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5.不良冒険者パーティー

 徒歩で初めにゴブリンを討伐しに行った森にたどり着くころには、もう夜になっていた。バイクサンダーを使ってもよかったな……

 ゴブリンの死体はまだ手つかずで転がっていた。

 僕は変身前に地面に置いたリュックの中から、ナイフと袋を取り出し、殺したゴブリンの耳を切り取って袋に入れていく。ゴブリンの場合は、この『耳』が討伐した証拠になる。


 「……っ! えいっ!」


 死体から耳だけ切り取る……思ったよりも精神的にくる。僕はただの作業だと思いこみながら、びくびく手を動かしていく。 


 「……よし、これで全部だな」


 時間をかけてようやくゴブリンに耳を回収し終わった僕は、変身を解くことにする。

 左腕のブリッツコマンダーのタッチパネルを操作し、『通常解除』のアイコンをタッチする。


 「電装解除」


 僕の全身を覆っていたブルーブリッツスーツが電子分解され、ブリッツコマンダーを介してレーザー転送で宇宙空間のライトニングベースに送られる。ブルーブリッツスーツはこの後ライトニングベースのコンピュータによって自動で整備・点検が行われる。


 「ふう……」


 変身を解き、僕は山田仁兵衛の姿に戻った。顔にかけたモニターゴーグルと左腕のブリッツコマンダーを外し、服の上に着ていたコネクトジャンパーを脱いでリュックサックの中に入れる。ゴブリンの耳を入れた袋も一緒にリュックサックの中に押し込む。


 「よし、帰るか」


 リュックサックと冒険者に見せかけるための鉄の剣を手にして、僕は立ち上がった。




 冒険者ギルドは、この世界では珍しい24時間営業だ。山田仁兵衛に戻った僕は夜間担当の受付嬢・エミリアさんにゴブリンの耳を詰め込んだ袋を手渡す。エミリアさんは奥の方で審査担当の人たちとゴブリンの耳を審査する。


 「お待たせしました。領主様の依頼書の通りの金額をお支払いします」


 エミリアさんからゴブリン討伐の報酬を受け取る。これで一週間は生活できるはずだ。


 「それにしてもゴブリン討伐にえらい時間がかかりましたね。もう深夜ですよ?」

 「あー、まあその、いろいろあったんで」


 エミリアさんの問いかけをうまくごまかす。

 一回街に戻って、別人として冒険者登録を済ませて、また森に入ってゴブリンの耳を回収していましたとは口が裂けても言えない。


 「なあ、ブルーブリッツって知っているか?」

 「知っているぜ。姫騎士のしゃべるゴーレムだろ?」

 「いや、人間らしいぞ? 冒険者登録までしたらしい」

 「あんなキラキラした鎧着てる人間とか頭おかしいぜ!」


 耳を澄ますと、併設された酒場の方からブルーブリッツのものと思しきうわさ話が聞こえてくる。話をまとめると、今のところブルーブリッツの認識は、『キラキラ光るゴーレム』と『キラキラ光る鎧を着たバカ』に二分している。どっちでもいいけど、僕としては都合がいい。


 「でもゴブリンの一人で全滅させたんだろ?」

 「いや、巣ごと焼き払ったらしいぜ?」

 「魔法使いか?」

 「いや、爆弾魔らしいぞ?」


 ……よからぬ情報も出回っているようだ。ていうか事実に尾ひれ背ひれがついてすごいことになっている。僕は銃でゴブリンを撃ちまくっただけなのに。

 別にこそこそするつもりはないのだが、ブルーブリッツの――秘密にしている自分の話が聞こえてくると何となくびくびくしてしまう。

 

 ブルーブリッツが僕だってバレないよね?


