屍族集結
イーリス公国領 勇者の砦から西に四十キロの平野
山脈を越えた屍族の軍勢が、次々と平野に現れ始めていた。
シャウールも、こちらが陣を張っているのを確認したはずである。
平野に入ったところで進軍を止め、軍勢をまとめている。
シャウールは用兵を知っている。
兄がそう言うからには、かなりの用兵巧者なのだろう。
ましてや大軍である。
シャウールを討つことで、侵攻が止まるのであれば勿論討ち取りたい。
しかし、兄の話を聞く限りでは、簡単に討たせてもらえそうにない。
この平野で迎え討つ初戦はものにする自信がある。
問題は、ここで討ち損ねた場合である。
シャウールは一旦退いて態勢を立て直した後、必ず猛攻をしかけてくる。
それも力技だけではなく、老獪な戦術をこれでもかと仕掛けてくる。
そうなれば厄介この上ない。
早いうちに二の手、三の手を打たなければならない。
自分の頭脳が、屍族を撃退する方法を捻り出すために稼働している。
苦境にあって、ジャンは高揚していた。
シャウールは珍しく疲れを感じていた。
生き物では無い自分が疲れるのかと、自分自身も思っているが、まとわりついている感覚は紛れもなく疲れであった。
向かう先の平野に五千程度の敵が集結している。
夜襲を仕掛けたかったが、広い平野で現在集結し終えている味方だけでも五万もの兵を、暗闇の中で操作するのは至難の技である。
前の戦いでは、砦や砦の一角だけを狙えば良かったが、広い平野というのがシャウールにとっては逆に難点であった。
眼球など無いが、何故か見える。
それでも、その視力には限界もあった。
異変を感じたのは夜更けだった。
逆に三方向から夜襲をかけられていた。
敵は此方の兵に直接油をかけ、火を放った。
次々に屍族の兵が燃えていく。
シャウールは即座に軍を後退させ始め、同時に主攻が三つのうちのどれなのか見極めようとしたが、敵の攻勢は三方向とも激しかった。




