4-2.少女の身の置き場?
本日四話目
*・*・*
まさか、こんな少女を少年と勘違いしていた従兄弟達に咲乃は少々憤りを覚えた。
(服装は地味だけど、顔は可愛らしいじゃない)
記憶喪失という事で年齢ははっきりしないが、大体高校二年目くらい。肌は白くもちもちと柔らかそうで唇は乾燥してなく綺麗な桃色。
目や髪の色は典型的な茶系だが、髪質も悪くないし二重でぱっちりと大きい。鼻筋も通っていて眉毛も綺麗に整っている。どう見ても少女でしかないのに、晁斗の方は服の上から見た体型で判断したのだろう。
それだけで女じゃないと認識しないでほしいものだ。
「えーっと、僕服を脱いだ方がいいんですか?」
あとはこの一人称も原因だろう。意図する以外に女性が使うところを咲乃も聞いたことがないからだ。
「ええ。手をこうやってバツの字にさせて裾を掴んで、ぐいっと上にあげてみて?」
「はい」
咲乃の説明通りにパーカーを脱いでいくと、下から薄手のTシャツが出て来て、少女の胸の膨らみがはっきりと見えた。
晁斗はおそらくこれを見て、慌てて連絡を寄越して来たのだろう。下着を見ていたら、あとで殴りにいくが。
パーカーとシャツを脱ぐように言えば、高校生としてなら平均くらいの少女の体型が露わになり、咲乃は可愛らしいと思った。自分は成熟しているのでもう成長期の楽しみがないからだ。
「上の下着は背中にホックって金具があるけど、今日は取ってあげるわ」
「はい」
咲乃は全部脱ぎがしなかったが、身軽な格好になってから少女と風呂場に入って、少女に洗浴の方法を教え込むことになった。
*・*・*
「克己、いつから気づいてた?」
「ん? 晁斗があの子を店に連れて着てからかな」
「なんで言わなかったんだよ!」
「『僕』って呼ぶ以外至って普通に見えたけど……空呀まで勘違いしてたのかい?」
「俺は晁斗の守護精だ。共感なんて当たり前だろ?」
伝えなかったこの爺の守護精もだが、主人の歳に見合って老化しているから仕方ないのかどうか。
肝心の空呀の主人である晁斗はリビングに来てからソファでぐったりとしている。
ウィンタージュの両立に関しては幼い頃から叩き込まれてるので大して応えてないだろうが、十中八九あの少女についてだ。共感については一人の方がいいだろうと遮断しているが、俯いた具合と無言の有り様から大体は想像がつく。
(あいつ、あのなりなのに彼女いなかったからな……)
従兄妹の咲乃は身内過ぎて除外なのに加え、彼女には既に相手がいる。後輩兼経理の菜幸も気兼ねない付き合いが長いのでこれも除外。
自身の外見のことについては、まあ整ってる程度にしか認識してない。他者から見れば図体を除けば好印象を持てる例の笑顔で惹き込んでしまうのも、営業ツールとして当然としか思ってないのが厄介だ。まだ、あの少女には見せてやっていないが。
「ったく、自己嫌悪とかなってねぇで今後のこと考えろよ!」
「ってぇ!?」
正気に戻らせるために風を使って主人を小突いた。
実際は大して痛くないはずだが、急なことで驚いた方が大きかったのだろう。やっと顔を上げた晁斗は呆けた表情をしていた。
「今後のこと……?」
「だって、あいつ置くんだろ? この家に」
克己が構わないとウィンタージュで言っていたのだから。と、空呀は改めて晁斗に言えば、彼は瞬間湯沸かし器のように顔色を紅潮させていった。
「俺が居んのにいいのかよ!?」
「何か問題でも起こす気かい?」
「そうじゃねぇって! あいつ、自分が女ってわかってるようでわかってねぇだろ!?」
「あー……」
そこは空呀も黙って見ていた時から思っていた。
かと言って、本人が男と思っていたのかも微妙。どちらとも言いがたい感じでいたのだ。ヒトでも守護精でも性別はあるのにおかしなものだが。
「まさか、半陽体だったのかもしれないね?」
「そのケース臭いはしなかったぜ?」
「そうかい?」
先天性特有の異常体の臭いは、空呀には特に感じ取れていなかったので即座に否定した。
空呀のように神獣を模した守護精の能力は、個体差はあれど異常には敏感だ。
「けどまあ……作法については咲乃が今教えてるだろう。健忘症とちゃんと診断されても一時的に病院で預かれてせいぜいひと月がいいところだ。養護施設に預けるにもあれくらいの年頃じゃ規定年齢を上回っているだろうし」
「そりゃ、まぁ……」
克己の言うことは最もだ。事情は何であれ慈善施設と言うのもそこまで頼り切れないのが現実だ。晁斗も万屋の所長を若くして継いでるだから莫迦ではない。
「お前はもう少し自分に自信を持ちなさい。側に置いておくことでいくらか慣れるだろうし、暁美さんも数日すれば戻って来れるらしいから」
「……ばあちゃん、もう戻って来んの?」
「さっきLINEでやり取りしてたら、そう言っててね」
「だったらいいじゃん」
その数日をなんとかすれば、晁斗も肩の荷が降りることだろう。
「…………わーったよ」
考え込んでいた晁斗が渋々頷いた。
もちろん、空呀も出来るだけフォローしていく予定だがこの家には少女以外の男しかいないのが現状。彼女自身が不快に思わないかとか、身内以外の女性との接点が接客業中くらいしかないのがないのが晁斗の心配の種だろう。感覚共有をせずとも、産まれた時から共にいる空呀にも大体は理解出来る。
「何か深刻な話?」
「お、悠耶」
いいタイミングで出ていた悠耶が戻ってきた。
「晁斗があの嬢ちゃんうちに置くのに無茶苦茶渋ってたってとこだ」
「ああ、それはそうなるね?」
「なんで悠耶に言うんだよ!」
「隠しておくことでもねぇだろ?」
下手に隠して後で追求される方が面倒だからだ。
この男、見た目は晁君のと間逆の細身で優男に見えるが、怒らせればただではすまない程のキレっぷりとなるので空呀はトラウマを持っている。
「まあ、暁美さんが戻ってくるまではウィンタージュの方にも連れて行こうと思ってるよ。一人じゃ手持ち無沙汰だし、暇つぶしも出来ないからね」
「あとは守護無しの情報漏洩をしないためでしょ。万屋側の人間には伝えるにしても、店の方のバイト達にはどう言うの?」
「んー……縁戚の子を預かってる程度の情報なら虚言でもいいかな。高校生くらいに見えても訳ありならうちの子は文句言わないからね」
「じゃ、寝泊まりだけはここでいいね。晁斗、聞いてる?」
「…………もうどーでもしてくれ」
悠耶と克己の打ち合わせには口を挟めず、晁斗はまたソファでぐったりしていた。
「あら、何の話?」
「あ、終わった?」
咲乃の方もどうやら終わったらしい。
少女の姿がこちらからはよく見えないが、咲乃の影に隠れているのだろうか。
「ええ! ぴっかぴかに磨き上げたわ! さっ、皆に見せてあげましょう?」
「あ、はい」
どんな仕上がりになったのだろうか。近くで見るために空呀は机の上でを蹴って悠耶の方に飛び乗った。
次回は17時




