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オズワルド1

シリウス帝国南部 古代遺跡の街


斥候の報告は信じられなかったが、本当だった。


数日前にオズワルドの軍を手玉に取った叛徒の軍は、古代遺跡の街にすら居なかった。


幽霊城に退却したとは考えにくいが、古代遺跡の街より更に南に向かったらしい。


五千の軍兵がいっぺんに入れる程、まだ街として余裕は無さそうだったため、一千のみ率いて街に入った。


夜陰に紛れて街を急襲する可能性も零では無いため、残りの四千を街周辺の警戒に当たらせつつ、補給を待たせた。


かなり頻繁に早馬による定時連絡をお互いにするようにはしてあるため、基本的に待機している四千と連絡が途絶えることはない。


連絡が途絶えれば有事なので、お互いに増援に行くことにしてある。


二百程を連れて街の中を歩き回った。


街の内部地図も作った。


南部は廃れた不毛の地だと思っていたが、この街は違った。


市場が開かれ、居住区の整理や改築も進んでいた。


まだ、街となって間もないらしいが、繁華街に近い箇所も育ち始めており、そこには酒場や賭場や娼館もあった。


娼館の女達は、帝国の大都市のそれに比べて少し年齢が高い気がしたが、ボロなど纏わず、ちゃんと衣服を身につけていた。


アムレートが喜びそうだなと、オズワルドは思った。


アムレートは容姿端麗で、女に不自由しないが、何故か十ほど年上の女を好む。


一度、アムレートに何故年上が好きなのか聞いたことがあった。


女に気を使いたくないというのが答えだった。


若い生娘や、経験が少ない相手だと気を使ってしまうということらしい。


そんなことを思い出している自分自身の頭を、軽くこつんと叩いた。


ここは敵地で、自分は戦場に居る軍人なのだ。


油断してはいけない。


オズワルドは、大まかな地図を完成させると、街の中でどこに自分の本営を置くのか、どこに兵士を寝泊まりさせるのかを考え始めた。



ジョエキとスリーだけが、この街の中で未だ行動していた。


スリーとかいう中年の男は真面目に偵察活動をしているのだろうが、ジョエキは適当に遊べとウォルフに言われていたので、本当に遊んでいる。


しかし、本人にとっては嬉しくない発見をする羽目になった。


女を買ったが、勃たなかった。


何をされても、自分の身体の一部がやる気を出さなかった。


しばらくして諦めたジョエキは、苛立ちながら宿に入り、自棄酒を煽った。


少しずつ眠気が訪れてきたとき、外で甲冑の音がしたので窓から除くと、帝国兵達がいた。


兵士達の指揮官を何処かで見た気がするが、思い出せずにベッドに身を投げだした。


まどろみながら、あの戦場を思い出した。


アムレートが騎馬民族を壊滅させた、あの激しい突撃の光景が頭の中で蘇る。


そうか、思い出した、アムレートの隣に居た騎士の甲冑だ。


さっきの指揮官は、あの日アムレートの隣に居た男だったのだ。


気づきはしたが、ジョエキはそこには惹かれなかった。


あの戦場から撤退する最中、遠目で兜を外したアムレートの顔を見た。


草原の民であるジョエキは凄まじく目が良い。


遠く離れていても、アムレートの顔が見えたのだ。


そして、あのアムレートの全てが美しいと思った。


ジョエキは以前から女が抱けなかったわけではない。


若くして女を抱いた経験は多くあるし、自分でも嫌いな方では無いと思っている。


男が好きな訳でも無い。


しかし、アムレートほど美しいものを見たことは無かった。


欲しい、あの男の全てが。


アムレートに恋をしているわけでは無かった。


アムレートの全てを奪いたい、全てを奪うには、アムレートの命を奪いたいと強く思うのだ。


まどろみながら、あの日の戦場の記憶を何度もなぞる。


騎馬民族の猛者達を蹂躙するアムレート。


何故か、ジョエキはアムレートに向かって行った。


想像の上でのことであるが、これは初めてのことであった。


今までは、あの戦場の記憶を思い出すだけで、記憶の中の自分が、違った動きをすることなど無かった。


気がつけば、自分とアムレートの二人しか居なかった。


