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6.生け捕り

 僕は……ブルーブリッツは動けないでいた。動けば、僕も悪者になってしまう。

 

 「死ねええええええ!」


 『暴走する恐怖』の不良冒険者が剣を抜いて僕に……ブルーブリッツに斬りかかる。

 は、速い! 防御が間に合わない!

 不良冒険者の剣がブルーブリッツの輝く鎧を切り裂く!

 ……なんてことは当然、あるわけがなく。


 「お、折れた……⁉」


 ブルーブリッツスーツの装甲に備え付けられたオートカウンターシステムが発動したのだろう。不良冒険者の剣はぽっきりと折れてしまった。


 「マジで……⁉」

 「何もしないで剣を折っちまったぞ……!」

 「何者なんだブルーブリッツ……!」


 周囲の野次馬たちが騒ぎ出す。

 一歩リードした今がチャンスだ。


 「『暴走する恐怖』の皆さん。俺はこれ以上争いごとを続ける気はない! どうか武器を収めてくれ!」

 「う、うるせえ! 剣でダメなら魔法だ! 荒れ狂う炎よ、敵を焼き尽くせ!」


 説得失敗。炎魔法が僕に襲い掛かる!

 僕は右腕を前に突き出し、彼らが放った魔法の炎を受け止める。ハンドバリアシステムのおかげでこちらは無傷だ。熱さも感じない。


 「な、魔法も受け止めただと……!」

 「……これくらいの魔法なら、俺には効かない。あきらめてくれないか?」

 「野郎……ならこの建物ごと――!」


 しまった! 奴ら逆上して冒険者ギルドの建物ごと魔法で吹き飛ばすつもりか⁉


 「待ちなさい!」


 その時、ギルドの入り口から大きな、凛とした声がした。『暴走する恐怖』の面々の動きが止まる。

 そこにいたのは、仮面の姫騎士・ピンキーハートだった。


 「ピンキーハート! 来てくれたのか!」

 「待たせたわね、ブルーブリッツ。まあ、あんたなら大丈夫でしょうけど」


 ピンキーハートは仮面の隙間から覗いた目で僕に軽くウインクする。

 ちょっとカッコイイ……


 「てめえは……⁉」 

 「仮面の姫騎士・ピンキーハート! 『暴走する恐怖』の一同、あんたたちには逮捕状が出ているわ……Bクラス冒険者の権限において実力行使します!」


 いや、あいつら逮捕状出てたんかい!

 『暴走する恐怖』のリーダーの表情が歪む。

 ピンキーハートは剣を抜いて『暴走する恐怖』の連中にゆっくりと近づいていく。

 Bクラス以上の冒険者には、独自の捜査権と、逮捕状が出ている犯罪者への実力行使が許可されている。つまり、逮捕状が出ている『暴走する恐怖』に対して剣を向けても全く問題ない。

 ていうかピンキーハートってBクラスだったのか。大先輩じゃないか。


 「姫騎士だ……姫騎士様だ!」

 「行け! 『暴走する恐怖』なんかやっつけてしまえ!」


 周囲の冒険者たちもピンキーハートを応援する。

 ギルド内を支配していた暗い雰囲気は一気に明るい雰囲気に変化した。

 

 「『暴走する恐怖』……武器を捨てて投降しなさい。まあ、あなたたちの罪状なら死刑は確定でしょうけど」

 「分かってんじゃねえか……おい、姫騎士を生け捕りにしろ! 絶対に殺すな、俺たちに許しを請うまでいたぶってから八つ裂きにしてやる!」

 「やれるもんならやってみなさい……その前にその首、叩き落としてあげるわ!」


 え? ちょっと待って。

 ピンキーハートさん、もしかしてあの人たち皆殺しにするおつもりですか?

 気が付くと僕は無言でピンキーハートと『暴走する恐怖』の間に立っていた。


 「ちょっと、どうしたのよ、ブルーブリッツ?」

 「ピンキーハート、こいつらを殺す気か?」

 「そうだけど……」

 「そうか、ならば介入させてもらう。犯罪者の逮捕なら、俺が手を出しても大丈夫だな?」

 <リミッター・オフ>

 <フルドライブ・チャージ>


 僕はブルーマグナムのリミッターを解除し、ブリッツコマンダーを操作してスーツのMEドライブをフル稼働させる。エネルギーをブルーマグナムにチャージする。

 弾の種類をレーザーからスタンに切り替える。


 「なに? あんたがやるの?」

 「俺は人殺しが嫌いなんだ。悪いが俺にやらせてくれ」

 「あんた、何言ってんの?」


 ピンキーハートに説明している暇はない。『暴走する恐怖』の連中は今にも痺れを切らして、こちらに斬りかかろうとしている。 


 「……おい、話は済んだか? もう済んだな? 行くぞお!」


 『暴走する恐怖』が荒っぽく一斉に飛び掛かってくる。

 剣を構えるピンキーハートの動きを左手で制しつつ、右手でブルーマグナムを前に向ける。


 「うおおおおおおっ!」

 「マグナム・ファイナルストーム・スタン!」


 ブルーマグナムから放たれた無数のエネルギー・スタン弾が『暴走する恐怖』の不良権者たちに次々と命中。『暴走する恐怖』の連中は次々と動きを止め、糸の切れた操り人形のようにバタバタと床に倒れていく。

 この間、わずか3秒。


 「……殺したのよね?」

 「いや、死んでいない。気絶しているだけだ」

 

 たぶん。

 ピンキーハートがしゃがみ込んで床に突っ伏した『暴走する恐怖』のリーダーをつつく。

 スタン弾で気絶した不良冒険者たちは死んだように動かない。

 ……本当に死んでないよな?


 「……生け捕りか。甘いわね」

 「甘くて結構。俺はどんな犯罪者でも裁判にかけるべきだと考えている」

 「……文句のつけようがない正論だわ。本当に実行するのはあんたくらいでしょうけど」

 「俺だけでもいい」

 「そう……ふふっ、やっぱりあんたを冒険者にして正解だったわ」


 ピンキーハートが笑う。

 彼女の目に、僕は――ブルーブリッツはどう映っているのだろう?


 「やった……!」

 「やったのか……?」

 「『暴走する恐怖』が壊滅した!」


 周りで見ていた冒険者たちが騒ぎ出す。騒ぎはどんどん大きくなっていく。


 「よし、こいつらをとりあえず拘束しよう」

 「そうね。それから憲兵に差し出して――」

 「姫騎士!」

 「キラキラ鎧!」


 僕とピンキーハートの周りに酒場の冒険者たちが集まってくる。

 

 「ちょっと、何を……!」

 「ああ……諦めなさい、ブルーブリッツ。冒険者のさがよ……」


 酔っ払った冒険者たちが僕とピンキーハートを担ぎ上げる。

 戸惑う僕を尻目に、ピンキーハートはどこかあきらめたような目をしている。


 「姫騎士とキラキラ鎧に!」

 「乾杯!」


 僕とピンキーハートは席に座らせられると、料理とお酒が大量に運ばれてくる。

 

 「ブルーブリッツ、覚えておきなさい。騒ぐときは理由をつけて大いに騒ぐ……これが冒険者よ」

 「……はい。覚えておきます」


 覚悟を決めた僕は、口のマスクを外す。未成年の飲酒は日本では違法だが、この異世界では問題ない。

 その晩、僕とピンキーハートは記憶がなくなるまで飲ませ続けられ、食べさせ続けられ、そして大いに騒いだ。

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