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教皇ネブカドネザル

サラーム教国 聖都サラーム・ロマ


教皇になって以来、約二ヶ月ぶりに救世主が民衆の前に姿を現した。


教皇府には数万もの民衆が詰めかけたが、その全てが救世主の支持者では無かった。


救世主が教皇になる以前、二大派閥として教国を牛耳っていた保守派と改革派の二派も多く詰めかけていた。


一歩間違えれば暴動が起きかねない、そんな状況で広場に二つの棺が運び込まれた。


一つは保守派であった前教皇の棺で、もう一つは改革派であった祭司長の棺である。


二人は共に新しい教皇に粛清されたと噂されていたが、この二つの棺の出現は、それを事実であると公然と認めたことになる。


保守派の民衆も、改革派の民衆も泣き叫び、更には怒りを露わにしだした。


もはや暴動は必至である。


まさにその時、教皇府三階のバルコニーに新教皇である救世主・ネブカドネザルが法衣に身を包み現れた。


救世主派の民衆は歓喜に沸いたが、改革派と保守派は怒りのあまり喚き叫び、物を投げつけたりといった行為に出始め、治安維持のために教皇府の兵士達が鎮圧に乗り出すかに見えた。


しかし、その場に居た全ての人々はどよめいた。


雲間から差したひとすじの光が、真っ直ぐに教皇を照らしたのだ。


教皇がその光を両手を広げて全身で受ける様は、まるで神が教皇を祝福しているようにしか見えなかった。


『我が民よ。恐れることはない。』


教皇が言葉を発すると、更にどよめきが起こった。


その声は、優しさと温かさを備え、集まった全ての者に届く程によく通る、聞いたことが無い不思議な声だった。


『サラームの神よ。どうか我に力を与えたまえ。そして全ての民の上には、既に神の祝福と加護があることを示したまえ。』


教皇の言葉が終わるや否や、驚くべきことが起きた。


二つの棺の蓋が内側から開き、棺の中に居た前教皇と祭司長が出て立ち上がったのだ。


民衆達が叫び声をあげた。


暴動寸前の時とは比べものにならない叫びである。


自分たちが何を見ているのか理解出来ないが、とにかく目の前でそれは起きた。


そして、動揺しているのは民衆だけでは無かった。


生き返った前教皇と祭司長も、自分の身に何が起きたのか理解出来ていない様子だった。


『前教皇クローディアス、並びに祭司長アーロンよ。』


教皇ネブカドネザルの声は、それでもはっきりと全ての者に聞こえた。


『お前達を殺したのは間違いなく私である。しかし、お前達を復活させたのも私である。二人とも自分の胸を見よ。私が剣で刺した傷は今でもしっかり残っているはずだ。』


前教皇クローディアスも、祭司長もアーロンも互いに着物の襟を開き胸を見た。


教皇の言う通り、二人の胸には痛々しく生々しい傷が残っていた。


『二人とも恐れることはない。お前達は私が選び、サラームの神が選んだ者なのだ。お前達は復活するために死んだのだ。神が力を遣わす私の手により、再び生きるために死んだのだ。お前達は、神の力の前で、死や苦しみや痛みが無意味であることを知り、そして知らしめるために死に、再びここに戻って来たのだ。』