ジョエキは突進してくる白銀の騎士に、馬上から激しく矢を放った。


矢は白銀の騎士の胸を貫いた。


ジョエキは更に矢を放った。


騎士の兜が飛んだ、アムレートが呆然と血を吹いている。


ジョエキは駆けていって、その首を刎ねた。


地に転がるアムレートの首を、ジョエキが拾い上げる。


アムレートの虚ろな目は自分だけを見ている。


美しい、その刹那だった。


凄まじい快感がジョエキの身体を駆け巡った。


あまりの衝撃に、ジョエキは全身が震え、涙が出るほどに喘いだ。


しばらく呼吸が出来なかったが、呼吸は少しずつ戻り、意識がはっきりしてきた。


射精していた。


酔いもどこかに飛んでいってしまった。


快感と戸惑いがあった。


自分は何故こんなことになってしまっているのか、自分はおかしな性癖の持ち主になってしまったのかという不安と嫌悪感があった。


それを上回るほど、アムレートの首を手にした自分を思うのは、幸せだった。



帝国軍の兵士達が少しずつ、街のあちこちに移動していく。


寝泊まりする場所が決まったらしい。


スリーは街の地図と、兵士達の移動していく場所を確認して舌を巻いた。


オズワルドが本営を置いた場所、それぞれの兵士達の待機場所、宿泊場所、その殆どがウォルフの想定した通りだったのだ。


繁華街だけはウォルフの予想からは外れた。


オズワルドは、酒や女に兵士達を近づけなかったのだ。


兵士達も堅物揃いなのか、繁華街に向かう者は居らず、街の人間を襲ったり、奪ったりすることもない。


規律の行き届き方が尋常では無い。


逆の立場であれば、襲う、奪うはウォルフ達が粛清するだろうが、兵士達どころか指揮官達ですら酒か女に駆けていくだろう。


ロッカは女好きだろうし、ビッグも嫁の居ないところなら羽目を外すだろう、ジャンとかいう新参者もきっと好きだろうし、そもそもジョエキなどは真っ先に女を買っている。


アフレックが女を買うところは予想出来ない。


自分自身は、好みの女を見かけたら、やはり行くかもしれない。


そこまで考え、スリーは自分自身の思考を自嘲した。


緊張感の欠片も無い。


それだけ、安心しきっているということなのだろう。


市場に松明が掲げられ始めた。


夕方になろうとしている。



オズワルドは、本営として闘技場跡地を選んだ。


ここであれば、一千の兵士達を集めることも出来るし、少し前までこの辺りの支配者が所有していただけあって、部屋はちゃんとしたものがあった。


この街に入った時、住民の抵抗が大なり小なりあると思っていたが、何も無かった。


軍隊が入ってきたにも関わらず、街は普通の日常を送っていた。


住民の代表者達を集めて話をしたが、支配者が代わること自体、彼らには興味も問題も無いという態度だった。


むしろ、彼らが反応したのは物資についてである。


軍が物資を接収したり、奪っていくのは容認出来ないという態度だったが、オズワルドが相場の五分増しで食料品や物資を買い取ることを提案すると、彼らはむしろ喜んだ。


繁華街に兵士達を近づけないということに関しては、むしろ繁華街の商工組合の者達が苦情を入れてきた。


酒場も賭場も娼館も、稼ぎたいのだという。


オズワルドは、帝国軍の補給線が近日中に確立されること、そうなれば増援と合流すること、その後であれば交代制で兵士達が繁華街への出入りを許可することを伝え、何とか商工組合の面々を納得させた。


その後は、日が落ちるまで軍議だった。


街の中で兵士達をどう配置するかは、すんなり決まった。


問題はこれからのことである。


どのように幽霊城を落とすか。


叛徒達は必ずもう一度、幽霊城の手前で仕掛けてくるとオズワルドは確信している。


仕掛けてくるとしたら何処なのか、そこまでの補給線をどう確立するのか。


そのあたりがまとまらないまま夜になった。


軍議の続きは明日にしようと言って、部隊長達を解散させた。


窓の外を見ると、夜でも繁華街の方は賑やかそうである。


いい街だ、とオズワルドは思った。


久しぶりに体を湯で洗い、早めに床についた。

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