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道程

シリウス帝国と西側諸国連合国境付近


出立してから十日以上経つが、口もきいていない。


何故、ウォルフがガノンと自分を行動させるのかジョエキは全く理解出来なかった。


ガノンとかいう老人、大昔シリウスが共和国だった頃は軍人だったというが、最近までは傭兵くずれだったという。


戦では使えるのだろうし、剣もかなり達者らしいが、そもそもジョエキのことを嫌っている。


老人一人に理解されないからといって、別に気にすることもないが、自分に対して悪意を感じるとなると話しは別だ。


ましてや二人旅である。


悪意が何かのきっかけで害意になるか、わかったものではない。


ガノンは自分と距離を多少とって、ついてきているが、それでも意地の悪い悪意は背中にひしひしと伝わる。


国境を間もなく越えようというところまで来た。


自分はともかく、ガノンは関所など通れるわけもないため、ウォルフの指示で過酷な荒野を進んで国境を越える。


食も水も節約しながら進んでいるが、途中で狩った獣をお互いに分け合うことすらしなかった。


あと数日で、家族に会える。


一段落したら戻ってきても良いと密かに言われてはいるが、三カ月足らずでの一時帰郷である。


叱られるかもしれない、いまはそれが憂鬱だった。



シリウス帝国東部山岳地帯 忍びの里


ドワーフの集落に送り届けたヒヨコが戻ってきて面会を求めてきた。


少し前とは雰囲気が違う。


ムラオサは首を傾げた。


『なんか、強くなってない?』


『そんなことはない。日々、自分の弱さを痛感するだけだ。』


『キャラ、変わりすぎだよね?』


『根っこは何も変わってない。ただ、少しおとなしく出来るようにはなった。』


『おとなしくって、子供か!』


ムラオサはゲラゲラと笑い転げたが、ヒヨコはまったく怒る様子が無い。


怒らせてからかおうと思ったが、まったく挑発に乗らないので、ムラオサはつまらないと言いながら座り直した。


傷がだいぶ癒えたサスケが、二人に茶を持ってきた。


茶をすすりながら、目を細くしてヒヨコをじっと見つめ、ムラオサは溜息をついて茶を置いた。


『魔術とはな。誰に教わった?』


『鳥人族の長老だ。四十日ほど色々やらされてな、少しだけ何かを掴んだ気はするが、まだまだ納得が出来ないのさ。』


『真面目だねぇ。』


そう言いながら、ムラオサはヒヨコが何のためにここに来たのか悟った。


『忍びの技は、お主には向いてないと思うぞ。なんちゅーか、全身からセンスを感じない。』


『それでも良い。』


『いや、あんたが良くてもねー、わしゃ良くないがな!老い先短いっちゅーのに、素質無い弟子に割く時間とか無いもん!』


『わかった。』


意外とあっさり引き下がったように見えたヒヨコだが、去り際にしっかり


『また来る。』


と言い残して去って行った。


魔術をあんな形で纏う者を初めて見た。


あれがあのヒヨコの魔術の全てだとすれば、本来の魔術の使い方とは違う。


比べてみれば、とても不便だが、とても便利でもあるだろう。


ムラオサは、しばらく考えてからサスケを呼んだ。



西側諸国連合領北部 草原地帯


さらに十日近くの道程を経た。


結局、二十日間程の間、一人旅なのか二人旅なのかはわからない日々を過ごした。


草原地帯に入ると、間もなく二十人程度の騎馬隊が向こうに見えた。


二十騎はすぐに姿を消したが、しばらく進むと千騎ばかりの騎馬隊が向かって来て、瞬く間に二人を包囲した。


その騎馬隊の中から数騎が進み出た。


先頭にジョエキの父ウベキと、兄リンケの姿があった。


『仮にも万人長の位を蹴るという無礼を犯して出奔しておきながら、無防備が過ぎるぞ、ジョエキ。』


リンケは厳しい顔つきでジョエキに近づいた。


『父上、兄上、少し状況が変わったのです。』


ジョエキはこれまでの経緯を淡々と語った。


アムレートの副官だった将軍を討ちはしたが、援軍を募るために来たという弟に、兄は冷ややかな視線を向けた。


『諸国連合は帝国に降ったようなものだ。その連合内から反帝国の兵士が出たとなれば、どんな制裁を受けると思う。帝国と諸国連合の侵攻を受ける可能性もあるのだぞ。』


