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1.機動装甲、初陣

 僕、山田仁兵衛(やまだじんべえ)がこの異世界に来て、半年。

 アルコ王国の辺境にある、バリの街に来て二週間。

 先日、冒険者ギルドの研修を受けて、無事冒険者となった僕は今、ギルドの依頼を受けてゴブリンが大量発生する森の中に来ていた。

 ゴブリンは単体では弱いが、集団になるとかなり手ごわい魔物だ。女性をさらい、強制的にはらませてゴブリンを生ませ、その数を増やす。憎むべき相手であり、油断せずに挑まなければならない。

 

 「来たな……」


 背負っていたリュックサックと鉄の剣を地面に置く。

 顔にかけた眼鏡のようなモニターゴーグル内に、木の陰に隠れたゴブリンの反応が点で表示される。数は15。対する僕の装備は、この国では一般的な布の服の上に着たコネクトジャンパーと、左腕に着けたブリッツコマンダー。

 はっきり言って心許ない。なので、そろそろ変身しないといけない。

 

 僕と同じくらいの身長のゴブリン達がゆっくりと動き出す。見ると、ゴブリン達は手にした棍棒や、どこで手に入れたのか古びた剣を装備している。

 そして、想像していたよりも醜く、おぞましい顔をしている。それが僕の恐怖感を煽り立てる。

 僕は震えながらもブリッツコマンダーにミッションカードを差し込み、ブリッツコマンダーをミッションモードにする。


 <ミッションモード>


 電子音声が鳴ったのを確認し、タッチパネルのカバーをスライドさせる。タッチパネルに表示された『ブルーブリッツ』のアイコンをタッチし、さらに表示された『通常電装』のサブアイコンをタッチする。サイレン音が鳴り響く。思ったよりうるさい。後で小さく調整しよう。

 

 ゴブリン達が一斉に飛び出て来る。

 

 「電装!」

 <アウェイクン・ブルーブリッツ!>


 本当は腕を大きく振り回してポーズを決めたかったがそうしている暇はない。カバーをスライドさせて閉じ、ブリッツスーツを起動させる。

 

 「はっ!」


 両腕を大きく広げる。

 宇宙空間にあるライトニングベースから、スーパーバトルスーツ・ブリッツスーツが電子分解されてブリッツコマンダーにレーザー転送される。ブリッツコマンダーに転送されたブリッツスーツはコネクトジャンパーのエネルギーラインに沿って瞬時に復元され、眩い青い光と共に僕の全身を覆う。

 着心地は悪くない。

 電装時の眩い光にゴブリン達がひるむ。

 僕の姿は一瞬で大きく変わっていた。

 つま先から頭のてっぺんまでを覆うのは、変身ヒーローのような青く輝く装甲。

 腰には二丁の銃。背中には二本の剣。

 顔をすっぽりと覆うのは不敵な黒いゴーグル……だと思いたい。なにせ自分の姿は見えないのだから。

 僕は青いマスクの中で大きく深呼吸する。驚き、警戒するゴブリンの群れを前に、左手を顔の前に突き出して僕は大きな声で名乗る。


 「機動装甲ブルーブリッツ!」


 ゴブリンの反応はない。思ったより恥ずかしいな……

 そのまましばらく静止していると、しびれを切らしたゴブリンが襲い掛かってきた。

 ここからが本番だ。僕にとっても、ブルーブリッツにとっても初めての戦いだ。

 

 「ウガアアアアアアッ!」

 「うわあっ!」


 ゴブリンが棍棒で殴りかかってくる。僕はとっさに右腕でガードする。

 痛みはなかった。軽い衝撃が伝わってくる。

 防御力は設計通りだ。


 「てやあっ!」


 僕はゴブリンの顔面を殴り飛ばす。

 ゴブリンは口から血を吐き出し、地面に崩れ落ちる。ゴブリンはそのまま動かない。

 

 やったのか……? 僕が……違う、ブルーブリッツが、殺した……命を奪った……

 

 その事実に、体が震えだす。

 でも、戦わなければ僕が死んでいた……ちがう、ブルーブリッツの防御力ならゴブリン程度の攻撃なんて全く受け付けない。僕がやったのは、ブルーブリッツを使ったゴブリンの一方的な虐殺……

 

 「ウガアアアアアアッ!」

 「ウガアッ! ウガアッ!」


 仲間を殺されたゴブリンたちが一斉に襲い掛かってくる。強い怒りを感じる。たぶん、気のせいじゃない。

 ブルーブリッツの戦闘サポートシステムが反応する。腰の銃・ブルーマグナムを抜き、ゴブリン達の頭に照準を合わせる。


 四方八方から迫りくる恐ろしいゴブリンの大群に、恐怖が膨れ上がる。


 「う、うわああああああ!」

 

 僕は思わずブルーマグナムの引き金を引いた。

 ブルーマグナムから放たれた青い超強力レーザーがゴブリンの額を撃ち抜く……殺す。

 ブルーマグナムの照準は次のゴブリンへ。僕はがむしゃらに引き金を引きまくる。サポートシステムはどんどんゴブリンに照準を向ける。それに合わせて僕は引き金を引く。頭を撃ち抜かれたゴブリン達は次々と地面に倒れていく……

 

 ……気が付くと、ゴブリンの群れは全滅していた。

 すごく長く感じたけど……記録では30秒しかかかっていない。


 「はあ……はあ……」


 恐怖で体の震えが止まらない。

 ゴブリンに対する恐怖じゃない……自分が身に纏う、ブルーブリッツシステムに対する恐怖だ。

 このシステムは悪魔のシステムだ。初めての実戦でそれがよく分かった。装着者をあらゆる危険から守り、目の前の敵を一方的に殺す……例え相手がドラゴンであっても。


 これを作った相田作太郎(そうださくたろう)は、正真正銘の悪魔だ。

 

 「これは……隠さなきゃいけないな……」


 ゴブリンの死体の真ん中で、僕は座り込む。

 ブルーブリッツシステム。こんなものを公にしたら、確実に敵を作る。ブルーブリッツはなるべく人目を避けて使用しなければならない。ブルーブリッツの正体が僕であることがバレるなんてもってのほかだ。


 「ん……?」


 ゴーグル内に警告音が鳴る。ライトニングベースのレーダーが何かを捉えた。

 ……この付近の洞窟に、300体のゴブリン。そしてそれに囲まれている人の反応が三つ。

 ゴブリンの大群を前にして人の反応は消えない。冒険者だろうか。


 ――どうする……?

 

 怖い。

 ブルーブリッツならば、ゴブリンの大群でも確実に全滅させられる。

 でも、僕は命を奪うことが怖くなっていた。例えそれが魔物であっても。命を奪う、という行為そのものが怖い。


 ――このまま逃げるか?


 何も見なかったことにしてこのまま街に帰る……それが一番いいかもしれない。

 僕はブルーブリッツの電装を解いて街に帰……ろうとして、気が付いてしまった。


 ――このまま逃げれば、あの三人は……


 死ぬ。

 間違いない。

 洞窟はゴブリンの巣窟だろう。なぜそこに三人がいたのかはわからないが、無数のゴブリン相手にたった三人で長く耐えられるとは思えない。


 気が付くと僕は戦闘バイク・バイクサンダーをレーザー転送していた。


 「……行くぞ!」

 

 僕はバイクにまたがり、パイロットサポートシステムを頼りに森の中をゴブリンの巣窟に向けて走り出した。

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