4-1.大きな勘違い
本日三話目
「大っきい……」
「そこそこ、資産はあったからね」
最後に下りてきた克己がにこやかに答えた。
「さ、明日も早い。君の服とかは晁斗の古いものでひとまず用意しておこう。晁斗、お風呂に入れてあげなさい」
「わーった」
「おふろ?」
「とりあえず、来いよ」
ずっと門の前で突っ立っているわけにはいかない。
少年の手を引いて玄関までやって来て、靴を脱ぐように促す。やり方の手本を見せれば、少年は一生懸命にスニーカーを脱ぎ出す。靴下に包まれた足は、靴のサイズから見ても少女に等しいくらい細くて小さい。
晁斗が規格外過ぎて目が肥えてるからか、物珍しく感じてしまうのだろう。
「靴は揃えて、俺の隣に置いとけ。風呂場とか案内するぞ」
「あ、はい」
とてとてとついてくる感じから、ひっつき虫の印象を受けるがうざったいとは思わない。むしろ、胸の奥が温かくなる気分だ。
「手洗いはここ、トイレ……は、わかるか?」
「そこは、なんでか覚えてます」
「んじゃ、それは説明省くな」
同性とは言え、不浄の始末の説明はいくらか気恥ずかしい。
廊下を歩きながら、リビングやダイニングの場所を教えていたが、部屋はどこを使わせようか悩んだ。ひとまずは、両親の部屋よりも客間を使わせるかと行き着いた。
「ここが風呂だ」
脱衣所の引き戸を開けて中に入るように促した。
続いて、浴室の扉も開けてやれば、少年が後ろからそろっと覗いてくる。
「大っきな桶?」
「浴槽な? ここに湯を溜めて、服とか全部脱いで体洗ってから浸かるんだ」
トイレはわかっていても、洗浴の知識はないようだ。
ここはひとつ、自分も一緒に入った方がいいかと思いつく。幸い、浴室は二人で入っても問題なく広い。
なので、晁斗は温度設定をぬるめにしてから自動運転で湯沸かしをつけた。
「これでいいかな?」
とここで、克己が脱衣所にやって来た。
手には晁斗の中学時代前後に着てた私服だ。それでも大きいだろうが、小学生の頃のだとさすがに着せるにもデザインが幼過ぎると思われて、その選択にしたようだ。
「多分大丈夫じゃね?」
「一度着てみた方がいいだろう。着替えはわかるかな?」
「え、っと、これを脱ぐんですよね?」
パーカーの裾をつまんで、少年は上へめくり出した。下には想像していたように無地のシャツを着込んでいたが、何か違和感を感じた。
腹部はひらぺったいのに、その上がいくらか膨らんでいるように見えたのだ。
「あれ? お前、まさか」
黙っていた空呀が晁斗の肩から少年の頭に飛び移った。少年は空呀のことは気にせずにパーカーを一生懸命脱ごうとしていたが。
「…………おい、脱ぐのやめろ」
「ふぇ?」
「どうしてだい?」
「克己はわざとだろ! 晁斗は勘違いしてっけど」
「おやおや、空呀は鋭いね」
「え、えーっと」
空呀と克己のやり取りに、晁斗は背中に汗が伝うのを感じた。
自分の勘違いと、先ほど見えた膨らみは嘘ではないのかと頭の中が渦巻き出したのだ。
とりあえず、
「……克爺、咲乃達はまだ事務所か?」
「多分、そうだろうね?」
「おい、服は下ろせ」
「あ、はい」
コートからスマホを取り出し、LIMEから従姉妹を見つけて速攻で無料通話を押した。
『……あら、晁君どうしたの?』
すぐ出てくれたのは非常にありがたい。
晁斗は手短に用件を伝えることにした。
「悪いが、悠耶も連れて鳳嬰でうちまで飛んで来てくれ!」
『え、どうかしたの?』
「詳しいことは来てから説明すっから、急いで来てくれ!」
『……わかったわ。悠君もちょうど終わったみたいだし、戸締まりしてから行くわ。それだけはさせてね?』
「ああ」
それくらいはしておかねばならないことだから当然だ。
通話を切ってから、服の乱れを整えてた少年は空呀を頭に乗せながら晁斗を見上げていた。
「それなんですか?」
そして、大して慌てずに疑問を口にする。
さっきまではごく普通に対応出来ていたのに、新事実を突きつけられてしまうと晁斗は口の中にツバが溜まっていく。
少年と思ってた存在が、まさか違っていたと言うことに。
(こ、こいつが『女』だったなんて……っ!?)
