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五将軍の実力

シリウス帝国 帝都郊外の草原


アムレート麾下の将軍達は若い。


全員が二十代で将軍となったが、アムレートよりは年長である。


未だ万を率いる将軍格では無いが、それでもこの五人は帝国内でも格段に出世が早いと言える。


アムレートはこの五人の実力を様々な調練により洗い出していた。


全員長所と短所の差が激しいが、こういったことにアムレートが興味を抱けるようになったのは最近のことである。


オートンという将軍は締めつけに弱いが、攻めは鋭く無駄が無い。


名前が似ているが対称的なのはモートンという将軍で、五人の中では二十九歳と最も年長であるが、騎馬を率いる将軍達の中では珍しく守りが堅い。


シモンズは騎馬の指揮は五人の中で最も下手だが、歩兵を率いるなら攻守共に優れた指揮をする。


ローレンスは目立った長所は無いが、歩兵も騎兵も率いることが出来る。


五人の中でアムレートが量りかねているのがアーネストである。


他の将軍との調練でよく負ける。


負け方もほぼ全滅に近い負け方をする。


臆病なわけでも無ければ、決断力に欠けるわけでもない。


将軍になる前は戦功も挙げているが、将軍になってから調練ではいまいち成果が出ない。


歩兵を率いさせても、騎兵を率いさせても、良い結果にならない。


いっそ降格させてしまいたいとも思ったが、何かが引っかかる。


元帥昇進前のアムレートなら、初日で降格か追放させているに違い無い不甲斐なさだが、やはり何故か気にかかる。


その疑念を解消する出来事が、その日起こった。


前日にやはり全滅同然に惨敗したアーネストを、懲罰も兼ねて調練では副官待遇としてオートンに付けた。


オートンとモートンの合計二千にアーネストの五百が加わった。


対してシモンズとローレンスの合計二千にアムレートが五百を率いて加わった。


アムレートは中盤までほぼ動かなかったが、オートンとモートンの攻守の連携が良く、シモンズとローレンスが押されていったため、まずローレンスの騎兵を立て直すため、オートンの千をしきりに妨害した。


その間にシモンズが歩兵の陣を大きく組み直し、オートンの騎兵千に横槍を入れ、オートン隊が激しく崩れた。


潰走寸前のオートン隊の頭を押さえようと、ローレンスがオートン本人を目がけて千で突っ込んだ。


オートンが負ける時の流れだったが、オートンは無事にローレンスを避けたばかりか、反対にローレンス隊が混乱に陥っている。


アムレートが駆けつけると、今度はシモンズ隊が押され始めた。


横からオートン隊がアムレート隊に横擊を入れて来たが、アムレート隊は縦二つに分かれて、その横擊を上手く躱した。


アムレートは馬首を返してオートン隊を追撃して、横に並びオートン本人を視認できる位置まで迫ろうとした。


予想だにしない横擊を再び受けた。


アムレートに付いて来れていた二百が、五十と百五十に分断され、アムレートがいる五十めがけてオートンが突っ込んできた。


左斜め前方から右斜め後方に貫くことを意図したオートン隊の突撃を、アムレートは手勢と共にオートンの右手側すれすれの距離に進んで回避した。


突然、目の前にアーネストの五百騎が現れた。


アムレートの横に居た兵士がアムレートの盾となりアーネストに弾き飛ばされた。


手勢五十が二十にまで減った。


久しぶりに、戦場で肝を冷やした。


その後、本気で指揮をとったアムレートがローレンスとシモンズを上手く使い、更に大人げない程の実力でオートンとモートンを捕らえ、調練は終わった。


オートンとモートンの隊は潰走寸前になったが、アーネストが上手くまとめて陣を崩さずに撤退した。


幕舎に戻ったアムレートは、過去の調練の記録を全て読んだ。


昼食の後、何かを悟ったアムレートはオートン隊千とアーネストの五百を戦わせた。


今度はオートンが惨敗を喫した。


更にアーネストの五百にローレンスの千をぶつけた。


ローレンスも隊を寸断され続け、突き落とされた。


シモンズとモートンに歩兵二千を率いさせ、アーネストに当たらせた。


二人の敷いた堅陣に攻めあぐねたかに見えたアーネストの五百が、攻勢に出たシモンズをいつの間にか捕らえ、取り残されたモートンは再度堅陣を敷き、アーネスト隊相手に防戦一方となった。


