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使われ、囚われ

シリウス東部と南部の境付近


思わぬ出来事だった。


里を出て数日、たまたま賊が商隊を襲っている場面に遭遇した。


ムサシことスリーは、近くに身を隠してやり過ごすことにした。


任務なり仕事なりで無ければ、あるいは賊が自分に向かって来ない限りは戦わない。


それがスリーの考え方である。


賊の人数は三十程度、商隊の者達も打ち倒されるか逃げるかしている。


賊の一人が落馬して動かなくなった。


おや、と思った刹那、今度は二人の賊徒が落馬してやはり動かなくなった。


ただの落馬では無く、矢を受けたのだ。


弓を片手に持った騎馬の者が、賊を次々に弓で射落としている。


通りすがりの様子だが、戦闘力はただの通りすがりでは無い。


騎射で次々と賊を射落としたかと思うと、今度は刀を抜いて賊に向かって馬を走らせた。


瞬く間に賊徒の首が一つ、また一つと飛んでいく。


半分以下まで討ち減らされた賊は、必死の形相で退散していった。


通りすがりの騎馬の男は、商隊には目もくれずに南の方角に馬を走らせた。


ここから南というと、行き先はもう幽霊城の勢力圏しか無い。


逡巡すること無く、スリーは南に駆け始めた。




シリウス東部山岳地帯 鳥人族集落



妙な奴が現れて、警備隊と揉めた。


鳥なのか鳥じゃないのか、とにかくずんぐりとした雛鳥のようなヒヨコのような奴が、重そうな体で、そびえ立つ崖を二百メートルは登って来たのだ。


ドワーフの集落よりも、更に高所に鳥人族の集落がある。


他の部族の者が来られないように、閉鎖的な集落を維持するために、そのような高所に生活圏を築いた。


まさか、崖を登って集落に侵入しようとする者等は勿論これまでは居なかった。


鳥人族集落の警備隊隊長クォーツは、岩壁に掘って作った檻に入れられた珍妙な姿の侵入者を目の前にして、やはり首を傾げずにいられなかった。


『どこから来た?目的は何だ?』


クォーツがギョロリとした目を向けながら問いかけた。


『南部だ。知りたいことがあって来た。』


必要なことだけ喋り、不必要なことは言わないという態度だが、反抗的ではない。


おそらく、差し障りが無いことであれば何でも話すのでは無いか。


『知りたいこととは何だ?』


『俺の生まれが知りたい。』


右手の人差し指でくちばしの付け根をポリポリと掻きながら、クォーツはまた考えてみた。


目の前のヒヨコの出自、確かに妙な感じはした。


ヒヨコのような奴、というよりは、やはりヒヨコなのだ。


少しでっぷりとしているし、目つきは信じられないほど悪い。


それでも、ヒヨコなのだ。


それはつまり、目の前のヒヨコが自分たち鳥人族と近しい存在であることを意味しているに違いは無い。


特異なのは、目の前の存在がヒヨコであることと、腕が無いことである。


鳥人族は顔が鳥のそれであるが、人間同様に両腕があり、胴体があり、両脚がある。


脚の先端は人間とは違い、鳥のそれである(あしゆび)で地を蹴るが、背からは大きな翼が生えており、この翼を使って空を飛ぶことが出来る。


しかし、目の前のヒヨコには羽があっても腕が無く、羽が背や肩では無く両脇付近から出ている。


思えば思う程に謎が深まる。


クォーツは久しぶりに、好奇心を刺激されるのを実感していた。




ノートリアス城(幽霊城)内



実質七千を超える大軍になってしまった。


五千を連れてきたカレンは、城に着くなりカレン商会が占拠した部屋に駆け込むと、部下達を怒鳴り飛ばしながら忙しく働き始めた。


せっかく軍の指揮に戻ったビッグまで、指揮下の軍と予備隊を拠点の建設やら、城の増強やらに充て、結局物資の管理まで噛まねばならず、昼夜兼行で走り回らされている。


ウォルフとガノンは、侵攻してきている帝国軍の情勢を逐一把握しながら、膨れ上がった軍の再編成に追われた。


自称遊び人のジャンは、本当に一兵卒として過ごすつもりだったらしいが、ウォルフとガノンに呼び出され、結局一軍を率いるように通達されて肩を落としていた。


そればかりか、到着翌日から帝国軍と交戦中の自軍を援護するよう指示され、騎兵五百を率いて出発させられてしまった。


これは出発させられたジャン本人も不服ではあったが、ウォルフもガノンも共に戦場に出たがっているのをお互いが止め合っており、結果としては命じた側も、命じられた側も不服な判断であった。


出発したジャンは、幽霊城から北のことなど土地勘も何も無いため、とりあえず指示された通りの道を行軍し、古代の遺跡を街としている拠点までは辿り着いたが、戦況に関してはこの拠点に入ってくる情報を自分で見聞きして判断しろと丸投げされてしまったため、胸中ではやはり兄を行かせるべきだったと激しく後悔し始めていた。