抱き上げた時の異常な身軽さも納得が出来た。
実年齢は低く見積もって高校生前後にしても、女性の基本体重や骨格の差を思えば痩せ型で十分通じる。
大体菜幸よりもう少し小柄な感じだ。あれを抱き上げたことは晁斗にはないが。
「? 僕変なこと聞きましたか?」
一人称自体が『僕』だったからと先入観も働いていたせいもあったのだろう。燈や篤嗣はどう捉えてたか定かじゃないが、燈は少なくとも見抜いているはず。
(……まだまだ修行足らず、ってとこだな)
そう思い込ませておかないと自分で納得出来そうにない。
「ああ、これは電話とか調べ物をしたりする機械でね? 年々これくらいにまで小さくなっているんだが、私のはこんな感じだけど」
克己はいつ気づいていたのか知らないが、さもありなんと言う感じで少年ーーいや、少女の質問に答えて自分のスマホを見せてやっていた。
この亀ジジイめと悪態をついてやりたいくらいだ。
少女は見せられた手のひらくらいの機械に目を輝かせた。
*・*・*
「晁君ー、来たわよー?」
「僕まで呼ぶなんてどうしたのさ?」
従兄妹二人がやって来てくれてから晁斗は急いで上がらせて、特に咲乃の背を押すように急かして脱衣所に連れていった。
「何があったんだい?」
「とにかく会って欲しい奴がいんだ!」
「誰?」
疑問に思われて当然だが、論より証拠と少女に会わせた。彼女は空呀と一緒に克己のスマホで簡単な調べ物をしている最中だった。
「おや、早かったね?」
「おじいちゃん? その子は?」
「どうしたのこの子?」
「悠耶、ぱっと見あいつは何に見える?」
「いきなりどうしたの? んー……まあ、女の子っぽい男の子?」
「悠君失礼よ? どう見ても女の子じゃない」
「え?」
「俺だけじゃなかった!」
勘違いしてたのが自分だけじゃなかったと、晁斗はひどく安心出来た。
「え、なーに? 晁君も男の子って勘違いしてたの?」
「髪の長さだけじゃ、こいつのこともあっからわかりにくいだろ! 服もああだし」
特定しにくいフード付きのパーカーとジーパンだけでは見分けしにくかったのだ。言い訳にしか聞こえないかもしれないが。
「わぁ、綺麗なお姉さん!」
ここで、ようやく少女が咲乃達のことに気づいて顔を上げた。
「あら、ありがとう。私は咲乃って言うの。お嬢さんは?」
「……僕、名前わかんないんです」
「え?」
「二人とも、驚くようだがこの子は記憶喪失でね。守護精も不明の守護無しのようなんだ」
「克爺、ほんと?」
悠耶も信じられなくて口を開けるくらいだ。そのほかの経緯も簡単に晁斗が説明すれば、二人の顔つきも変わった。
「なるほど。それは早期発見出来て良かったね」
「手荷物も何もなかったの?」
「ああ、身一つだったな」
少女にポケットの中へ手を入れてもらっても貴重品どころかゴミ一つとして出てこなかった。
「で、この子の性別を晁君は勘違いしたままお風呂に入れようとしたの?」
「着替えのサイズ確認させようとしただけだ! まだ入れてねぇ!!」
「ははは。まさかお嬢さんじゃないと思っていたとはね」
「克爺、わざと教えなかったんでしょ?」
「さてね?」
「はいはい。くーちゃんも込みで全員出て行って? 私がお風呂の説明しちゃうから」
と言って、さっさと女性以外追い出されようとしたが。
「咲乃。下着はさすがにないだろうし、叔母さんにお願いして僕が取りに行って来ようか?」
「あ、そうね。そこはお願い」
それは忘れていたし、晁斗の母親のじゃサイズもだが触ることなど出来ない。克己も義理の娘のを触ることなんて到底出来ないだろう。
悠耶は了承すると、早歩きで行ってしまった。そして、引き戸は閉められた。
次回は15時〜