調練を終えて、下馬したアーネストの背中にアムレートが跳び蹴りを入れた。


『くせ者め。今のは俺に冷や汗をかかせた罰だ。』


アーネストはすぐに立ち上がり、黒い髭で覆われた顎を突き出し申し訳ありませんと大声で言ったが、アムレートはアーネストの胸にまた跳び蹴りを入れた。


『謝る必要も無いのに謝るな。』


『はっ!申し訳ありません!』


『日が暮れるまで走って来い!』


『はっ!』


甲冑をつけたままアーネストは走り出した。


幕舎が並ぶ通路の端から端まで何度も走って往復するのが、アムレート麾下の将軍達の罰走である。


他の四人の将軍達は何故いきなりアーネストに負けたのか理解できないでいる。


『奴は確かに調練では負けっぱなしだったが、お前等と奴では負け方に決定的な違いがあった。』


『負け方ですか?』


オートンが首を傾げた。


『お前等と違って、奴は突き落とされたことも捕らえられたことも無い。』


『おぉ、確かに。』


ローレンスが鼻の下に生え揃った洒落た髭を撫でながら頷いた。


『今日はっきりわかった。あいつは頭が悪くて負けるわけでも、弱くて負けるわけでもない。早すぎるのだ、頭の回転が。』


『自滅のことでしょうか?』


モートンが何か思い出したように尋ねた。


『そう、それさ。奴は他の誰よりもお前等の隙や弱点を見つけだしている。おそらく一瞬、一瞬のことなのだろう。だが、そんな瞬間的な判断に付いて来られる兵士が何人居るかだ。』


決して多くは無いだろう。


それにしても、 あの瞬間に隣にいた兵士が盾にならなければ、自分は突き落とされていたのだろうか。


人というのは上辺や短い期間で判断出来ない部分が多い。


そういう難しさに、アムレートは楽しみを覚え始めていた。





出兵直前、仕上げの調練の最中にオズワルドの元にオセロー元帥が来た。


アムレート麾下の将軍達と調練をせよとの命令であった。


会うなと言いながら、この忙しい時に急に調練の予定を入れてきたことに、やや納得がいかない部分はあったが、自分の代わりに入った五将軍に興味はあった。


オズワルドは副官達と兵士五千を引き連れ、アムレート達が調練を行う草原に移動した。


『出陣前に無理を言って申し訳ない。』


後ろから声をかけられ、振り向くと赤い仮面の男が居た。


『陛下!』


オズワルドは馬から転がり落ちそうになりながら、何とか下馬し拝礼した。


『陛下、突然声をかけてはオズワルドでも肝を潰してしまいます。』


皇帝シリウスの横に居るオセローが、相変わらず冷めた声で言った。


何故皇帝がここに居るのかオズワルドには理解出来なかった。


皇帝とオセローが立ち去ると、オズワルドがアムレート達が居る陣営に目をやった。


アムレート自身は、今回督戦のみで指揮はとらないという。


オセローがアムレートに命令したことだと思ったが、アムレート自身が願い出たことらしい。


オズワルドは五人の将軍のことを事前に調べてきていた。


全員優れた将軍達だが、一人一人が指揮できる兵数は自分より遥かに限られている。


今回は五千と五千の戦いであるため、どちらも率いる兵数が多すぎて不自由ということは無いはずだが、まだまだ戦歴も修羅場の数も足りて居ない。


指示を待っていた副官達に向かって、オズワルドは声を張り上げた。


『小僧共に戦の恐ろしさを叩きつけてやろうか!』


副官達はもちろん、五千の精鋭が鬨の声を挙げた。





五人の将軍達は、アムレートから自分たちで陣立てまで決めろと指示されていた。


『無論、俺は騎兵を率いるぞ。』


オートンが鋭い目でオズワルドの陣容を睨みながら言った。


『お前に歩兵を率いさせるという発想は誰もしないから安心しろよ。』


モートンの一言に全員笑った。


『俺に騎兵というのも無いよな?』


『絶対にあり得ない。』


シモンズの問いにモートンが答えたが、シモンズはほっとしているようだ。


『それで、誰が本陣を率いるんだ?』


オートンが鼻息荒く尋ねた。


『ローレンスだろう。』


珍しくアーネストが発言した。


『なぜ私なんだ?』


『もし、序盤で誰かしらが討たれた場合、残兵は騎兵も歩兵も有り得る。残兵を再編成して戦うなら、一度本陣に集める方が良い。それなら本陣に置くのは両方指揮できる人間が良い。』


