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2.姫騎士との出会い

 爆音を立てて、バイクサンダーは森の中を疾走する。パイロットサポートシステムのおかげで木々を軽々とかわし、僕はゴブリンの巣窟である洞窟にたどり着いた。


 「ここだな……」


 僕はバイクサンダーから降り、ヘルメットの暗視レーダーをオンにする。ブルーマグナムを構えて、洞窟の中に入る。レーダーでゴブリンの位置を確認しながら慎重に前に進む。

 ゴブリン達は奥の方、冒険者と思しき三人と固まっている。大きな動きはないが、ゴブリンの反応はゆっくりと減っていく。戦っているのだろうか。とにかく慎重に、なおかつ急いで向かわねばならない。

 

 「……」


 暗い洞窟の中を、暗視レーダーを頼りにどんどん奥へと進んでいく。すると、剣と剣がぶつかる金属音と、人の話し声を高感度音声レーダーが捉える。


 「姫騎士様だけでも逃げてください!」

 「ゴブリンを生んだ私たちは、もう生きていけません……」

 「ダメよ! 教会ならあなたたちを保護してくれる! こんな暗い所で死なせたりなんかしない!」


 『姫騎士』と呼ばれた冒険者と思しき女が一人、あとはゴブリンに攫われた女性が二人。そう見当を付けた僕は足を速める。三人とも冒険者だと思っていたが、冒険者はおそらく一人だけ。これはまずい。早くしないと本当に全滅してしまう。


 「しまった! 剣が……!」

 「姫騎士さん、逃げて!」

 「まだよ! まだ魔法で……!」


 何かが壊れる音がする。姫騎士の剣が折れたか。姫騎士は魔法で戦うようだが、このままでは倒れるのは時間の問題だ。研修で学んだ通りなら、いずれ姫騎士の魔力が尽きて、ゴブリンに犯された後に殺される。


 「スピードブースト!」

 <スピードブースト!>


 ブリッツコマンダーを操作して、スピードブーストを起動させる。1分間だけ、10倍のスピードで動ける機能だ。僕は大急ぎで洞窟の奥へ走る。

 

 「風の刃よ!」


 姫騎士が風の魔法を放つ。レーダー上でゴブリンの数は250体まで減っていた。 

 洞窟の奥に光が見えてくる。おそらく姫騎士の灯火の魔法だろう。


 「よし、着いた!」


 僕はようやく目的のゴブリンの集結する洞窟の奥にたどり着いた。

 部屋の中には250体のゴブリンと、70体のゴブリンの死体。奥にはシーツで体を包んだ二人の若い女性と、僕と同い年くらい――17歳くらいの『姫騎士』がいた。赤い仮面で目元を隠し、アニメのヒロインみたいなピンクの短いドレスの上に軽装の白い鎧を身に着けたブロンドの髪の少女だ。折れた剣を持たせれば確かに『姫騎士』だ。


 「ブルーマグナム!」


 ゴブリンの注意を引くため、僕はブルーマグナムでゴブリンの頭を撃ち抜いた。いきなり仲間が倒れ、一部のゴブリン達の注意が僕のほうに向く。同時に、奥にいる姫騎士と二人の民間人も僕に気付く。


 「救援? 助かった! 彼女たちを連れてここから逃げて!」

 「了解! その前にゴブリン達を一掃する!」

 <リミッター・オフ>

 <フルドライブ・チャージ>


 姫騎士の指示に僕はそう言うと、ブルーマグナムのリミッターを外し、ブリッツコマンダーを操作して、ブルーブリッツのMEドライブをフル稼働。瞬間的に発生させた膨大なエネルギーをブルーマグナムにチャージする。

 同時に、ライトニングベースのレーダーが残った大量のゴブリンをロックオンする。

 

 今は不思議と恐怖感はなかった。それよりも高揚感が僕の体を支配している。


 「一気に決める……マグナム・ファイナルストーム!」


 とっさに思いついた技名を特撮ヒーローみたいに叫び、ブルーマグナムの引き金を引く。

 大きな振動音とともに、ブルーマグナムの銃口から無数の青いレーザーが放たれる。

 無数のレーザーは、通常ではありえない曲がりくねった起動を描き、次々とゴブリンの頭を打ち抜いていく。ゴブリンたちは逃げる間もなくレーザーに貫かれ、絶命し地面に倒れていく。 

 

 この間、わずか3秒。


 「嘘……なにが起こったの……?」


 姫騎士はあっけにとられている。

 無理もない。ほぼ一瞬で、ゴブリンの大群が全滅してしまったのだから。

 実際僕もびっくりしている。わかってはいたけど、ブルーブリッツの持つ強大な破壊力に。


 「みなさん、大丈夫ですか?」


 僕は黒のメインゴーグルを上げてバトルシステムをオフにする。いちおう安全装置としてつけていてよかった。メインゴーグルの下には青い『目』のようなサブゴーグルが目元を隠しているため、正体がバレる心配はない。

 

 「助かったわ。ありがとう……あなた、人間なのよね?」


 姫騎士とゴブリンに攫われた被害者の女性二人に近づく僕に、姫騎士は感謝の言葉を口にしつつも警戒を崩さない。まあ、無理もないか。この世界の人間の基準からすれば、僕の、ブルーブリッツの見た目は完全に『体が細くてきらきら光るゴーレム』だ。


 「人間です。訳ありで正体をお見せすることはできませんが」

 「……まあ、私も似たようなものだから信じてあげるわ」


 そう言って姫騎士も自分の仮面を指さした。

 彼女も、自分の顔を知られたくない何らかの事情があるのだろう。

 被害者の女性二人は、ひどい状態だった。全身あざだらけで、憔悴しきっている。シーツで体を包んでいるが、服はボロボロで、ゴブリン達に何をされたのかは……考えたくない。


 「とにかく、今はこの被害者の二人を保護するのが先決でしょう」

 「そうね、手伝ってくれる? ええと……」


 そういえば名乗っていないな。

 

 「機動装甲ブルーブリッツ!」


 洞窟内に響く大きな声で、左手を顔の前に突き出しポーズを決めて名乗る。

 姫騎士たち三人はしばらく無反応だった。


 すごく恥ずかしい……


 「そ、そう……ブルーブリッツさんね。わかったわ、まずは外に出て、それから教会に保護を求めましょうか」

 「……はい」


 姫騎士はドン引きしていたが、すぐに何事もなかったように指示を出してくれた。

 なんかすごく申し訳なかった。


 「そうだ、外に出る前に……」


 姫騎士はドレスのポケットに手を突っ込み、中から女性用の服を取り出した。

 人形用のサイズじゃない。ちゃんと人が着れるサイズだ。

 聞いたことがある……アイテムボックスだ。簡単に言うと、某ネコ型ロボットのポケットのように、物を無限に収納できる魔法のアイテムだ。


 「ブルーブリッツさん、二人を着替えさせるから、ちょっと後ろ向いていてくれる?」

 「了解」


 被害者の女性二人を着替えさせるため、僕は部屋を出て後ろを向く。


 「もういいわよー!」


 しばらくして二人の着替えが終わると、僕らは姫騎士の先導のもと、洞窟を出た。

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