち主だろう。


 だが、そうでなければ昨日までの邪気に犯されながらも耐え抜いてきた気力の説明がつかない。下位ながらも何かしらの特性は持っているものだから。


「は、はい。えと……そちらのお兄さんとその守護精様に改めて御礼が言えたらなと」

「俺達?」

「はい。私のような下位の守護精にあのような高度な浄化術をかけてとり払っていただき、ありがとうございました」

「おいおい。下位とか関係ねぇぜ? 俺は万屋の一員として依頼を受けただけだ。高位とかそう言うのは関係ないぞ?」

「そうだな」



 世間の中では未だ高位や下位などで偏見や差別意識を持つ者も少なくない。


 しかし、晁斗達万屋側ではそう言ったのは一切ないようにしている。仕事の受け入れにわざわざ高位も下位もないと克己からの言いつけもあったが、晁斗自身が特にそう意識してないのもあるからだ。



「あ、ありがとうございます」

「しっかし、今日も来てくれたんだな?」

「はい。主のお仕事が早く終わりましたので、お茶しに来た次第で」

「あっしが調理担当でぃ!」

「そうなんですか?」



 場がいくらか和んでいく。


 空呀もだが、蛍嵐も基本根がいい守護精だ。争いは好まない。それでも、守護精として生まれたからにはやらねばならないことは熟知している。


 だが、今ばかりはこう言った時も必要だろう。


 それと問題は数人残ったとは言え、客達をどう帰そうか。篤嗣(あつし)達捜査一課が来ているから、清司郎辺りが後で何かしらの処置をしてくれるだろうが。



「半堕ちになっていた男性は、特に異常は見られませんでしたよ」

「やあ、清司郎君」

「燈先輩、お疲れ様です」



 診断が終わったのか、御子柴が悠耶(ゆうや)を伴って戻ってきた。


 従兄弟は多少疲れていたが、燈から回復茶もらうと男らしく煽って一気飲みした。客に見せてやりたいくらいだった。



「浄化の方はまだ時間かかるみたいだね。多めにお茶作ってくるよ」

「お願いします。俺はあまり手伝えることは出来ませんが」

「御子柴さん、あの男は?」

「とりあえず検査してから篤嗣君の近くで眠らせていますよ。ついでに邪気を除去しなくてはいけないですからね」

「何が欲しいって思ったんでしょうね……」



 大抵の守護堕もだが、半堕ちも高位の守護精やその宿主の持つ霊力や神気を欲しがる傾向が強い。差別意識からによる劣等感から生じる強欲もあるそうだが、己と守護精のランクを底上げしようと目論む者もいるのだとか。


 大雑把にはそう見解されているが、未だ謎が多い。


 これに乗じて殺人を犯すことも少なくないのでより厄介なのだ。



「それに関しては、俺達捜査一課の仕事ですから。万屋にはわかり次第ご連絡は致しますよ」

「そうですね」

「あー、終わった!」



 とここで、篤嗣の気怠そうな大声が上がった。


 全員そちら見れば、邪気も特になく息遣いがお互い荒い宮境(みやさか)兄妹が床にへたり込んでいた。当然、悠耶は恋人の咲乃(さくの)の方へとすぐに駆け寄る。



「咲乃、無茶してない?」

「無茶はするわよ。人命かかっているし、刑罰を問うのはお兄ちゃん達の仕事だから」

「あー……君はそう言うよね」



 美男美女のツーショット。


 絵面だけは目の保養だ。身内とは言えこれはこれ。小さい頃から見慣れていても、彼らは美の誉れだ。晁斗にはないものなので多少羨ましく思えるが、ジェラシーをもったところで意味はない。

 数時間前に菜幸(なゆき)達が晁斗自身の美点を出してくれても、今日の接客の中で少しあっただけだからまだ自覚が持てないのだ。



「篤嗣君、守護精の容態は?」

「せーしろー、こりゃほとんど大したことないぞ。半堕ちでもなりかけ寸前だ」

「は?」

「篤兄どう言うことだ?」

「まあ、これ見ろ」



 と言って、彼の手の中にいるらしい守護精に目を向けたが、晁斗もだが御子柴は眼鏡がずり落ちそうになってしまう。



「気絶……?」

「してますね……?」



 しかも、目を回してながらと言う器用な状態で。


 化身としての姿も、エルフのような尖った耳以外人型と変わりなくいたって普通の下位か中位くらいのものだ。



(これの為に守護具憑依までした俺って……)



 判断ミスとも言おう。


 特に何もなく浄化作業だけで済んで幸いと思っておくしかない。団欒から抜けて来ていた空呀にも軽く肩を叩かれた。



「邪気噴射と宿主の男がああなったのかまでは不明だが、部長呼ぶまでもなく終わったな。あとは宿主連れて署で調べるしかねぇ」

「寝かせてしまった一般民は、所轄にお願いして護送するようにお願いはしておきましたよ。彼の方はどうしますか?」

「車で来てねぇから篠瑪(しののめ)で帰るしかないな。念の為に術重ねがけしといてくれ」

「わかりました」

「とりあえず、万屋一同はお疲れさん。よく持ち堪えてくれた」



 身内だが、普段の刑事らしい形式ばった賛辞を述べてから篤嗣と御子柴は半堕ちだったとされる男を連れて店から去って行った。


 眠らせた客やバイト達もその後目を覚ましてから順に所轄の者達によって自宅へと送迎されていく。


 ウィンタージュの方は急遽閉店することにして、正社員以外のバイト達には箝口令を敷いて帰らせた。

次回は10時ー

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