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オズワルド3

投降して欲しいとは思ったが、投降するとは思っていなかったのだろう。


ウォルフもアフレックも、向かってきた二百に対して即座に迎撃し、瞬く間に乱戦となった。


互いに重装備同士のぶつかり合いである。


一撃当たっても死なないことが殆どで、剣の役割は斬ることではなく、相手を殴り倒す、弾き飛ばすような形になっている。


倒れた側は、重い甲冑のせいで直ぐには立ち上がれない。


とどめを刺したくても、すぐに別の敵と殴打合戦になる。


帝国軍の兵士は盾の使い方が上手く、乱戦の中でも数人一組で対応し、数で勝るこちらと互角に渡り合っていた。


敵の勢いが突然増し始めた。


一際目立つ大きな戦士が先陣に立ち、こちらの兵士をふっ飛ばしまくる。


あの戦士が、アムレートの傍らに居た男。


ジョエキは即座に矢を射た。


完璧な威力、完璧な軌道、完璧に狙いどころに飛んで行った。



勘だった。


兜と鼻から上が露出した箇所に矢が飛んできたが、盾で防いだ。


オズワルドはすぐに矢を射た者を探した。


自分だから防げたようなもので、敵の射手が味方の兵士を狙撃し始めたら防ぎようがない。


また矢が飛んできたが、今度は躱した。


想像以上に早い矢である。


味方の兵士の合間を縫って射てきている。


敵の兵士達の塊の中に、青い髪の男を見つけた。


野戦で会った青髪とは違うが、危険だ。


オズワルドは青髪に向かって突進した。


敵の兵士達がまとまって向かってきたが、弾き飛ばした。


そこにまた矢が来ることはわかっていた。


前腕で防いだが、矢が甲冑を貫いてきた。


それでも、骨は絶たれなかった。


射手に盾を投げつけた。


当たった、予想出来なかったのだろう。


この射手の首だけは刎ねる。


オズワルドは剣を構えて横に振り抜いた。


防がれた。


あの仮面の男だった。



矢を三度も躱され、防がれた。


そればかりか敵将が投げてきた盾が重すぎ、腕で防いだつもりが地面に押し倒されていた。


殺されかけたところにアフレックが飛んできた。


敵将の一撃を止めると、相手の胸板に飛び蹴りを

放ち、少しよろめかせた。


『立てるか?』


アフレックに声をかけられ、ジョエキはなんとか立ち上がった。


『ジョエキ、剣を使え。弓だけでは、次は討たれるぞ。』


無口なアフレックの忠告に、ジョエキは憮然としたかったが、余裕が無いことと、矢を防がれた失望から素直に剣を抜いた。


『俺が奴の首を取る。邪魔が入らないように頼む。』


そいつは俺の、と言いたかったが、アフレックは凄まじい速さで敵将に斬りかかっていた。



一振りの剣が何振りにも見える程に、やはりこの敵の攻撃は速かった。


たまに放ってくる蹴りも、鋭く重い。


細身に似合わず、出鱈目な膂力がある。


重装備のオズワルドに対して、仮面の男は甲冑など身に着けていなかった。


なのでますます速さに差がついた。


それでもオズワルドは冷静だった。


速く、鋭く、力のある敵が相手でも、分厚い甲冑を斬ることは出来ない。


それでも、押されてはいた。


無数に繰り出される攻撃は、ほとんどしっかり当たっていたし、胸板や頭部に飛び蹴りをくらうと、さすがにふらつく。


仮面の男の剣が折れた。


オズワルドはここぞとばかりに剣を横に大振りした。


間一髪で仮面の男にはかわされたが、その隙に盾を拾うことも出来た。


休む間もなく盾を前に構えて仮面の男めがけて突進した。


盾にぶつかった仮面の男は、それでもしばらく堪えていたが、ついにオズワルドの前進に弾き飛ばされた。


よろめく仮面の男に、オズワルドは追撃を加えることはしなかった。


そのまま突進し、鉄仮面一党が侵入してきた出入り口まで辿り着いて叫んだ。


『この先だ!この先にある地下通路から脱出しろ!急げ!』


帝国軍の精鋭達が凄まじい勢いで、オズワルドが確保した出入り口に殺到した。


一割ほどは戦死した様子だった。


百人隊長プッロも駆けてきた。


