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第3話 公園と弾き語り

俺は店を出た後、喫茶店から家の方向に5分ほど歩いたところにあるコンビニで今日の夜食を買うことにした。


「いらっしゃいませー」


 正気のない声だ―― まあ、所詮バイト。俺も『挨拶がなってない!』なんて怒鳴るような老害じゃないからこんな事でイラッともしない。しかし俺もバイトとかすべきなのだろうか、高校に行ってた頃も悪さをして退学になったヤンキーがどっかのコンビニでバイトしてたみたいな話はよく聞いたもんだ。(もちろん盗み聞き)でもバイトかぁ……学校に通うことすら困難だった自分が働いてる姿をどうも想像出来ない。親もそれは分かっているらしく、バイトしろなんて言わないし、むしろニートなのにお小遣いまで毎月くれる。俺は親には恵まれているんだと思う。そんな親を裏切りたくないから大学には絶対進学しないといけないなと思う。そんなことを考えながら、俺は『じゃ○りこ』と『メープルメロンパン』を買った。


 コンビニを後にした俺は家へと向かう。その途中で公園があるのだが、その公園を横切れば家までショートカットできるためいつもその公園を通っている。

 すると、公園からアコギの音が聞えてきた。何か歌っているようだが声が小さくてメロディと歌詞は良く分からない。


 B♭ F C Dm


 いわゆるへ長調の4156コード進行が聞えてきた。俺は、幼稚園の頃から中学卒業までエレクトーンを習っていて、その経験のおかげか絶対ではない(・・・・・・)くらいの音感がある。単音なら9割当てれるし和音も聞き慣れているものならほぼ当てることが出来る。このコード進行はちょうど昨日出した新曲でもメインで使っているお気に入りのコード進行だ。そして俺は吸い寄せられるように音の鳴る方へ歩いて行った。

 そこにいたのさっき喫茶店にいたハーフ美少女中学生だった。向こうも俺が近づいてきたのに気付いたらしく演奏を止めてしまった。


「あ、さっきいた英語が苦手な人だ」


 彼女から先に声をかけてきた。というか見てたのかよ……。てか失礼だな、可愛いからいいけど


「あはは、見てたんだ。ところでギターの練習してるの?」

「うん、昨日ネットで良い曲見つけたから耳コピして練習してる」

「へえ、俺も音楽やってるんだ、良かったら聞かせてよ」


 下心ありまくりだ。こんな美少女とお近づきになれるチャンスなんて、人生に一度あるかないかだ。人と話すのはどちらかと言うと苦手な方だが、今は勇気を出して話かけて仲良くなる必要がある。きっとそうに違いない。神がそう言っているような気がする。すると彼女はまたギターを弾き始めた。


 B♭ F C Dm


 さっきと同じこのコード進行を繰り返しながら鼻歌でメロディを歌い始めた。

 俺は、八小節ほど聞いて気付いた。


 ”これは俺の曲だと”


「え!? 待って、その曲、どこで知ったの?」

「どこって、ネットってさっき言ったじゃん。ボカロって分かる? この『(かなで)』ってボカロPが昨日出した曲。全然有名じゃないけど、好きなんだ、この人の曲」


 そう言って彼女はスマホを差し出した。画面に表示されていたのは俺のSNSのプロフィールだった。


「えっと……。その(かなで)っての俺の事」

「は?」


 完全に疑っている……。彼女はまるで不審者を見るような目でこちらを見た。

 そりゃそうだ。第三者が見れば明らかに言動がおかしいのは俺の方だ。まさかネットで見つけた曲の作者に偶然出会うなんて思わないだろう。俺だって逆の立場ならそう答える。


「えっと、証拠、ほら!」


 俺はスマホで自分のSNSのプロフィール画面を出して、それを彼女に見せた。

 それを彼女は数秒見つめた。そして俺の言ったことが本当だと気付いた彼女は目を大きく見開いてこう言った。


「――ええええ? マジじゃん。じゃあ、お兄さんが(かなで)さんってこと?」


 さっきまで口を小さくして喋っていた彼女が、突然声のボリュームを上げたので少し驚いてしまった。


「そう、俺がその(かなで)。本名は同じ漢字で『かなで』じゃなくて『そう』って読むんだけどね、あと名字は國木田、國木田奏」


 よし、さりげなく自己紹介が出来た。一歩お近づきになれたのでは?


「私は、白雪詩(しらゆきうた)。ネットでは平仮名で『しらゆき』って名乗ってるの、昨日リプ送ったんだけど、分かるかな」

「あぁ、しらゆきさんか、俺の曲気に入ってくれてありがとう。俺もしらゆきさんの弾き語り好きだよ、まさか俺の曲を練習してくれてたなんて、なんか嬉しいな」


 凄い偶然だ。ネットで知り合った人と実際に会ってみるなんて話はたまに聞くが、偶然出会った人が、実はネットでは知り合いだったなんて話はかなり珍しい話だろう。ここまでくると何か運命を感じてしまう。今まで友達を自分から作ろうとしたことはなかったけど、今は違う。白雪さんともっと音楽の話がしたい。もっと仲良くなりたい。ならば次はLI○N交換だ。しかしどう話を切り出そう。いきなりすぎるか? キモイって思われちゃうか?