 びくびくしながらも僕は二階にある冒険者用の宿に向かおうとする。今日はもうゆっくり寝よう……


 「ねえ、君かわいいねえ~」

 「俺たちと良いことしない?」

 「や、やめてください!」


 と、思っていたのだが……うわあ、こんな絵にかいたような不良冒険者というかザコっぽい人というか……本当にいるんだ。嫌がる女の子を強引に酒に誘うガラの悪そうな冒険者集団。さすが異世界だ。


 「あ? 俺たちの酒が飲めねえっていうのか?」

 「剥いてやろうか? こいつなかなかの美人だぜ」

 「い、いや……やめてください……!」


 中学生くらいに見える、大きなコートを着た女の子。武器も携帯していないから、たぶん冒険者じゃない。ただの一般人だ。

 どうしよう……? さすがに助けに入った方が良いけど……僕が入ってもたぶん返り討ちに合うだけだよなあ……

 他の冒険者たちは遠巻きに眺めているが、助けに入る様子がない。よほど恐れられている連中なのだろうか?

 ……仕方がない。


 僕は冒険者ギルドのトイレの個室に入ると、左腕にブリッツコマンダーを装着。ミッションカードを装填。


 「電装!」

 <アウェイクン・ブルーブリッツ!>


 トイレの個室の中なので派手なポーズは取れない。小声で叫ぶと、僕の全身をブルーブリッツスーツが覆う。

 

 「よし!」


 山田仁兵衛からブルーブリッツになった僕は、トイレから酒場に飛び出した。


 「待て」


 不良冒険者たちの集団の前に飛び出る。

 不良冒険者たちが一斉に僕の方をにらみつける。


 「あ? なんだお前?」


 怖い怖い怖い! ゴブリンと同じくらい怖い!

 こいつら本当に人間かよ⁉


 「その子、嫌がっているじゃないか。放してやれ」

 「なんだと? 俺たちに口答えすんのか? ああ⁉」


 一瞬、不良冒険者が女の子の手を放す。

 お、ラッキー!


 「今だ! 逃げろ!」

 「はい!」


 僕の指示を察してくれた女の子はその場から走って逃げだす。


 「ありがとうございます!」


 僕の横を走り抜け、女の子は冒険者ギルドの建物の中から飛び出した。

 よし、女の子は危機を脱し、これにて一件落着……


 「……おい、よくも舐めた真似してくれたな?」

 「俺たち『暴走する恐怖』の恐ろしさを刻み付けてやらなきゃいけないなあ……!」


 あ、あれ?

 不良冒険者たちの標的が女の子から僕に変わった?

 ブルーブリッツの姿ならはったりくらいにはなると思ったのに!

 

 「お、おい……『暴走する恐怖』の連中が切れやがったぞ……」

 「け、怪我人が……いや死人が出るぞ!」


 ちょっと待って! もしかして『暴走する恐怖』って危険なパーティー⁉

 何? 僕そんなヤバい人たちに目を付けられたの⁉


 「おい、そこのキラキラ鎧……」

 「なんだ?」

 「お前、もしかして噂のブルーブリッツとやらか?」


 『暴走する恐怖』のリーダーっぽい人に聞かれる。

 どうする? ここでブルーブリッツだと名乗っておけば、大きくなった噂でなんとか争いを避けられるかも……

 僕は左手を前に突き出し、大きな声で名乗った。


 「機動装甲ブルーブリッツ!」


 酒場の冒険者たちからの失望するような大きなため息。

 え、僕何かやっちゃいましたか?


 「名乗っちゃったよ……」

 「ていうかこいつがブルーブリッツかよ……」

 「本当にキラキラ鎧のバカだ……」

 「頭の中までキラキラだったか……」


 ちょっと待って! 僕ブルーブリッツですよ! ゴブリンの巣を一人で焼き払ったブルーブリッツですよ! ちょっとくらい歓声があっても……


 「お前がブルーブリッツか……」

 「異質な新人、だったか?」

 「早めに潰さないとなあ……」  


 『暴走する恐怖』の連中が、剣や鎌といったそれぞれの武器を構える。

 僕は落ち着いた雰囲気を醸し出しながら、彼らに尋ねる。


 「……おい、ギルド内での武器の使用は厳禁じゃなかったのか?」

 「Dクラスの新人さんは知らないだろうなあ……俺たち『暴走する恐怖』には許されているんだよ!」

 「俺たちのまとう恐怖でな!」


 まずい、このままじゃギルド内でケンカが始まってしまう! 

 冒険者同士のケンカは両成敗がルール。武器を抜けば僕まで同罪だ。

 どうする……?

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