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謁見

シリウス帝国首都


オズワルドが討たれた。


早馬として駆けてきた百人隊長が、オズワルドの首をアムレートのもとに運んでいた。


百人隊長が元帥に会うことなど、普通では有り得ないことだが、アムレートは報せが届くや否や、自らその百人隊長のもとに駆けつけた。


百人隊長は不眠不休、食もまともに取らずに駆け続けてきて、既に命の危機があることは誰の目にも明らかだった。


やつれた百人隊長は無言で布に包まれたオズワルドの首級をアムレートに差し出すと、その場に倒れた。


『医者を呼べ!何人の医者を付けても構わん!金も幾らかかっても構わん!絶対にこの男を死なせるな!』


首級からは腐臭がすると思ったが、香料の匂いがしており、腐敗も思ったより進んでいなかった。


オズワルドの死に顔は、笑っていた。


アムレートは自らの邸宅の庭に、オズワルドの首級を埋葬した。


翌朝、アムレートはまだ帰還していないアーネストを除く四将軍を引き連れ、皇帝に謁見を申し込んだ。


跪いたまま待っていると、皇帝の代わりにオセローが出てきた。


『貴君の要件はわかっている。南部制圧を願い出に来たのだろう。』


『その通り!皇帝陛下のお許しを頂きたい!』


元帥に昇進したことで、アムレートとオセローは同格になっている。


しかし、アムレートがオセローに敬語を使わなかったのは、今が初めてである。


『皇帝陛下は体調が優れぬ。出直して参れ。』


『謁見せずとも許可は出せるはず。お許しだけ頂きたい!』


『アムレート元帥、少し無礼であろう。』


『茶番は沢山だ!』


アムレートが怒鳴りながら立ち上がった。


『先日の会議でも、明らかだったではないか!南部制圧は戦略上の急務であると!オズワルドが討たれた今、私を除いて南部を制圧出来る者が居るのか!』


『これはこれは』


オセローが深く溜息をついた。


『アムレート元帥は戦略を覚え、礼儀を忘れたと見える。』


『無礼ついでに言わせてもらおう!オセロー元帥、南部の制圧が遅れ、東部戦線も膠着しているのは、そもそも貴方の作戦が誤っているからだ!』


あまりに痛烈な面罵に、四将軍は汗が吹き出る思いがしたが、空気に圧されて四人とも立ち上がってしまった。


あまりに大きな足音が駆けてくる音がした。


リアスが巨大な身体で大急ぎで駆けてきたのだ。


『二人共、やめろ!お前達がぶつかってどうする!』


『おいおい、リアスが一番まともなことを言ってるじゃないか。』


別方向から、いつの間にかマクベスが現れた。


右側にリアス、左側にマクベス、前方にオセローが揃った状況で、四将軍は生きた心地すらしなくなってきたが、アムレートは一歩も引く気を見せない。


『少しだけ、話しをしようか。』


背後から声がした。


振り返ると、仮面の皇帝シリウスが立っていた。


謀反と呼ばれてもおかしくない状況で、四将軍はいっそ死にたいと思い始めている。


シリウス帝は全員分の椅子を持ってこさせたが、アムレートは座ろうとしない。


オセロー、リアス、そしてマクベスが異常な殺気を放った。


『お前が座らないと、私も座れないじゃないか。体調が良くはなくてな、立ち話は少しきついのだ。座って貰えると助かる。』


皇帝にここまで言わせてしまい、流石にばつが悪くなったのか、ようやくアムレートが椅子に座った。


アムレートは、先程よりは穏やかに、それでも臣下としてはやや勢いが強い調子で、自分に南部制圧の指揮を取らせて欲しいと願い出た。


『オズワルドの敵を討ちたいのであろう。』


皇帝の口から出た言葉に、アムレートがようやく黙った。


アムレートは、自分がいかに適任であるか、南部制圧の戦略的な利について皇帝に述べていたが、見え透いた本心は誰にも何も隠せていなかった。


『アムレート元帥に問うが、我が帝国にとって戦略的に最も重要な戦線は何処か?』


皇帝の質問に、アムレートは唇を噛んだ。


『そうだ、東部だ。』


答える前に皇帝が自ら答えを示した。


この子供扱いのようなやりとりが、無性に腹が立つことがある。


『アムレート元帥には東部戦線の指揮を執って欲しい。』


『東部戦線はオセロー元帥が』


『オズワルド将軍に妻子が居たというのは知っていたか?』


アムレートの反論は、思いもよらぬ一言で完全に勢いを殺されてしまった。


オズワルドに妻子が居るなど、聞いたことが無かった。