とても信じられないと言った表情の二人を尻目に、数万の民衆は歓喜の声を張り上げ、新たな教皇を祝福した。


そこにはもう、改革派も保守派も無く、お互いを憎みあう心も無かった。


やがて、数万の民衆の叫ぶ言葉も一つひとつ揃っていった。


『救世主万歳!』


『教皇ネブカドネザル猊下万歳!』


『サラームの神よ、永遠なれ!』


光が照らす教皇ネブカドネザルの顔つきは、若く凛凛しいものに見えた。





民衆の歓喜を尻目に、教皇ネブカドネザルはバルコニーを去り、自らの玉座がある広間に入った。


自ら聖帽を外し、それを近侍に預けると、ネブカドネザルは黒い長髪を結んでいた紐をほどき、肩まで伸びるその髪の毛を靡かせながら玉座に座った。


先ほどの近侍に何かを話しかけると、近侍はかしこまって足早に広間を去った。


一人の武将が広間に入ってきた。


『まさか数分で民心を一つにしてしまわれるとは思いませんでした。』


『民衆は愚かだ。一つの奇跡が起きてしまえば、その周りや後先など考えもしないのだからな。』


『手厳しい御言葉ですな、猊下。』


『お前はいつも来るのが早いな、オウケン。』


『なにぶん、暇なものですから。』


オウケンと呼ばれた初老の武将は、穏やかそうに見える顔つきに反して、異様なほど顔色が悪かった。


肌の色が殆ど灰色に近い。


そして、眼の芯が何故か赤かった。


『シリウスとの戦場にマクベスが出て来たそうだぞ。』


『ほう。まさか、あいつが出てくるとは思いませんでしたな。』


『わずか一戦に参加したのみで、また何処かへ行ってしまったらしいがな。』


『昔からでございます。彼奴は協調性というものがありませんので。』


『勝てるか?マクベスに。』


『猊下に頂きました御力があれば無敵でございます。』


『無敵か。』


ネブカドネザルは静かに笑った。


続々と広間に武将や祭司、魔術師達が集まり始めた。


その一団の最後には、前教皇のクローディアスと祭司長アーロンが慌ただしい足取りで加わっている。


『クローディアス、アーロン。死を超越した気分はどうだ?』


『バビロンよ。何故に我々を復活させたのか訳を知りたい。』


前教皇クローディアスの表情は、怒りすら感じられるほど硬かった。


『我々を復活させ、保守派と改革派の双方すら取り込もうという算段か。』


アーロンの語調も、やはり怒りをのぞかせている。


『バビロン。その名で呼ばれるのも久しぶりだな。それで?そうだと言ったらどうするつもりだ、俗物共。』


『教皇である私を俗物呼ばわりする気か!』


『もう教皇では無い。いや、無益な問答はよそう。私も面倒だ。』


そう言うと、ネブカドネザルは玉座を降りて両手を二人の前に出した。


『私の手に触れてみよ、二人とも。それで全てがわかる。』


両手を突き出され、クローディアスもアーロンもたじろいでしまっている。


『恐れることはない。もう、お前達を痛めつけたりなどしない。私の手に触れよ。』


まず、クローディアスが恐る恐るネブカドネザルの手に触れた。


それを見たアーロンも、意を決してネブカドネザルの手を摑んだ。


『これは』


『まさか、こんなことが』


傍から見れば何の変化も起きていないが、二人の目は明らかに何かを見ていた。


そして、二人の目からは涙すらこぼれはじめている。


『私が神を信じ、お前達がそれを信じているか否か。或いは神が存在するのか否か。そもそも、その神が正義なのか悪なのかは些細な問題なのだ。肝心なのはそういうことでは無い。違うかな?』


『なんと痛ましい』


『しかし、何故こんなに神々しい』


二人はまだ、夢と現の狭間に居るかのような眼をしている。


『経典にはこうある。「約束の救世主は、人々を死から解放し、全てを平らにし、そして新たなる王国を作る」と。そして「そこにはもはや病も苦しみも無く、争いも貧富の差も無い。神の王国である。」と。』


クローディアスとアーロンは膝を屈した。


この二人は、確かに権力闘争に明け暮れていたが、宗教者としては死をも恐れぬ程の信仰を持っていた。


その二人が、力の差でも無く、それとは別の言葉に出来ない何かにより心から膝を折ったのだ。


『クローディアス。アーロン。私とて完全では無い。しかし、完全とは待つものでは無い。私の後に完全が来るのだ。』


『神よ。』


祭司長アーロンは泣き崩れてしまった。


そのアーロンの肩に、ネブカドネザルは優しく手を置いた。


『案ずるな、アーロン。お前が抱いた全ての苦しみを、この私に委ねるのだ。もう何も答えぬ神に祈る必要は無い。その疑問が過った自分自身を責めることも無い。お前が祈る時、私は確かにお前と共に居るのだから。』