「そうだ、LI○N交換しない?」


 まさかの彼女から提案だった。


「私、リアルで音楽の話できる人いないからさ、中学校も行ってないし……」

「そうなんだ、俺も高校は行ってないよ、というか辞めた。だから今実質ニートなんだよね」


なんだか境遇が似ている親近感が湧いた。


「はい」


 そう言うと、白雪さんはLI○NのQRコードを差し出して来た。

 俺はそれを読み取り友達追加のボタンを押した。


 するとその時、『きゅ~』と誰かのお腹が鳴った。割と大胆に……。

 俺じゃない。俺はさっき喫茶店でサンドウィッチを食べて満腹とは言えないがけしてお腹が減っている状態ではない。ということは――

 俺は白雪さんの顔を見た。俺の目には頬を赤くして少し恥かしそうに笑う白雪さんが見えた。非常に可愛い――。眼福だ。


「白雪さん、もしかしてお腹減ってたりする? さっき喫茶店で何も食べなかったの?」


 俺がそう聞くと、白雪さんは少し暗い顔をしてこう言った。


「私の家、貧乏なんだ。今日もお昼にパンしか食べてない――。喫茶店ってちょっと高いし……。 でもあそこのミルクティー凄く美味しいから、どうしても飲みたくなってたまに行くんだよね、あと『白雪さん』って呼ばないでくれると嬉しい、リアルで名字で呼ばれるのなんかあんまり好きじゃないの、だから『詩』って呼んで」

「そうなんだ、なんかゴメン。良かったらこれ食べる? あげるよ、コンビニの菓子パンだけど」


 俺はそう言って、さっきコンビニで買ったメープルメロンパンを差し出した。


「本当にいいの? ありがとう!」


 すると詩は、よっぽどお腹が減っていたのかすぐに開封して長い髪のもみあげも一緒に口に入ってしまうような勢いで食べだした。まるでハムスターがヒマワリの種を食べるような姿は非常に可愛らしかった。――眼福だ。


「ところで、家はこの辺なの? 俺はこの公園から歩いて3分くらいのとこだけど」

「あっち」


 詩はそう言って、俺の家の方向とは90度ほど違う方角を指さした。気付けばもう食べ終わっていた。


「あ、そうだ、分からないとこがあったんだ。訊いてもいい? ちょうど作曲者本人がいるしわけだし」

「うん、全然問題ないよ、どこのコード?」

「サビに入るとこの、あのちょっとオシャレ感じのやつ」

「あー、そこはA7だよ、B♭ F C A7ってサビに行く感じだね」


 詩はギターを構え、すぐさまA7の音を鳴らした。


「なるほどぉ……」


 そして、次は鼻歌ではなく歌詞を付けて、弾き語りを始めた。自分が作った曲の歌詞を誰かに歌われるのは何だか気恥ずかしいけど、そんな思いなんてどうでもいいくらいに詩の歌声は素晴らしかった。生で聴く詩の歌声は、天性の歌声だった。中学生らしい子供の声でありながら、ビブラートとか技術もちゃんとしてるし、何より声そのものが美しい。優しくて、力強くて、心に直接語りかけてきた。


 才能ってやっぱりあるんだな――


 俺はそう実感した。二日くらいで書いた正直自分では薄っぺらいと思っている歌詞が、彼女が歌うだけで、まるで想いの詰まった美しい歌詞のように思えた。


 俺はこの子と一緒に音楽がしたい。詩に俺の曲を歌ってほしいし、俺も詩のアコギで作った曲を編曲をしたい。とにかく詩と一緒に音楽を作り上げたい。


「なあ、俺と音楽を一緒にやらないか」


 思わず口に出ていた。


「へ、一緒にってどういうこと? 奏とコラボってこと?」

「あー、なんというか、コラボって言うか――俺は詩の声に惚れた。詩の演奏に惚れた。だから、俺の曲を歌ってほしい、そして俺も詩と一緒に曲を作りたい」

「いいよ、私も誰かと一緒に音楽やりたかったし」


 詩は無邪気に笑った。――眼福だ。

 というか、言ってから気付いた。今俺は惚れただとか告白みたいなことを言ったんだよな、まあ向こうはそこまで気にしてないみたいだし変な人とは思われてないと信じよう……。


「今日はもう遅いし私は帰るよ、なんか久しぶりに会話した、じゃあまたね」


 そう言って詩はギターをケースにしまい、帰って行った。

 ”またね”か、特に深い意味はないんだろうけど、何だかその言葉が俺には嬉しく思えた。

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