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3-5.守護無し?

本日二話目

「守護無し、って(あつ)兄マジか⁉︎」

「確証はないと言うか。記憶喪失の前に何かあって引き剥がされた事例も捨てがたいな。篠瑪(しののめ)岐笙きしょう。残滓すらこの子にはないのか?」



 篤嗣(あつし)が彼らにそう問いかければ、岐笙は首を伸ばして横に振り、篠瑪は肩をすくめるようにしていた。



「残念ながら、旦那。この子には微塵も見当たらねぇでさ」

「……糸雫(いとしずく)程もない」

「……そうか」

「岐笙でさえ探れないとは、本当に守護無しとも考えられるかもしれないな」

「ですが、オーナー。それでは無闇にこの子を表側で生活させられませんよ」

「兄貴、そこまでか?」



 意図的な守護無し以外の特例が見たことのない晁斗(あさと)には事の危険性がよく飲み込めないでいた。


 ここは経験の差と言うのは仕方ないので、珍しく慌てている(あかり)に問いかける。



「……今は滅多にないことだから事例としては少ないけど。もし先天性の守護無しじゃ差別意識を持たれるだけでなく、非合理な実験台として扱われる危険性があるんだ。僕もこんな若い子が守護無しでいるなんて初めてだけど、事実が知れ渡ってしまえばどうなるか……」



 最後の言葉を濁した辺りで、晁斗の背中にぞくっと悪寒が走った。かく言う少年本人は自覚がないので首を傾げていたが。



「しゅごなしって、そんなに怖いことなんですか?」

「さっき爺さんも言ってたが、守護精は自分の魂を分け合った存在……ない方が不自然なんだよ。よっぽどのことがない限り離れるとかいないなんて今の時代じゃほぼないに等しい」

「………………くーがさん達みたいなのが普通」



 自分に言い聞かせるように言ってはいるが、しっくりはこないみたいだ。無理もない。記憶自体が抜け落ちて、ごく当たり前の常識が欠如しているが故に判別もできてないに等しいのだから。



「しののめさんや……えと、こっちのしゅごせーさんは?」

「玄武って言う神様を模した岐笙と言うのだよ。亀みたいだけど、蛇が巻きついてるだろう?」

「しゅーっしゅー!」

「冷たいっ」



 言葉は発しないが、依然と自分の頭の上にいる岐笙の蛇が動いて少年の手に触れた途端、少年は驚いて声を上げた。嫌がってる風には特に見えない。



「これ、あまり驚かすでない」

「しゅー?」



 岐笙の諌めに、蛇は大人しく宿主に巻きついて動かなくなる。それを確認してから克己(かつき)は岐笙を少年の頭から下ろした。



「篤嗣の見解にほぼ間違いはない。これは思わぬ拾い物をしてしまったね、晁斗」

「『守護(おち)』の危険性はねぇよな、篤兄」

「警視庁や公安とかの考察じゃあ、堕の場合魂を分け与えたとされてる人間側も引きずり込むことが八割方だからな。この子の場合残滓すらも篠瑪達が辿れないようなら、ほぼ間違いなく守護無しだ」

「…………それならいい」



 闇に堕ちた『守護堕』は本当に手に負えない事態になる事もある。


 浄化出来ない事態にまで堕ち入れば、そこはもう公的機関ではない晁斗ら万屋の範疇外になるからだ。そうなってしまうと、逆に政府とは違う公的機関である篤嗣ら刑事の範疇内になってしまう。身内が汚れ仕事を必要以上担うなど、晁斗には耐えられない。