そして、ネブカドネザルはクローディアスの手もしっかり摑んだ。


『教皇と呼ばれたクローディアスよ。祭り上げられた者の孤独と苦悩をもう背負う必要は無い。非力な人間である自分を恥じる必要も無い。お前の苦悩と孤独は、全て私が預かったのだから。恐れずに、私と共に歩むだけで良い。』


ネブカドネザルは二人をゆっくりと立ち上がらせ言った。


『共に入ろう。神の王国に。』


『教皇猊下に付き従います!』


『私も、教皇猊下に臣従をお約束申し上げます!』


二人は再び平伏して言った。


頭を床にこすり付ける二人を、再びネブカドネザルが立ち上がらせた。


ネブカドネザルの顔は、若々しく、優しく、温かく、神々しさを放っていた。





クローディアスとアーロンが去ると、教皇ネブカドネザルは武将達、魔術師達、祭司達からそれぞれ報告を受けた。


『シリウス帝国相手に押し込まれたため、前線からは援軍の要請が来ております。』


『シリウスとの戦線は膠着させておけば良い。こちらが守りに徹すれば、オセローとて攻め手など無いのだ。拠点を死守して、決して出るなと伝えよ。』


『私の出番はまだの様ですな、猊下。』


オウケンが穏やかな表情で呟いた。


『そうでも無い。シリウスとの戦線を敢えて膠着させ、その間に我が教国軍はイーリスを落とす。』


『イーリス公国を攻めるのでございますか?』


『そうだ。それこそ、シリウスがいま最も嫌がることだ。編成は後日伝えるので、今しばらく待て。』


教皇が右手を挙げると、一堂は平伏した後に広間から退去していった。


憎悪と敵意とが自分の中に激しく満ちている。


それは、自分という存在が誕生してから一日たりとも消えたり、弱まったことが無い。


他の兄弟達には、それぞれ輝かしい才能が受け継がれていたのだろう。


武技にせよ、魔力にせよ、知能にせよ、様々な特質を人並外れて持って生まれた。


自分だけが、失敗作だったのだ。


焼けただれたような外見のまま生まれた。


初めから虫の息だった。


生きたまま見放され、まだ息があるのに埋葬されそうだった。


月日が流れ、より自分が完全となり、より力が満ちるにつれ、生まれる前の記憶まで手に入れた。


胸の中の憎悪の炎は、この世界の秩序そのものに向くようになった。


この世界の全てを憎悪するようになった。


全てを破壊したいと思うようになった。


それを為すために、バビロンは宗教に目をつけた。


そして、そのためにサラームにやって来た。


サラームの宗教について調べ、経典を暗記したバビロンは宗教の愚かさを笑った。


何百年もの伝統があり、何百万もの人間が信じているこの宗教を喰らってしまおうと思いたった。


サラームの民は、神の意思を受けた救世主が現れ、自分達をあらゆる苦しみから解放すると信じている。


それならば、自分が救世主になってやろう。


そして、内側からその全てを食い尽くしてしまおう。


それをバビロンは、わずか三年足らずで成し遂げてしまった。


サラームの民が昨日まで信じていたものが何であろうと、何を待ち望もうと、もはや関係は無いのだ。


何故ならば、いま民が信じるべき対象は経典では無く、救世主である教皇ネブカドネザルなのだから。





サラームは多民族国家であり、人間の他にもエルフ、ドワーフ、ゴブリン、鳥人等が居り、全ての民に上下の区別が無い。


国家に縦の区別があるとすれば、教皇が絶対的な存在であり、次に祭司達が居る。


宗教こそが絶対であり、その宗教の下に民が居るという図式が崩れないため、多民族国家として成りたっている。


実際、過去の教皇や祭司長の中には人間だけではなくエルフやドワーフも居り、ゴブリンや鳥人の祭司も存在していた。


ドワーフやゴブリン、鳥人の部族内抗争の結果として、ごく一部の者がシリウスやイーリスに逃れたが、それでも大多数はサラームに居る。


この多民族国家の中で、唯一宗教に従わない部族が居た。


屍族しぞくと呼ばれる者達である。


アンデッドと呼ばれる屍族は、多くが知能を持たない動く自認であるが、王と呼ばれる者だけは知能も野心もあり、度々サラームと争いを起こした。


サラーム教の保守派は霊魂不滅を唱え、改革派は神の王国における肉体と霊魂の復活を唱えて対立していたが、そのどちらにも位置しない屍族に対しては、保守派も改革派も共に敵対関係にあり、サラームと屍族との争いは何百年もの長きに渡っていたのだ。


