8.残党狩り
「おらああああっ!」
『暴走する恐怖』のメンバーが剣や斧、棍棒を僕に向かって振り回す。
……ブルーブリッツスーツのオートカウンターシステムで武器が破壊されてしまう。やはり痛みは感じない。
「なにぃ!」
「武器が壊れただと⁉」
「テメエなにしやがった!」
『暴走する恐怖』の冒険者たちは次々とそれぞれの武器を考えもなしにブルーブリッツスーツにぶつけ、壊されていく。
「ええい! なら魔法だ!」
激しい炎が、氷の嵐が、雷の雨が僕に襲い掛かる。
しかしブルーブリッツスーツのハンドバリアシステムがそれらをすべて防ぎきる。
昨日の晩、同じような光景を見たような気がする。
「くそっ! こうなったら爆炎魔法でこのクソギルドごと吹き飛ばしてやる!」
「みんな、魔力を集結しろ!」
昨日の晩と似たような展開になった。
ギルド内の冒険者たちが騒ぎ出す。
「やべえぞ! 集団爆炎魔法だ!」
「いやでも、ブルーブリッツがいるから大丈夫だろ?」
「そうだな。やっちまえ、ブルーブリッツ!」
ギルド内の冒険者たちから、ブルーブリッツに応援の声が飛んでくる。
昨日の活躍を受けてだろうか? ちょっと嬉しいかも……
「全てを吹き飛ばす爆炎よ!」
「我らが魔力を吸い……」
「大いなる嵐となりたまえ!」
『暴走する恐怖』の残党を中心に巨大な火の玉が出現する。火の玉はだんだん大きくなっていく。
指名手配の『暴走する恐怖』の面々なら、ここで武器を使っても問題ないよな、たぶん。
僕はブルーマグナムを抜いた。
<リミッター・オフ>
<フルドライブ・チャージ>
ブルーマグナムのリミッターを解除し、ブリッツコマンダーを操作してスーツのMEドライブをフル稼働させる。エネルギーをブルーマグナムにチャージする。
弾の種類をレーザーから消火弾に切り替える。
「死ねえっ!」
爆炎魔法が放たれる。今だっ!
「マグナム・ファイナルシュート!」
エネルギーを増幅させた消火弾を火の玉にぶつける。火の玉は一瞬で掻き消えた。
消火完了! あ、技名に「イレース」入れるの忘れていた……
「に、逃げろ!」
武器を壊され、魔力も枯渇し、戦う手段をなくした『暴走する恐怖』の面々が逃げ出す。
しかしここは冒険者ギルド。目の前に戦えない賞金首が大勢いて、何もしないわけがない。
「逃がすな!」
「生け捕りだ!」
たまたま冒険者ギルドにたむろしていた冒険者たちによって、『暴走する恐怖』の残党たちは次々と捕らえられていく。
今がチャンスだ。
僕はこの混乱に乗じて、トイレの個室の中に逃げ込んだ。よかった、昨晩変身前に置いていた荷物はまだ残っている。
「電装解除」
左腕のブリッツコマンダーを操作し、変身を解除。山田仁兵衛の姿に戻った。
「よし!」
ブリッツコマンダーをリュックの中に入れ、剣を持ち、普通の冒険者の恰好で僕はトイレを出た。
冒険者ギルド内はまだ混乱していた。僕は騒動を横目に、何事もなかったかのように2階の宿に上がろうとする。
「あ、あの、すみません!」
その時、後ろから声をかけられた。
旅の商人の少女だ。バレていないよな?