父と兄の苦労はわかっている。


苦労するとわかっていて、自分は父と兄をこの草原に残して出奔したのだ。


援軍拒否は、当然といえば当然の話しだった。


『デベ族のウベキ、久しぶりじゃな。』


後ろの方に居たガノンが、突然父に声をかけた。


『誰だ、お前は?』


見知らぬ人間に対して、ウベキ自身が珍しく声をかけた。


『わしをお忘れか?昔、散々殺し合った仲では無いか。』


ウベキは目を細めて、しばし考えこんでいたが、やがて驚きと共に大きな声を出した。


『あんた、ガノンドルフ将軍か?』


『そうだ。あんたの騎馬隊と、わしの重装歩兵隊は何度もぶつかって容赦なく殺し合った。』


ジョエキは呆れかえって言葉を失った。


かつての仇敵であるなら、ここで切り刻まれても文句は言えない。


この老人は、騎馬民族の恨みの深さをわかっていないのだ。


そう思ったが、ジョエキの思いはウベキの笑い声に吹き飛ばされてしまった。


『懐かしいぞ、ガノンドルフ将軍!まさか、あんたがうちの次男とつるんでおるとは!不思議な巡り合わせだ!』


リンケは会話の内容を理解すると、怒髪天を突く勢いで怒鳴った。


『父上!この男が我らの同胞を散々殺した男だというなら、この場で斬り刻み、散っていった者達の無念をすすぐべきです!』


『リンケ、下手な芝居はもう良い。ガノンドルフ将軍は仇敵であり、宿敵であり、好敵手であった。優れた敵には、敬意を払うものだ。』


ウベキの号令がかかると、すぐにあちこちにテントが張られ、酒宴になった。



シリウス帝国東部山岳地帯 忍びの里


宿をとって休んでいたが、殺気を感じた。


部屋に面した廊下、床下、天井からも殺気が迫ってきていた。


殺気を少しだけ引きつけてから、突然壁を破って外に出た。


暗闇の中ではあったが、すぐに囲まれたことをピッキーは理解した。


おそらく数人一組だが、何人居るかは気配を消しているので確証が持てない。


ただ、少しずつ包囲を狭めて接近してきているのはわかる。


右手側に居た敵が刃物で突いてきた。


敢えて避けずに、その敵の懐に飛び込むと、相手の顎めがけて飛び上がり頭突きを入れた。


敵が倒れるのと同時に後ろからも来た。


ぎりぎりまで引き付けて腹に蹴りを入れ倒した。


左右から二人いっぺんに来たが、落ち着いて一人ずつ体当たりして倒した。


手練が来た。


小振りの剣で凄まじい数の斬撃を放って襲ってきたが、ピッキーは全て躱している。


横に対する斬撃が多いので後ろに一歩、また一歩と下がる。


突きが来た瞬間、頭突きを当てた。


普通であれば一撃必殺だったが、敵も堪えて立っている。


相手が後ろに下がろうとした刹那、飛び込んで懐に頭突きを入れた。


まだ堪えている。


敵が何かを投げてきたが、弾き飛ばして、今度は飛び込んで蹴りを入れた。


ついに敵が膝を付いた。


『このあたりで十分だろ。腕は見れたか?』


ピッキーの一言に反応して、背後の木からムラオサがヌッと現れた。


『手裏剣をどう躱した?』


ムラオサが地面に落ちていた星型の剃刀のようなものを拾いながら問いかけてきた。


手練の敵が投げてきた飛び道具だ。


『投げてみてくれ。見せたほうが早い。』


ピッキーが言い終わる前に、ムラオサが手裏剣を投げつけた。


手裏剣はピッキーの身体に触れる直前、その身体に弾き飛ばされるように飛んで行った。


『なるほど、盾か。』


『毎回上手くいくわけじゃない。タイミングと攻撃の箇所が一致すれば、なんとかなる。完璧には程遠い。』


魔術の中には、相手の攻撃に対して魔術の盾で防ぐ技法がある。


『忍びの技には向かんな。だが、一つの武術として応用の幅を広くする手伝いは出来るじゃろう。』


ムラオサは脳内でピッキーの戦いぶりを思い返していた。


相手の懐に飛び込む時、ピッキーは間違いなく飛んでいた。


それは忍び達の動きより、遥かに速かった。


不器用だが、器用。


不便だが、便利。


ピッキーは我流で、自分にしか使えない武術を開拓しようとしていた。

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