その屍族の王の居る拠点に、オウケン、アーロン、クローディアスの三名が現れたのは、二人が復活した騒動から一ヶ月が経とうとしていた時だった。


この三人は、屍族が数百体も入り口を堅めているにも関わらず、何事も無かったかのように王の居る居間までやって来たのだ。


屍族の王であるシャウールも流石に驚いたようだった。


『教皇が代わったとは聞いたが、まさかお前達三人が来るとはな。』


前教皇であるクローディアスと祭司長アーロンは無論だが、オウケンも屍族とは何度も刃を交えた因縁浅からぬ関係である。


シャウールは漆黒の衣に身を包み、白骨化した顔面で睨みをきかせた。


玉座から立ち上がるとかなりの巨漢で、王冠を戴いている様は威厳すらある。


『まさか、私を倒すために三人だけで来たと言うことはあるまい。』


そう言うと、シャウールの足下から次々と白骨化した手が地面を突き破った。


手はたちまち全貌を現し、数秒のうちに白骨の剣士達十体が三人を取り囲んだ。


『さて、ここに来て私のための静寂を打ち破った目的を言うが良い。話しがあって来たのであろう。』


言い終わった後、シャウールは不信感を抱いた。


剣を突きつけられても、三人とも驚く様子も焦る様子も無い。


『その程度で我々が臆すると思っているなら、屍族の王も落ちぶれたものだ。』


オウケンがため息まじりに呟くと、他の二人も静かに笑いだした。


『シャウールよ、我が教皇猊下の名において命じる。教皇ネブカドネザル猊下に降るのだ。』


クローディアスの言葉に、シャウールは呆気にとられた。


『降る?私がか?屍族が貴様等に降るなど有り得ん。貴様等こそ我々屍族に降るが良い。』


『シャウールよ。悪あがきなどせぬ方が良い。ここに来てはっきりわかった。今は我々三人でも、お前達如きに負けはせんよ。』


アーロンも余裕の表情で言い放った。


『人間ふぜいが、己が力を過信しおって。』


シャウールが右手を挙げ、骸骨剣士達が一斉に剣を振り下ろそうとした。


しかし、その剣が三人に届く直前に骸骨剣士達が粉々に砕け散って消えた。


シャウールが明らかに動揺した。


オウケンが剣を抜いたのならわかる。


しかし、オウケンは腕組みをしたまま眉一つ動かしていない。


『シャウール。それまでだ。』


その声は玉座しか無いはずの背後から聞こえた。


シャウールが慌てて振り向くと、いつの間にか玉座には黒髪の若い男が腰掛けていた。


自分の背後で三人が同時にひざまずいた。


『お前が、新しい教皇か?』


『いかにも。シャウールよ、私に降るのだ。』


シャウールは聞く耳を持たず、両手から電撃波のようなものをネブカドネザルに放った。


しかし、ネブカドネザルにはまったく効いていない。


なおも力を込め電撃波の威力を増したが、ネブカドネザルは不敵に笑うのみである。


何かを感じたシャウールが攻撃を止めた。


『貴様、私の力を』


『そうだ。吸い取っていた。よくわかったな。』


ネブカドネザルはそう言うと、人差し指をシャウールに向けて光の矢のようなものを放った。


それを胸元に喰らい、シャウールは絶叫して思わず倒れた。


『どうした?お前が寄越した力を、返してやっただけだぞ?』


『ぐっ・・・ばっ、馬鹿な!こんなことが』


『不死のはずのお前が、死の恐怖を感じたのだろう?』


その通りだった。


ネブカドネザルが軽く放った一撃で、シャウールの意識は朦朧としはじめた。


自分には心臓も肺も脳すら無いのだ。


意識と価値観と魔力とが白骨化したこの巨体を繋ぎ、動かしている。


死など無いはずなのだ。


それが、いま間違いなく自分は殺されかけている。


『それを魂と人は呼ぶらしいぞ、シャウール。』


