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開戦

シリウス帝国南部 古代遺跡の街付近の荒野


オズワルドは精鋭五千騎を左翼一千、右翼一千、中央二千、遊軍一千に編成し布陣した。


遊軍は中央の背後に控えている。


左翼、中央、右翼は重装備のままだが、遊軍の一千は軽装備である。


敵の斥候が出れば、遊軍の位置は知られるだろうが、その前に軍を動かすのか、あえて遊軍の位置を知られてから動くのか、オズワルドは特に決めずに布陣した。


アーネストを後方の部隊への伝令兼指揮として送ったので、オズワルドの麾下には最大でも五百を率いる部隊長ばかりが残っている。


五百を超える指揮は任せないが、五百を指揮するのなら任せられる。


どうにでも動ける形は出来た。


オズワルドは、敵が動くのを待っている。



『四千程度しか見えませんな。』


ガノンは敵影を見て、すぐに一千程度が見えない位置にいることを悟った。


悟ったは良いが、理解出来た訳ではなかった。


オズワルドは良将だが、策や計略をよくする方ではない。


一千を隠して、心理戦を挑むような将ではないと思っていた。


しかし、何が起こるかわからないのも戦である。


斥候を出そうとしたのをウォルフが止めた。


ウォルフは既に完全武装だ。


『このままで構わない。ジャンとロッカがうまくやる。』


『精鋭一千騎、戦局を決するには十分過ぎる脅威ですが。』


言ってすぐに少し後悔した。


当たり前のことをわざわざ口に出す、無駄なことをした。


こういう時、ガノンは自らの老いを感じる。


『ジャンの五百が間に合ったおかげで、こちらは少し賭けの要素が減って助かる。』


ウォルフが珍しく、わかりきったことを言った。


鉄仮面に気を使わせてしまったか、とガノンは内心苦笑した。


『ジョエキは俺の傍らに置いて様子を見る。』


『すぐに人を信用するのが、長所というか短所というか。』


『いや、信用しきったわけではない。ただ、裏切ることは無いと思っているだけで。』


その返答が、ガノンには少々以外だった。


戦が終わったら、詳しく話しを聞こうと思った。



敵が騎兵五百余りで前に出てきた。


オズワルドは少々驚いた。


敵の数から言えば、騎兵五百という数字はもはや中心戦力の筈である。


それをこうも簡単に出してくるとは思わなかった。


その五百余りが微かに分かれた。


五百と数十に分かれている。


数十の方は、あの青い髪の指揮官が居る。


おそらく、仮面の戦士も居るだろう。


しかし、オズワルドは迷わず五百騎に狙いを定めることにした。



ジャンの五百が敵の左翼を側面から突こうとする動きを見せたため、隠れた一千の場所がすぐにわかった。


一千の軽装騎兵がジャンの五百騎の側面目掛けて駆けてきたが、ジャンは迷うことなく回避を始めた。


ジャンの五百騎も速かったが、敵の一千騎は更に速かった。


みるみるうちに、ジャン隊の背後まで迫った。


ガノンは自ら率いる重装歩兵部隊を前進させた。


ドンの歩兵五百も動いた。



突如、背後から騒音が聞こえた。


敵の五百騎に襲いかかる直前、百にも満たない数十騎が、こちらの横腹に襲いかかった。


数が違い過ぎる上に、選りすぐりの精鋭である。


そう簡単には崩れない自信があったが、敵の数十騎は鋭く自軍を刺し貫いてきた。


やはり、あの時の二人か。


目の前の五百を散らすのを諦め、とりあえず横撃してきた敵を囲む。


左翼から自軍の重装騎兵五百騎が駆けてくるのも見えた。


敵が逃げにかかれば、更に中央から五百騎が出てくるだろう。


仮面の男、青い髪の将、あの二人の首をここで取る。


『無駄に耐えるな!敵に突破させてやれ!』


オズワルドが叫んだ。


敵がこちらを貫通しおえたら、この一千と左翼から駆けてくる五百で押し潰す。


自軍右翼の一千騎も動いている。


前進してくる敵を受けて立つ動きだ。


完璧な連動だった。



一千の隊列のど真ん中に斬り込んだ。


先頭の敵将が怒鳴ると、敵はこちらに執拗に斬りかかろうとせず、道を巧みに開けようとした。


『よし!ひとまず抜けよう!』


ロッカが叫ぶが、先頭で敵を斬り伏せていたアフレックが首を横に振った。


『罠か!?』


『わからんが、多分そうだ!』


無口な仮面の男が怒鳴り返してきた。


戦術どうこうではなく、おそらくは勘で答えているのだろうが、ロッカはアフレックの勘を信じている。


『アフレック殿、任せるぞ!』


逡巡することなく、アフレックは敵の後ろ半分の方向に血路を拓き始めた。



一千の後ろ半分が大きく乱された。


こちらに駆けてきた味方五百は、同士討ちを警戒して動きが遅くなった。


混乱状態の自軍に突撃をかけられるわけがない。


オズワルドは舌打ちをして、大剣を鞘から抜き放つと乱されている自軍後方に向かおうとした。


刹那、嫌な予感がした。


逃げていたはずの敵五百騎が、引き返し始めた自分の目と鼻の先に迫っていた。


五百騎の先頭にいる若い赤髪の将が、明らかに自分の首を狙っていた。


『なめるな!若造が!』


敵将の剣の突きは速かった。


敢えて避けずに兜で受けた。


兜が飛んだが、かすり傷だった。


大剣を振り下ろしたが、赤髪の敵将は間一髪で避けると、率いる五百と共に全力で逃走した。


同士討ちを恐れていた味方の五百が、その五百を追い始めたが、赤髪の五百は軽装である。


追いつけないだろうと思った。


部下が拾った兜は変形していて、もう被れまい。


頬から流れる血を拭うと、オズワルドは自軍後方に向かったが、そちらの敵も既に逃走していた。



遊軍一千の足は完全に止まった。


ジャンは全力疾走で、追ってくる敵の五百を突き放しにかかっている。


そのジャンを狙って、敵の中央から更に五百が駆けた。


前進している敵の右翼一千騎は、まもなくガノンの重装歩兵とぶつかる所まで来ていた。



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