 本人は至って飄々としてるがそこは燈より少し年下とは言え年の功のせいか。



「つーわけで、万屋で保護した方が賢明だな!」

「は?」

「え?」

「えぇ!?」

「む」

「う?」

「まあ、いいだろうけど」



 突然の篤嗣の発案に、克己以外は思わず惚けた顔になってしまう。



「旦那、何故万屋に預けるんで?」



 篠瑪が首を傾げれば、篤嗣は口端を上げながらいい笑顔になった。



「刑事として言うのはなんだが、警察側じゃ先輩が危惧してる事態になり兼ねないからな」

「どこがだい?」

「俺の部署はまあまあっすけど、公安とか特攻っすね」



 詳しい事情はわからないが、警察側を完全に信用し切るのも考えものだと言うことだろう。篤嗣は万屋とのライフライン確保の為とかで所属しているようだが。



「ふむ。私としては一向に構わないよ?」



 克己は特に異論もなく岐笙を撫でているだけだった。









 *・*・*








「じゃあ、何かあったらいつでも連絡しろよ」

「わーった」



 あれから段取りが決まったので、少年を連れて晁斗や克己は自宅に帰ることになった。


 燈は万屋の仕事があるからと事務所の方へ行ってしまったので早々に別れた。篤嗣も車で早々に帰っていく。



「これが、くるま……」

「開けるから窓から一旦離れな?」

「あ、はい」



 興味津々にカーミラーにへばりついていた少年に声をかけて、晁斗はドアをリモコンキーで開けた。自動開閉する動きに、少年の瞳は更に輝きを増していく。



「すごいです!」

「中に乗りな? シートベルトとかはそのあと教える」

「お、お邪魔しまーす」



 入るよう促せば、少年は屈んでからシートに腰かけた。反対側には既に克己が座っている。その表情は普段孫達に向けるものと同じ慈しみが滲み出ている微笑みだ。



「んじゃ、シートベルトつけるからじっとしとけ」

「べると?」

「このまま乗っていると体が揺れて前に倒れたりとか、事故の際に身を守れないからね? 体を固定するものだよ」



 克己の言うことも勿論だが、現代社会でシートベルトの着用は年々まちまちだ。篤嗣の場合は刑事だから無着用など御法度。


 それに、交通事故は陸螺(くがら)市も少なくはない。死亡事故も同じく。


 それを理由とも違うが、晁斗は克己や両親の教育のおかげでシートベルトの着用は自然なことだと思っている。


 少年に少し覆い被さる形でつけてあげれば、何か花のような香りがして、一瞬首を傾いだ。似てなくはないが、どこかで同じような匂いを嗅いだ経験があった気がしたが思い出せない。


 その浮上した思いはすぐに消して、シートベルトの感触に目を輝かせてる少年を見ると、自分の幼い頃を見ているようで苦笑が溢れた。



「暴れるんじゃないぞ?」

「はい!」

「晁斗ー? まだかー?」



 空呀は守護精なので物質を基本すり抜けられる故に、既に助手席に座り込んでいた。岐笙の方は用向きがない場合、基本的に克己の中で待機していることが多い。



「ああ、今行く」



 運転は当然若い晁斗が担う。


 徒歩で来れなくない距離だが、やはり年には勝てない克己を気遣っての配慮だ。


 調子が良い時は本人の希望で徒歩通勤させるが、晁斗は念の為を思って車通勤している。昼過ぎの依頼に関しては、急を要す事態であったので。



「克爺。なんで昼の依頼経由させてまで俺にさせたんだ?」



 エンジンをふかして動き出してから、晁斗は克己に質問した。少年は小さく声を上げたが、すぐに窓の外の興味を持ったようだった。



「ん? 市役所のことかい?」

(もく)属性の空呀と相性が微妙なのに、なんでまた俺指名にさせたんだ?」

「経験を積ませるためかな」

「やっぱか」



 大体がそう言った克己の思いつきで、所長を継ぐ以前から本人の思いつきで孫達に仕事を振り分けることが多い。悠耶(ゆうや)咲乃(さくの)にも指名はあるが、ほとんどの場合長男の息子である晁斗が多い。



「まあ、出来なくはなかったしな!」



 空呀は腹がいっぱいで機嫌がいいのか、多少渋っていた依頼なのに掌を返すようだった。帰ったら、秘蔵のジェラートは抜きにして少年に食べさせてあげようと決めた。


 会話はそこまでにして運転に集中して、安全運転で帰路を辿る。少年はもっとはしゃぐかと思いきや、バックミラーで確認しても移り変わる景色に夢中になっているだけで無言。


 昼間の方がもっと楽しいだろうにと、休みの日にはドライブに連れて行ってやりたい気持ちが芽生えた。

 と同時に、もう熊谷(くまがい)宅に到着するところだった。



「っと。おい、危ないから前向きな?」

「え?」

「着いたんだよ」

「わ、はい!」



 ミラー越しに少年は慌てて正面を向いてじっとする姿勢になった。


 そこまで一生懸命にならなくてもと、彼以外笑いが込み上がるがなんとか堪えた。


 駐車場に停めて、再び少年を下ろすのに後部座席側の扉に回れば、何故か少年は氷のように固まっていて隣の克己が苦笑しながらもシートベルトを外してやっていた。



「どうしたんだ?」

「子供はこうなるんだよ。さ、外したから晁斗の方から降りなさい」

「は、はい!」



 克己の言う意味はよくわからなかったが、少年はなんとか這いずり出るように降りて、おぼつかない足取りで地面に立った。



「おうち……?」

「そ。ここが俺や克爺の住んでる家な?」

「俺もだぜー!」



 空呀が車体からすり抜けてぴょんと晁斗の肩に飛び乗った。


 目の前には、立派な二世帯住居の木造建築が建っていたのだった。

次回は12時にー

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