ローレンスが鼻下の髭をいじりながら笑顔で頷いた。


『俺も騎兵指揮で構わないか?』


『当たり前だ。最年長者は最前衛だ。一番最初に討たれて、俺達若者に活躍を譲ってもらわないとな。』


モートンの問いかけに、オートンが横槍を入れるとモートンがオートンの肩に拳をぶつけた。


『編成としてはオートンとモートンが騎馬一千ずつ、私とシモンズがそれぞれ歩兵一千二百五十、アーネストが騎馬五百でどうだ?』


本陣指揮になったローレンスが得意気に言ったが、誰も反対はしなかった。


五人はそれぞれ配置について話しを詰め、持ち場に向かっていった。





若い将軍達のことだ、功を焦って兵力を五等分するかと思ったが、ほとんど二段に構えている。


強いて言えば、一段目の騎馬隊前半分と後ろ半分に微妙な隙間があるが、それが罠なのか必然なのかは、いま読んでも仕方の無いことだ。


相手は騎馬と歩兵を半分ずつに編成したが、こちらは五千全てを騎馬にした。


丘も窪みも無い平地である。


全て騎馬のみにしても不都合は何も無い。


それどころか、騎馬が多いほど破壊力は増すだろう。


オズワルドは隊を千騎ずつ五隊で編成し、三千騎を一段目の騎兵に三方から包囲する形で当て、残り二千で敵の後衛を務める歩兵を二方向から押し崩す方針をとった。


敵の騎兵と歩兵の距離が遠くはないので、まずは騎兵の戦力を削るか封じ込めつつ、歩兵を押し込んで前衛との距離を離す。


その後、包囲網に合流すれば完全包囲が完成する。


外連味は無いが、容赦も無い戦術である。


オズワルド自身は左翼後衛として歩兵を左から押す。


進軍の合図と共に、一手目から駆けた。


正面の千騎が当たり、いきなり中央を突破された。


あまりの鋭さに驚いた。


傍らの旗手に旗を振らせ、もう一方の後衛に合図を送った。


予定を変更し、歩兵に向かう前に突破してきた敵の千騎を二方向から叩く。


頭を押さえようとしたが、挟み撃ちを狙ったこちらの間を抜けて、駆け去っていく。


敵の残った前衛の騎兵は騎馬で円陣を組み、その円陣も左から右に駆け抜ける形の回る円運動で、左右から圧力をかけにかかったこちらの騎兵の勢いを殺している。


突如、円の左から押そうとしていた騎兵が崩れた。


死角に敵の騎兵がいて横擊を食らっている。


先ほど駆け抜け去った千騎も馬首を返して戻ってくる気配がある。


円の左右両翼から敵の歩兵も迫ってきた。


オズワルドは自らの千騎で迷わず戻ってくる千騎に向かって行った。


鋭さと硬さがぶつかるような衝撃の中、オズワルドは敵の千騎を率いる指揮官だけを見ていた。


向こうもこちらを仕留める気だろう。


鋭い棒の突きに盾が飛ばされたが、力ずくの一撃で敵の指揮官を叩き落とした。


旗を振らせ、他の四千騎を戻したが横擊を受けた千騎の指揮官が落とされていた。


『小僧共は予想以上にやる。戦力はこちらの方が勝っているんだ。策も巧さも捨てろ。力だ。力ずくで押し勝つぞ!活路は前だ!いくら犠牲を出しても構わん!前を崩すことだけを考えろ!』


突撃し、五千全ての騎兵で敵の前衛を押し潰しにかかった。


堅い上に、横から鋭く貫かれる感覚が何度も何度もあったが、力で無理やり崩した。


後衛も同じように崩した。


敵の残存戦力が五百余まで減った時、終了の合図が鳴った。


こちらも残りの戦力は二千を下回っていた。


調練では有り得ない、想像を絶する死闘であった。





『凄まじいな、双方共に。』


皇帝の表情は仮面でわからないが、声は満足そうである。


『戦術を瞬時に捨てたオズワルドの判断に軍配が上がりましたな。』


『騎兵の質がオズワルドの方が良い気はするがな。』


『確かに。騎兵の質が同等であれば、勝敗は違っていたかもしれませんな。』


冷めた声で言いながらも、オセローは内心驚いていた。


オズワルドが率いていた騎兵は、元々アムレートが重装騎馬として鍛えあげたもので、兵の練度も馬の質も違う精鋭中の精鋭である。


それが三千以上も倒されていた。


『アムレートの様子はどうだ?悔しがっているか?』


『いえ、おそらく満足しているでしょう。五将軍はまた走らされるでしょうが。』


『厳しいな、相変わらず。』


『走らされている五人は楽しそうに見えますが。』


『若さか、それも。』


皇帝はいつにもまして機嫌が良かった。





オズワルドの元に五人の将軍がやって来た。


全員が下馬し、オズワルドの前に整列している。


同じ将軍とはいえ、オズワルドは今や最大三万までを指揮する権限を与えられているため、格の差は大きい。


『いや、楽にしてくれ。お前なかなか鋭いな、攻めも武器の扱いも。俺はまだ左手が痺れてる。』


調練でやり合っている時とはまるで違う朗らかなオズワルドの笑顔に、オートンは恐縮ですと普段とはまた違いかしこまっている。


『お前も中々守りが堅い。騎馬であんな守り方をするのを俺は初めて見た。』


『恐縮です、将軍。』


最年長のモートンが固くなっているせいか、他の四人も固まってしまっている。


全員まだ若く、苦も無く捻ることが出来ると思ったが、五人が連携すると手強かった。


『若、いや、アムレート元帥は来られないのかな?』


『申し訳ありません。オセロー元帥に呼ばれて何処かわかりませんが』


『構わんよ、謝る必要は無い。ところで、うちの副官を二人も突き落としたのはお前か?』


そう言われてアーネストがうつむきながら前に出た。


よくやったな、そう一言だけ声をかけた。


他の四人も素晴らしいが、この男は異才を放っている。


この男だけは、最後まで落とすどころか速すぎて止められなかった。


アムレートが若手の将軍を立派に育てつつある。


オズワルドはアムレートの成長を嬉しくも思ったが、少し寂しい気もした。

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