第二幕、「鉄騎兵の戦場」開演
即位歴227年3月31日、ついにナムレグ軍第一、第二地上戦闘機師団が国境付近で行動を開始した。その報を受けたドゥナレシュツェウド参謀本部は、アイゼンリッターグルッペの出撃を決定する。
第二幕 第一章 ナムレグ動く。
アイゼンリッターグルッペ隊長ヴォルフ中尉-任官に伴い昇進した-は敵が戦車隊を警戒し、戦車が進入出来ない森林地帯を通ってくると予想し、部隊を配置した。そしてもし敵が平地を通って来たらベルガー機甲師団が正面より砲撃する手はずであった。ナムレグ第一地上戦闘機師団長アーベルはその情報を手に入れた上で、森林地帯を通ることを決定した。
「アーベル師団長、なぜ敵がいると分かって森林地帯を通るのです?」
「では逆に聞くがどこを通ればいいというのかね?ベルガー機甲師団の目の前にのこのこ出てゆけとでも言うのか。」
「、、、」
「では、始めよう。全部隊、前進せよ!他の部隊には目もくれるな。第一地上戦闘機師団が敵をおさえている間に、第二地上戦闘機師団は都市部に突入しろ!いくら何でも、自国の市街地内で大規模な戦闘は行えないはずだ!」
「ベルガー師団長!敵がまっすぐこちらへ向かってきます!」
「よし、敵はこちらも地上戦闘機を配置したと知り、近接戦闘を仕掛けてきたのであろう。しかし我らとてそう甘くはない。ヴォルフ!敵さんを教育してやれ!」
「了解!重攻撃機、全砲門開け!」
「敵が射程距離に入るまで後100m、、、50m、、20m。敵が射程に入りました!」
「射撃開始!」
轟音が鳴り響く。その時、アーベルの脳内に、ベルガーに負けた記憶が蘇った。
「着弾まで後5秒、4、3、2、着弾、今!」
第二章 Das Ende
「いくら何でもこれはひどすぎる。まさかドゥナレシュツェウドが地上戦闘機に砲を載せるとは!」
第一撃でナムレグ軍は大損害を負った。しかし、アーベルはすぐに正気を取り戻す。この男は主観と客観の切り替えが早く、この場合狼狽える自分に嘘をついてでも落ち着く必要が有ることを知っていた。
「狼狽えるな!こちらも砲兵隊がいる!長距離砲撃開始!」
だが10秒後、その希望は虚しくも打ち破られた。
「重攻撃機隊、盾構え!」
重攻撃機隊の盾により、ドゥナレシュツェウド軍は砲撃を耐えた。
「今だ!軽戦闘機、重戦闘機は突撃せよ!敵軍の頭を打ち砕いてやれ!」
ここに、世界で初めての地上戦闘機同士による戦闘が行われた。だが、対歩兵用に作られたナムレグ軍の地上戦闘機と違い、アイゼンリッターは初めから地上戦闘機との戦闘も考慮して造られたため、その差は歴然であった。
「ヴォルフ隊長!こちらアレクサンドロス。敵のもう一部隊が我らを無視して都市部へ向かっている!」
「そうか。ならば喰え。」
「了解しましたあぁぁぁ!」
これはもはや戦いではなかった。一方的な虐殺であった。それはさながら、地上戦闘機初陣の時の歩兵との戦いのようであった。
「アーベル司令!もう機体が保ちませnぐわぁぁぁっ、、、」
「司令、敵の攻撃が強力過ぎます。作戦の中止を!」
報告した血まみれの部下は、脱出したところを敵地上戦闘機に踏み潰された。至る所でこのような状況が起きていた。一連の様子を見ていたアーベルは大きな傷を負った。体にではなく、心にである。
「もうだめだ。勝つことなど出来ない。この国も滅びる。そもそもこの国はだめだ。その、この国は、この国は。クソッ。だめだ。ああ。うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
このアーベルの独り言は、無線を通して全機に聞こえていた。生き残った内の一人がこの音声を保存しており、近年発見され、話題になった。
「アーベル司令!落ち着いて下さい!」
「落ち着いてなんていられるか。もう嫌だ。嫌だ!」
この時アーベルは部下の機体を撃破した。そして単身、行く当てもなく乱射しながら突っ込んでいった。
アーベル大将48歳、壮絶な戦死。
「アーベル司令戦死!繰り返す。アーベル司令戦死!」
「なっ、、。」
「こちらドゥナレシュツェウド軍司令ローデリヒ・フォン・ベルガー上級大将。降伏されたし。身の安全と、祖国への帰還を保証する。直ちに降伏されたし。」
「、、、分かった。降伏する。」
「よし、敵は降伏した。ヴォルフ。もう一部隊の様子は?」
「完全撃破。恐らく一機も残っていないでしょう。」
「分かった。損害は?」
「軽戦闘機七機及び重戦闘機二機が撃破されました。中々敵も、強かったですな。あのアーベルという男、侮れません。」
「そのアーベルが死んだ。」
「、、、は?」
「敵ながら、非常に辛い。冥福を祈ろう。」
「、、はっ。」
「では我々は、当初の予定通りこのままナムレグの首都を目指す。この日がナムレグの終わりの始まりの日になるだろう。」
この戦いで高い汎用性を示した地上戦闘機は、大々的に注目を受けることとなり、単価が安いことも相まって世界中に普及する。ここに、地上戦闘機の時代が到来した。