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沈黙の鉄仮面 2

何かが焼ける匂いがしたのは、間もなく血の道を抜けるという時であった。


コーエン将軍が目をこらした刹那、先頭の歩兵二百に出口から複数の火の塊が突っ込んできた。


火が勢いを増したらしく、前方がたちまち煙で見えなくなった。


前方が混乱状態にあるのは理解したが、ここに拘ると戦場全体を見失う。


コーエンは前方二百と後詰めの三百に伝令を飛ばし、自身は混乱した二百とそれ以外の三百の距離を開けるよう努めた。



なるべく並行に火の付いた荷車二十台を敵に突っ込ませた。


荷車には杭と藁が積んである。


崖の上から光の合図があったのを見たビッグは、更に荷車を少しずつ、並行に前進させて行く。


数分間、火のついた荷車で敵を押し続けると、中央の荷車数台が火の勢いで崩れ始めた。


崖の上から先程とは違う種類の光の合図があった。


『全員、武器と盾の準備だ!』


次に合図があれば、それは間違いなく突撃の合図である。


半年前はただの賊であった。


つまらない族の頭目として暴れ回り、きっといつか討伐されて死ぬ、そんなつまらない人生の終わりが来ると心のどこかで思っていた。


目の前の光景に、ビッグは全身を熱い何かが駆け巡るのを確かに感じていた。



各軍の距離感が上手く開かない。


先頭の二百が後退し続けているからだ。


先頭の二百はもっと後退したいらしいが、後方の二百も後詰めの三百も歩兵である。


そして、先頭の二百の後退を妨げているのは自分の騎兵である。


前方に何かが降ってきている。


先頭の二百の頭上に、人の頭程度の大きさの石が降っている。


数は多くないが、当たれば死ぬ。


崖の上に伏兵がいる。


敵の遊軍が崖の上にいるのか。


しかし、それは騎兵の筈である。


崖など登れる筈が無いが、今回は馬を下りたのだろうか。


騎馬の優位を棄ててまで、この程度の伏兵が必要なのか。


否、そもそも各隊の間隔が開かないということは自軍の五百が同じ速度で、もう一時間弱も後退しているということだ。


しかし、自分達の後退の妨げになるであろう後詰め三百と自軍が接触している気配が無い。


後方をうるさすぎるくらい伝令が駆け巡っている。


コーエンの思考を妨げるかのように、今度は自分達の騎兵目がけて石が降ってきた。


絡みつく思考を振りほどくようにコーエンは盾を鞍から外し、頭上を守るためにかざした。


前方がどよめいた。



崩れた荷車は棄て、他の荷車の前進は少しだけ続けた。


結果、荷車が作ったの火の列の中央だけ穴が開いた。


『全員突撃!一心不乱に斬りまくれ!』


ビッグが先頭に立ち、斧を振るいながら敵の歩兵に斬り込んだ。


火の荷車に押され、直前まで落石にさらされていた敵は態勢を整える間も無く、斬り込まれてえぐれていく。


背を見せて逃げようとする者は居なかったが、身を守るのに必死で戦うどころでは無いという敵ばかりである。


斧で敵を弾き飛ばしながら、ビッグは敵の騎兵を視線の端で捉えた。


深入りし過ぎて、いま相手にしている歩兵を突き抜けると、騎兵のいる場所まで到達してしまう。


展開仕切れてはいなくても騎兵は騎兵、やはり強い。


『突き抜けようとするな!目の前の連中を確実に潰していけ!』


敵の歩兵を率いている部隊長らしき男を見つけた。


その男の首だけはしっかり飛ばした。



騎馬後方の歩兵を血の道の入り口まで撤退するよう指示した。


しばらくして、後方の歩兵二百が一目散に元来た方向へ走り出した。


これで後ろとの間隔は開いた。


あとは騎馬を下げるだけである。


目の前の歩兵二百は助けようにも助けられない。


それなら、自分達が下がれるだけ下がって、二百が撤退し易くしてやることが、一人でも多く救う道だ。


頭上への落石攻撃はまだ続いているが、とにかく敵の攻勢が届かない箇所まで引いて陣形を整え再突入すれば、まだ勝てる。


コーエンは盾を掲げたまま、騎馬の最後方についた。


撤退する場合、そこが一番先頭になる。


部下は自分の背中を追うだけで良い。


騎馬に乗った偵察兵が十名ほどこちらに走ってくるのが見えた。


後詰め三百が放っていた偵察兵達のようだ。


後詰めで何かがあったのか。


いずれにせよ、後詰めの現在地が知れるとコーエンは思ってしまった。


背後が再びどよめいた。


敵の先鋒が投げ斧でこちらの騎馬を襲ったらしい。


コーエンは馬腹を蹴って偵察兵に近づいて行った。


偵察兵の一人が剣を抜いている。


違う、帝国軍の格好をしているが、奴は帝国軍ではない。


コーエンの首が宙を舞った。

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