「はい、なんでしょう?」
「ブルーブリッツさんを見ていませんか?」
しまった、彼女から白金貨を受け取るの忘れていた。
山田仁兵衛の状態で受け取るわけにもいかないしなあ。
「ああ、さっきトイレの窓から外に出ていくのを見ました」
「トイレの窓⁉ そうですか……ありがとうございます」
少女はそう言って、外に出ていった。
嘘ついてごめんなさい……
冒険者ギルド2階の安宿は、狭い個室になっている。窓はなく、トイレもお風呂もついていない、ベッドと小さな机があるだけの簡素な造りだ。
「ふう……」
小さなベッドに寝転んで、僕はため息をついた。昨日からなんかいろいろあったなあ……
初めての戦い……恐怖しかなかった。ゴブリンの群れとの命のやり取りの恐ろしさ、ブルーブリッツシステムの恐ろしさ。でも『暴走する恐怖』との2回の戦いではその恐怖感も徐々に薄まっていったような気がする……それも恐ろしい。
さらに『暴走する恐怖』との2回目の戦いでは、武器を抜くことをためらわなかった。最初は真面目にルールに従って武器を抜くことをためらっていたのに、たがが外れてしまった。
このまま僕はおもちゃを使うみたいに武器を向け、人を殺すことも厭わないような戦闘マシンのようになってしまうのか……?
色々考えながら、リュックサックからマスタータブレットを取り出す。ブルーブリッツシステムのすべてをコントロールできるタブレット端末だ。今回の戦いで気になったところを修正していく。うっかり人を殺さないように、対人戦設定もいれておこう。
「僕は何がしたいんだろう……」
半年前、学校の自分のクラスと隣のクラスの人間たちはまとめてこの異世界に召喚された。気が付くと教室からお城にいた。アルコ王国の王様の主導で、神官や魔法使いたちによって召還されたのだ。
この異世界は、魔王軍の脅威にさらされているらしい。
召喚された僕らの中から、『勇者』『聖女』『賢者』『武神』の能力を持った者たちが選ばれた。彼らを中心に、戦う能力を持った者たちは各地に現れた魔王軍に戦いを挑み、、勝利していった。
一方、戦う力を持たなかった僕らは肩身の狭い思いをした。相田作太郎なんかは勉強して強い武器を作れるようになっていったんだけど……まあいいや。
いろいろあって、僕は相田作太郎が作ったブルーブリッツシステムを持って王城を飛び出し、みんなから離れることにした。
そしてこのバリの街にたどり着いた。
「目的もなんもないなあ……」
魔王軍との戦いは、勇者である近藤雅也君たちに任せておけばいいだろう。
護身用としてブルーブリッツシステムを持ち出したけど、護身用としては強力すぎる。城の中に引きこもっていてこの世界の魔物の強さを知らなかったのが悪いと言われればそれまでだけど。
ブルーブリッツがあれば冒険者として生きていくのは楽勝だ。だが、こんなオーバーテクノロジーを濫用すれば、敵を作るリスクも大きい。
結局、今の僕は、目的はないけどリスクを背負った状態に他ならない。
「どうしよう……」
近藤君たちが聖なる剣を手に入れ、魔王軍を倒すのは時間の問題だろう。そうすれば元の世界に帰ることができる。それまで何をして過ごすのか、このブルーブリッツを持った状態で……
「ん……?」
マスタータブレットに通知が入る。ライトニングベースのレーダーが何かを察知したようだ。
強力なエネルギー反応、闇の魔力だ。発生地点はバリの街から10km。闇の魔力が渦巻くようにして発生している。
いわゆる『闇の渦』だ。
魔王軍の出現――魔王が呼び出す闇の魔物たちが出現する予兆である可能性が高い。
エネルギーが臨界に達するのは、推測では……明日の夜⁉
ギルドからもらったバリの周囲の地図とマスタータブレットのマップを照合する。
『闇の渦』の発生地点の近くに、小さな村があった。
まずいな……
村に避難命令は……出ていないだろうな。人口が少ない地域だし……
魔王軍を構成する闇の魔物はこの世界を脅かす脅威だ。闇の魔物に普通の武器は効かない。魔法が付与してある武器、できれば聖なる加護を得た武器でないとダメージを与えるのは難しい。
闇の魔物は全てを破壊し、支配する。
しかし、この規模の小さな『闇の渦』の発生は日常茶飯事だ。被害範囲もこの小さな村だけになるだろう。より巨大な『闇の渦』の対処でいっぱいいっぱいな国や貴族は絶対に対処してくれない……
とにかく、次の行動は決まった。
大量出現する闇の魔物を倒すぞ!
僕は部屋を飛び出した。