0.プロローグ
ノベプラで再開させたのを、こちらでも掲載することにしましたー
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男はまだ信じられなかった。
目の前の、黒ずくめの少女か少年かの背丈しかない、どう見ても怪しさ満載の人物が。自分が探し求めてた願いを叶えてくれる人物とは到底思えなかった。
男は一応社会人数年目の大人の部類ではあるから分別はつくが、目の前の人物はいくら規格外に見えたとしても中学生くらいの身長しかない。
だが、男が伝手で得た紙を渡せば、見えていた幼い口元がにんまりと弧を描いた。
「……これを手に入れたと言うことは、僕に依頼したいということでいい?」
一人称を男のようにしているが、女か。しかも敬語もなく、いきなりタメ口調で話しかけてきたが、男は気にするのをやめて頷いた。目の前の人物の人となりなどどうでもいい。男は、願いがあってこの人物に会いにきたのだから。
頷くと、その人物は益々口元を緩めた。
「わかったよ。身なりから察するに、仕事? 恋? どちら? それとも違う?」
「……後者の方だ」
「若いもんね〜? あ、若さは関係ないか?」
ケタケタ笑いながら聞く姿勢に少し腹は立ったが、叶えてくれるのであれば否は問えない。
男はもう一度頷くと、黒ずくめの人物は男が持ってきた紙を口元に当ててふふっと蠱惑的な笑い声を漏らした。
「いいよ。これを持ってきたから、正式な依頼だ。受けてあげる」
「本当か!?」
「うん。で、恋でもお兄さんはなーに? まじない? 振り向いて欲しいために術で仕掛ける?」
「…………後者を頼む」
「いいよー。じゃ、段階踏んで術かけるのにも、お兄さんの協力が必要だから、これ渡してきてー?」
と言って、どこからか出してきたのは見た目は女性が好みやすいドロップ型の携帯ストラップ。
今はスマホが主流なのでつける習慣は減ったが、携帯カバーの穴に通して使う人間も多い。男の意中の相手もちょうどその部類だった。
受け取ると、黒ずくめの人物はまたくすくす笑いながら後ろに下がっていく。
「次の段階は、お兄さんの好きな相手がそれを受け取ってから。接触はこっちから動くから、お兄さんは探さないでね? 自分で言うのもなんだけど、違法だし?」
「あ、ああ……」
そうして、黒ずくめの人物は闇に溶け込むようにして消えてしまった。
男は、潰さないようにストラップをハンカチに包んでコートの内ポケットに入れてそこから立ち去ることにした。
ビル街の端の端で、違法の妖術使いに依頼してたと誰かに知られでもしたら、会社をクビになるなら可愛い方。悪くて、禁固刑になる可能性が高くなるからだった。
「……絶対に、振り向かせてみせる。柘植さん!」
その決意は固く、絶対成就させる気でいたのだった。
次回は正午に