『籍は入れていないらしいが、昔交際していた女性との間に子供が居る。会うことはあまり無かったそうだが、オズワルドは母子に金を送り続けていた。』


オセローが語ると、何やら美談が脅迫にしか聞こえなくなる。


それより、オズワルドが自分に妻子の存在を隠していたのを知り、アムレートはますます憮然とした。


『籍を入れておらんが、オズワルドの妻子には恩給を支給しようと思っているのだ。』


『陛下もお人が悪い。恩給と東部戦線を』


『待て待て、それは違う。そこは勘違いするな。』


アムレートの反論に、皇帝が大慌てで弁解した。


『陛下、話す順番が拙すぎますな。今のはアムレートも誤解します。』


そう言ったマクベスは、もう笑いを震えながら堪えている。


『とにかく、オズワルドの妻子に恩給は出す。東部戦線はすぐに答えを出せとは言わんが、少しだけ考えてみてくれんか?』



皇帝シリウスの体調が芳しくないこともあり、アムレートも今日のところは引き下がった。


『オセロー、お前煽ったな。』


マクベスが声をかけたが、オセローは返事すらしなかった。


『俺はてっきり、オセローとアムレートが本気で喧嘩してるのかと思ったぜ。』


『少なくともアムレートは本気だったさ。オセローにため口だったからな。』


リアスは、うんうんと頷いている。


『で、あいつは東部戦線を引き受けると思うのかい、オセロー元帥?』


『引き受けるだろう。』


『乗り気じゃなかったように見えるんだが』


リアスは首を傾げたが、マクベスもオセローと同意見だった。


『そういえば、アムレートのやつは元帥府建築を辞退したらしいな。』


『必要ないと言い放った。アムレートの元帥府はアムレートが居る場所だそうだ。』


『機能的で良い。』


『そうも言ってられんのでな。とりあえず、皇帝陛下の希望で設立は進んでいる。』


『過保護だな、揃いも揃って。』


マクベスがまた吹き出している。


『アムレートの元帥府が設立されるのは、リーファ元帥の元帥府だそうだ。』


オセローの冷静過ぎる一言に、マクベスは何も言わなくなった。


『過保護だな、本当に。』


言ったのはリアスだった。



アムレートは邸宅に戻ると、オズワルドを埋葬した場所に大理石を立てた。


オズワルドの頭より少し大きいくらいの大理石だった。


その石の前に立ち、ぼんやりと夜を迎えた。


召使いがアムレートに来客を告げた。


来たのはオセローだった。


先に居間に入り、椅子に座ってからオセローを通すように告げた。


そっぽを向いたまま待った。


少しでも怒っていると見せたかったからだ。


オセローが入ってきた気配があったが、声をかけてこないので横目でオセローの居る方を見た。


アムレートはぎょっとした。


オセローが両手に山程書類を持って立っており、書類の高さでオセローの顔が半分以上見えなかった。


『置くところが欲しいのだが。』


『どこでもどうぞ。そんなもの、召使いに持たせれば良いではありませんか。』


『いや、機密書類なのでな。』


仕方なく、書類の半分をアムレート自身が受け取り、帝国の元帥二人で書類の山を書斎まで運んだ。


『なんです、これは?』


せっかく怒った自分を演出していたのに、予想外の展開でそれを台無しにされ、アムレートは少し悔しいと思った。


『東部戦線の情報だ。』


『これを全部読めと?』


アムレートは呆れを通り越しているが、オセローは至って真面目で、しかも普段の冷淡な表情を崩していない。


『まだ引き受けるとは言ってませんよ、私は。』


『これを読んでから決めるといい。七日もあれば読めるはずだ。』


『七日!やっぱり全部読めということじゃありませんか。』


『捉え方は任せる。邪魔をした。』


さっさと帰ろうとするオセローに、すっかり調子を狂わされた。


『お茶くらい飲んで行ったらどうです?』


『いや、諜報機関の会議がある。』


『待たせとけば良いでしょう、そんなの。』


応じる様子は無かったが、オセローがふと庭の大理石を見始めた。


『適任だったのだ、誰よりも。』


それだけ言うと、オセローは出ていった。


適任だったのだ、誰よりも。


間違いない、オズワルドは適任だった、誰よりも。


アムレートは書斎に入り、結局七日後に東部戦線の指揮官を拝命した。

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