『将軍、お先に脱出を。ここは私が殿(しんがり)を務めますので。』


『いや、お前が先に行け。殿は俺だ。これは命令だ。』


プッロはもちろん納得しなかったが、オズワルドは既に決めていた。


『プッロ、俺は軍人だ。軍人である以上、戦場で死ぬのは当たり前のことじゃないか。俺は命を賭けたいのだ、ここで。』


『将軍が戻らなければ、アムレート元帥が悲しみます!』


なるほど、プッロもアムレートが鍛えた精鋭の一人なのだ。


『では、お前が必ずアムレート元帥に伝えてくれ。俺は最高の敵を見つけた。あの鉄仮面と戦いたいのだ、どうしても。』


なおも食い下がろうとするプッロだったが、もはやオズワルドの決意が揺るがないことは痛感しているようだった。


『プッロ百人隊長!お前の部下達を率いて必ず脱出せよ!生きてアムレート元帥に会え!これは命令だ!』


プッロは何かを堪え、ついに他の兵士達と共に脱出路に走って行った。


『襲おうと思えば、襲えただろう。』


オズワルドが踵を返した言った。


その先には、ウォルフが立っていた。


彼の部下達も攻撃してくるつもりは無かったようだ。


『何故、いま我々を襲わなかった?』


死ぬ前に色々知りたいことがあった。


一つでも多く知っておくに限る、そんな達観した心境になっている自身を発見し、オズワルドは静かに微笑んだ。


『オズワルド将軍。その答えは、あなたがいまここに残っている理由と同じだと思う。』


オズワルドは微笑みながら、何度か小さく頷いた。


少し嬉しくもあった。


これ程の武人が、自分と戦うと言っているのだ。


『俺よりアムレート元帥はもっと手強いぞ、鉄仮面。』


言った後、アムレートとウォルフが戦ったらどうなるのか気になった。


杞憂だと、自嘲した。


アムレートが負けることなど、万に一つもあり得ない。


自分がそう思った、それで十分なのだ。



合図は無かったが、ウォルフとオズワルドの一騎打ちはお互いに納得した刹那に始まった。


少なくともジョエキにはそう見えた。


膂力ではオズワルドに分があるように見え、しかもオズワルドには盾があった。


ウォルフは一振りの長剣を持っているだけだ。


それでも、この二人の打ち合いは互角に見えた。


ウォルフの斬撃や動きより、アフレックの方が遥かに速いと思えたが、それでもオズワルドを速さの面では上回っていた。


軽装のジョエキが重装備のウォルフに斬りかかったとしても、自分の剣を受けるまでもなくウォルフは躱してしまうと思った。


実際、オズワルドの剣は何度も空を切り、そのたびにウォルフの斬撃がオズワルドに当たっていた。


防ぎ損ねているとはいえ、盾を掠めているため、オズワルドにはあまり効いていない。


突然、オズワルドが盾で激しくウォルフの身体を弾き飛ばそうとした。


盾はウォルフに激しく当たったが、次の刹那にウォルフはオズワルドの背後に回り込み、脇腹のあたりに斬撃を入れた。


甲冑の隙間に刃が入ったらしい。


オズワルドが腰のあたりから出血していた。


オズワルドがウォルフに盾を投げつけた。


まともに当たってよろめくウォルフに、オズワルドが猛然と斬りかかったが、紙一重で躱したウォルフがハイキックを叩き込んだ。


オズワルドの兜が飛んだ。



側頭部に重すぎる一撃が入った。


視界が開けたのは、兜が飛んだからだろう。


ウォルフの右脚が自分の顔の真横にあった。


おいおい、甲冑をつけたまま、そんな蹴りを打てるのかね。


薄れゆく意識の中で、ウォルフに突き出した剣は手応えが無かった。


反対側の側頭部にも、一撃が入った。


左でも打てるのか。


視界が暗くなる。


暗闇の中に光を見た。


アムレートの背中が見えた。


若、そう呼びかけるとアムレートが屈託の無い笑顔で振り向いた。


負けて笑うやつがあるか、と笑顔で叱られた。


若、貴方に匹敵するかもしれない良き敵を見つけましたよ。


若、お健やかに。


オズワルドは、満足だった。

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