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再建

シリウス帝国南部 幽霊城改めノートリアス城


スリーはアフレック探偵社を城内で再建すべく、日夜あれこれ考えていた。


少し前にアフレックが、この地方にいた忍び達を返り討ちにした。


その忍び達はおそらく帝国の諜報機関に所属していたはずだ。


ということは、帝国の諜報活動がこの南部においては壊滅している可能性が高い。


ウォルフにその話しをすると、帝国が新たに構築するであろう南部の諜報活動を迎撃することは可能かと聞かれた。


抑えることは無理だろうと答えた。


『忍びって連中は、軍団戦ではあまり役に立たないかもしれんが、単独で敵地に潜入して、戦い抜き、情報を届ける、撹乱するなんてことにかけては最適な人材だ。暗殺までこなせる。』


『なるほど。』


そう言いながら、ウォルフは暗殺にはあまり興味が無さそうだった。


自分達が仕掛けることに興味が無いからといって、自分自身が仕掛けられることにも無関心なのだろう。


頼もしいが、鈍感すぎるとも思える。


『質でも量でも負けるからといって、戦いようが無い訳では無いとも思うんだがな。』


『そうなのか?』


問われてみて、ますます呆気にとられた。


これまでの戦いで、情報や撹乱や心理戦を誰よりも巧みにやってのけた男は、そうなのかと言った張本人なのだ。


むしろ、スリー自身はウォルフの戦巧者ぶりからヒントを得たと言っても過言では無かった。


『地域に勝手に流れる噂や、地図にどうしても乗るような情報は守りに行かなくて良いはずだ。手が回らんし、頭数も予算も人材も必要だ。』


『同感だな。』


『地域一帯にこちらが流しておきたい話や、暗殺や破壊工作の防衛に徹するなら、忍びである必要はないかもしれない。』


『破壊工作対策はともかく、暗殺など標的になる者が居るのか?』


『鉄仮面ウォルフが一番暗殺の標的にはなるに決まってるじゃないか。』


やはり、こういうことにはウォルフは鈍感なのだなと思った。


結局、スリーが音頭を取りアフレック探偵社を再建するということになったのだが、言ってはみたものの、忍びを使わずに撹乱と防衛機能を上げるというのは難題だった。


アフレック探偵社なのだから、普通はアフレックと考えるべき問題だが、そもそもアルザリに居た時のアフレック探偵社の事務的な部分や、依頼に対するあれこれはスリーとエラがやっていたので、アフレック自身は戦闘以外のことがほぼわかっていない。


エラは心の病により言葉を失っているので、相談出来ない。


そもそも、エラが心の病になったのは逃避行の際に、敵を巻ききれずに昼夜を問わず襲撃され続けた不安と、凄惨な殺し合いを演じ続けた絶望からきている。


自分達、大人の責任なのだ。


やはり、自分が何とかすべきだろう。


スリーは再び構想を練り始めた。



イーリス公国とシリウス帝国の国境付近


かなりの早さでイーリス領まで入ってきた。


イーリスと幽霊城の間にも補給拠点は無いが、ウォルフが事前にカレンに連絡を済ませ、カレン商会が暫定的に補給地点を決めていたため、行軍速度を落とすことなくイーリス領に到達していた。