古代遺跡を改修して街にしたと聞いたが、戦地の街にしては活気があったので、せめて後で女でも買おうと思っていた最中、迎撃に出ていたという軍が補給のために戻ってきた。


補給施設の会議室らしい所でのうのうとしていたジャンに、青い髪の男が声をかけてきた。


『誰だ、あんた?』


歳はそんなに変わらないだろう。


青い髪なのはわかるが、戦場を駆けずり回っているせいか、砂埃にまみれている。


『えっと、俺はジャンという遊び人だ。あんたらの大将のせいで、五百騎を率いて援軍に来るはめになった。』


『援軍?何も聞いてないぞ。』


『俺だって昨日城に着いたばかりだったのに、いきなり出発させられたんだ。』


『ウォルフ殿が頼んだ男なら、間違いは無いと思う。』


青い髪の男の背後にぬっと現れた仮面の男が現れたと同時に喋っていた。


『別に疑ってはいないさ。聞いてなかっただけで。』


仮面の男は気配を消したまま部屋に入ってきたのだろうが、顔を隠している仮面といい、気配を消すことといい薄気味悪い印象をジャンは受けた。


『ロッカって人はどこに居るかわかるかい?』


『ロッカは俺だ。』


『じゃあ、話しが早い。俺が連れてきた五百騎はそのままロッカ殿の指揮下に置いてくれ。俺は一騎兵として戦うから。』


『おいおい、ちょっと待て。』


『元々、俺はそのつもりだったんだ。ウォルフ殿とガノンとかいう爺さんに無理矢理指揮を執れと言われただけで、俺は指揮官の器じゃない。』


ジャンは必死に訴えたが、ロッカは溜息をついて首を横に振ってしまっている。


『ジャンとか言ったか?俺としても、初対面でしかも指揮官を降りたいと言うようないい加減な人間に、援軍五百騎を率いさせたままなのはすこぶる不安だし、控え目に言っても不快だ。しかし、我らが大将が言うからには、お前に指揮を執ってもらうしかない。』


『たかが五百騎の編入だろ?』


『お前、俺の麾下がいま何騎か知ってるか?』


『いや?』


『そいつは良かった。俺の麾下は約七十騎だ。』


『七十?冗談だろ?』


『冗談なもんか。最初はきり良く百騎だったがな、途中で三割まとめて討たれた。』


『たった百騎で戦争してんのかよ!』


『違う。今は七十騎だ。』


『頭おかしいだろ。』


『俺はまともだ。おかしいのは大将だ。』


『こりゃ、生きてイーリスに帰れる可能性は無いな。』


『イーリス?イーリスから来たのか?』


ロッカが珍しく目を丸くした。


『難しいことは言えないが、イーリスからの援軍として派遣された。難しいことは聞くなよ。そういう話しはしたくないからな。』


『ジャン・イーリスか?』


ロッカの顔が真顔で凍りついている。


『なんだ?俺のことを知ってるのか?』


ロッカが天を仰いで絶句したのを見て、アフレックがやや首を傾げた。


『ロッカ殿、ジャン・イーリスとは?』


『アフレック殿、とんでもない大物だぞ、この男は。』


『そうなのか?』


アフレックは記憶が無いばかりか、政治的な知識がほぼ皆無である。


シリウス内のことにも関心がないのアフレックにとっては、外国であるイーリスのことなどわかるはずも無い。


『ジャン・イーリス。イーリス公国の公位継承権第二位の大物だ。』


『ほう。それはまた。』


『そういう難しい話しはしたくないんだがな。』


ジャンがやや辟易したような表情を見せた。


ロッカとしては、ただでさえ厄介な戦局を前にして、絶対に死なせたり、捕らえられたりしてはならない厄介な男を、わざわざ最前線に押しつけられた気持ちでいっぱいであった。



シリウス南部 古代遺跡の街より北三十キロの地点


たまたま商隊を襲っていた賊を駆逐した後、声をかけてきた男が居た。


中年でやや小柄だが、只者では無いことはすぐにわかった。


敵意や殺気は感じないため、話しくらいは聞くことにしたが、鉄仮面の一党が居る所まで案内してくれるという。


西側諸国連合として出陣した戦で、アムレートに敗れて以来、ジョエキはアムレートの首のみが欲しいと思ってきた。


物静かで、主張も少なく、品の良い青年として部族でも知られていたが、ジョエキのみが知るジョエキというのも居る。


敗戦の後、遠くから変装してアムレートを眺める機会があった。


兜を外したアムレートを見て、ジョエキは美しいと思った。


そのあまりの美しさは、ジョエキのみが知る自身の激しい執着心に火をつけるには十分過ぎる程だった。


自分が殺したいと思った。


あの美しい青年の首が欲しいと思った。


それを想像しただけで、ジョエキの顔は微笑んでしまうのだ。


蒼き虎と呼ばれる戦士には、不思議なことに代々残酷でもあり、異常でもある何かしらの性癖がある。


ジョエキの父ウベキが、蒼き虎と呼ばれて草原の覇を競っていた時にも、苛烈な虐殺を好むという抑えようの無い習性があった。


しかし、ウベキが歳を重ね、家庭を持ち、仲間に思い入れを強く持つようになると、その習性が薄れていった。


その薄れこそが、ウベキが草原の覇を獲り逃がす結果に繋がった。


ジョエキは草原の覇にも、支配する人数にも、富にも権力にも興味が無かった。


美しいとは思えなかったからだ。


ジョエキが美しいと思うのは、その時々によって違うが、その美しいものを踏みにじることに最大の快感を覚えている。


敵を殺すことも、刀も、矢も、戦ですらも手段でしかない。


アムレートの美しい首を手に入れることこそが、ジョエキの目標となった。


シリウスに潜入し、アムレートの首を獲るための方法を色々と考えた結果、帝国軍と交戦中の叛徒に入ることが一番確率が高いと考えた。


暗殺を狙ったりはしない。


それは美しくないからだ。


戦場で勝つことにこそ意義を見いだしているであろう、金髪の美青年を蹂躙するには、戦場で彼を破ることこそが、彼の心を蹂躙し尽くすことになる。


そして、絶望させてからから殺すのだ。


アムレートにとって、最も危険な敵になる男が幽霊城改めノートリアス城に入ることを、もちろん彼はまだ知らない。

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