はっとした。


自分が考えていることを、この目の前にいる青年は読んでいるのだ。


生命を超えたはずの自分が、力で押さえつけられて、見透かされる。


シャウールの意識は、もう長い間忘れかけていた絶望感というものに苛まれていた。


『我々も最初はそうだったのだ、シャウール。』


祭司長アーロンが自分を見下ろして語りかけてきた。


私を見下すな、という言葉が出ない。


『しかし、我々も猊下に蘇らせて頂き過ちに気がついたのだ。』


『蘇らせて頂き、だと?』


やっと声が出た。


少し回復したのか、ネブカドネザルが力を緩めたのかはわからないが、やっと喋れるようになった。


『まさか、お前達も死人しびとなのか?』


『そうかもしれぬ。しかし、私の心臓は間違いなく動いている。クローディアス殿の心臓もだ。』


『民と接する機会が多いので外見はそのままだが、内にある肉や骨、それに臓は若返ってもいる。まやかしでは無く、魔術を行う力も授かったのだ。』


クローディアスも口を開いた。


『シャウールよ。クローディアス殿も私も猊下からお前の話しを聞き、詫びに来たのだ。』


『詫び?詫びとは何だ!』


シャウールが激昂した。


その激昂はシャウールに再び力を呼んだ。


シャウールは激しい怒声と共に、クローディアスとアーロンにいかずちを放った。


いかずちは上空から天井を突き破り、間違いなく二人を頭からつま先まで貫いた。


しかし、二人は平然と立っていたのだ。


更にいかずちを放とうとするシャウールに、クローディアスが片膝を付き、シャウールに触れた。


『すまなかった、シャウール殿。我らの先祖の罪を私が詫びる。』


シャウールの中で何かが崩れ始める音が聞こえた。


『私も詫びよう、シャウール殿。私の祖先が』


『言うな!やめろ!聞きたくない!』


『シャウール王。』


クローディアスが涙を流しながら自分を見ている。


『そんな目で私を見ることは許さんぞ!』


『本当に申し訳ないことをした。取り返しのつかないことをした。』


アーロンも泣いていた。


『頼む、お前達!頼むからやめろ!お願いだから』


『手放すのだ、シャウール。』


ネブカドネザルが自分を見据えている。


『怨みを手放すのだ、シャウール。お前とお前の家族を騙し討ちにし、生きながら焼いた非道な連中は、もう居ないのだ。』


シャウールが叫んだ。


その様は、王と呼ばれる者の咆哮では無く、哀れな獣の断末魔の叫びだった。


それでも、なおクローディアスとアーロンは詫び続けた。


詫びられることが何故か苦しかった。


詫びられれば、詫びられるほど、クローディアスとアーロンに罪が無いことがわかってしまうのだ。


シャウールはなおも叫び続けた。


眼球が無いはずなのに涙が流れた。


『お前達にわかるか!騙され、縛られ、生きながらにして焼かれる苦痛が!目の前で焼かれる妻や子供達を助けてやれない、何もしてやれない気持ちが、お前達にわかるか!』


泣き続けた。


長い間こらえ続けた何かは、叫びと涙と共に激しく流れ続けた。


悲しかったのだ。


『シャウールよ。お前の仇である残虐なサラームの始祖達は、もう居ない。お前の王国を奪った者も、お前の家族を奪った者は、もう居ないのだ。どんなにお前が暴れようと、地を荒らそうと、もはやなんの復讐にもならん。これから先、どうするかはお前が決めろ。今日のところは、お前の不死の能力も奪わないでおいてやる。』


その言葉が終わるや否や、周りから気配が消えた。


シャウールが顔を上げると、そこにはもう誰も居なかった。

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