ジャン自身、行軍以外で五千規模を指揮したことは無いが、今回は四の五の言わずにやるしかない。


鉄仮面側からもビッグの五百が参戦してくれているし、ウォルフも都合が許せば更に誰か寄越すとは言ってくれている。


好き嫌いは別にしても、ガノンとかいう老将が軍師として付いてくれれば有り難かったが、ガノンはジョエキとかいう根暗な男と西に行ってしまった。


ビッグは先陣や搦手としては奮戦してくれるだろうが、ジャンとしてはやはり軍師的な副官が欲しかった。


国境手前で補給物資と、馬三百頭余りを受け取ったが、馬はビッグ宛でしかも騎馬向きの馬では無く農耕馬だった。


肉づきも、足腰も悪くなかったが、騎馬として使う場合は馬が相手の騎馬に怖気づくようでは使い物にならない。


補給された農耕馬は、闘争心が足りないように見えたが、ビッグは満足していた。


補給地点には、物資を積んだ荷車が多数置かれていたが、その荷車を農耕馬に引かせた。


行軍速度が上がり、予定より早く目的地に着くことが可能になった。


ビッグがジャンの近くまでやってきた。


『お前さんも不安だろう。五千なんて大軍を率いる上に、参謀が居ないんだからな。』


『正直言うと、そのとおりだ。ましてや死んでも勝たなきゃならん戦だ。戦略だの戦術だのに詳しい奴が一人か二人欲しいとこだ。』


『なるほどな。だがよ、今回はそもそも普通の戦略や戦術じゃ駄目なんだろ?』


首を傾げるジャンに、ビッグは続けた。


『今回の相手は屍族って連中なんだろ?食う必要も寝る必要も無い、首を刎ねても戦い続ける連中なんだよな?』


『ああ、厄介だ。』


『そんな連中に、人間同士の戦争の理屈が通用するかい?』


なるほど、言われてみれば確かにそうだ。


相手にこちらの理屈は通用しないし、こちらは相手を破壊するしかない。


屍族の兵士は食うことも、眠ることも、怯えることも、慌てることも無い。


それは何故かを考えた時、ジャンは少しわかった気がした。


この軍の指揮官も自分で、作戦を考えるのに自分以外の適任者は確かに居ない。


イーリス領のことを鉄仮面一党で最も知っているのは自分だけなのだ。


欲しいのは参謀よりも破壊力だ。


ウォルフは、一党の中で破壊力がある男と部隊を付けてくれていた。


『敵わんね、とても。』


『ん?なにがだ?』


『いや、ウォルフ殿にはとても敵わんよ。しっかり先々を見通しているようだ。』


ジャンは少し肩の荷が降りたのを感じた。



西側諸国北部 草原地帯


二人の老将は過去の戦について、酒を交えて長く語り合った。


ウベキが草原の蒼き虎と呼ばれていた時、シリウス共和国の国境を侵すと必ずガノンドルフが出てきた。


平地ではウベキが圧倒するが、平地以外ではガノンドルフが圧倒する。


幾度となく一進一退の戦いを繰り広げてきた。


ジョエキは夜が深くなる前に幕屋で休んでしまった。


『我が子ジョエキはどうだ?』


ガノンは逡巡したが、思いの通りを伝えることにした。


『馬術、騎射は申し分ない。剣はあと少しで一流の仲間入りだろうが、こればかりは場数だろう。性格はいまひとつ、わしは好きではない。』


『それが、草原の蒼き虎だ。』


『おや?蒼き虎はあんただろう?』


『いや、わしはもう蒼き虎には戻れん。家庭を持ち、一族を守るために、草原の覇者ではなく、覇者の下に付くことを選んだのだ。その選択を後悔したことは無いが、一度降りた者に蒼き虎たる資格は無い。』


『まるで人間そのものの否定じゃな。』


ガノンは椀に入った酒を飲み干した。


『そうだとも、人間性など持っていたら、蒼き虎にはなれん。』


ウベキがまっすぐガノンを見据えていた。


納得はしたくなかったが、何故か理解は出来た。


わかってしまった悔しさもあり、ガノンは自分の椀に自分で酒を注いだ。


『古の歴史に出てくる戦場の英雄や、王と呼ばれる連中は皆そうだろう。人間としてまともなら、何万人も死ぬような戦などしないし、戦があれば無力な民は必ず泣くのだ。夫が死に、妻や娘が汚され、幼子が踏み躙られたり、奴隷となる。人間としてまともなら、そんなことは出来んよ。』


ウベキの瞳は、よく澄んでいた。


汚れを知らぬそれとは違い、汚れを知り、それを遠ざけ、ようやく瞳の中に静寂を得たのだろう。


『怖くないのか?ジョエキが。』


ガノンの問いかけに、ウベキは静かに首を横に振った。


『アムレートとの戦で、ジョエキは自分が何者なのかを知ったのだろう。息子には息子の道がある。それがどれだけ非道な道でも、親は子供を憎めないものさ。』


家族とはそういうものか。


いつの間にか空になった椀に、ウベキが酒を注いできた。


そこに言葉は無かったが、ガノンはそれを飲み干すことで応えたつもりになれた。

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