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鉄騎兵戦争録  作者: 機械河童
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死ぬ兵そして国

第三章 ドゥナレシュツェウドの反撃

 即位歴227年2月3日早朝、ベルガー機甲師団が前線へ着任。同時に、皇帝の勅令第7号「反撃し、勝利せよ。それだけが予の希望である。」が発令された。この勅令に兵士たちは大いに奮い立った。が、司令部はそこまで明るくなかった。

「これで兵士たちの士気は上がった。だが、我々は浮かれてはならない。2時間以内に作戦を決定させる。」

ベルガー上級大将が言うように、司令部は浮かれてはいけない。いや、恐らくこの状況において浮かれる方が難しかったであろう。この時既に防御線を張っていた砲兵隊もゲリラ戦術により半数が撃破され、歩兵も当初の3分の1まで減っていたから、誰も簡単に勝てるなどとは思っていなかったのである。

「少数が多数に勝つためにはどうすれば良いか、ベルガー、何かコツのようなものはあるかね。」

「何なのだこの爺さんは。元帥にまでなってそんなことも分からんのか」ベルガーは内心この年寄り元帥のことを卑下したが、口には絶対に出さない。それが大人の対応というものだ。

「はっ。まず、遊兵を作らないこと。敵の弱点を正確に、迅速に突くこと。そして、長期戦を避けること。この3つであります。元帥閣下。」

「そうか。では、全兵力を上げて敵の本隊を突くのと、まず地上戦闘機を倒してから本隊を攻めるの、どちらが良いと思う?」

「それは明らかに後者でしょう。本隊は固く守られておりませんが、地上戦闘機は部隊が単体です。さらに、敵は地上戦闘機の成功によって士気を上げ、勢いを盛り返しました。なので、地上戦闘機を叩けばたちまち敵の士気は下がり、潰走するでしょう。ですからここは、全兵力を上げて地上戦闘機を撃滅する他ありません。」

「そうか。ならば部隊の編成と指揮はお前がやるがよい。ベルガー。」

「はい。今すぐ出撃準備に取り掛かります。」

だが、この時既に、第1地上戦闘機師団は行動を開始していたのだ。アーベル師団長は、穴が空いた敵防御線を突破し背面展開する作戦を立案し、実行に移していたのだった。

「司令部からの連絡は電波不良と言って全て切れ。口喧嘩でもしてこの作戦が失敗すれば、いよいよこの国は終わりだからな。」

不敬罪ともとれる内容だが、この時まさに、負けたら国が滅びる、国家の存亡をかけた戦いにまで発展していたのだった。

「砲兵隊より入電!敵が背面に展開せり!」

ベルガーがこの報を聞いたのは8時47分、今まさに機甲師団が出撃するところであった。

「くそっ。だがこれで敵を探す必要が無くなる。急ぎ敵正面へ出ろ!そうすれば敵は撤退することもできずに我が部隊との正面対決をせざるを得なくなる!」

しかし、不幸は続くものだ。

「ベルガー上級大将。軍務省から、敵の地上戦闘機を鹵獲せよとの命令が下されました。」

「ふざけるな!そんなことは無理だと軍務省に伝えろ。」

「はっ」

実はこの戦いでは既に地上戦闘機を鹵獲していたのだが、着任したばかりのベルガーはその事実を知らなかったのだ。この鹵獲した地上戦闘機のおかげでベルガーの罪は相当軽くなったのだが、それでも帰還後、1週間の謹慎を命じられることとなった。

 正午過ぎ、遂に第1地上戦闘機師団とベルガー機甲師団の"決戦"が始まった。

「常に敵の正面に立て!機甲師団に対して地上戦闘機は効果がない!」

しかし地上戦闘機にもみすみす撃破される義務は無い。必死に敵の後方に回り込む。

「地上戦闘機の奴ら、こちらの動きより遥かにすばしこいな。だが、それくらいの事は想定してある。砲兵隊は12秒後に砲撃開始。目標、敵地上戦闘機!」

一方アーベルは機甲師団の後方に回り込み、照準を合わせ、勝利を確信していた。

「全機攻撃開始!ドゥナレシュツェウドの連中の息の根を止めろ!」

その時、戦場が轟音に包まれた。半瞬の後、第1地上戦闘機師団の勝利への希望は半数が乗機とともに消え去り、残りの半数には絶望だけが取り残された。

「、、、?」

アーベルは数秒間、自らの存在すらも忘れ、ただ絶望の底なし沼に埋まっていた。だが、すぐに正気を取り戻すと、いまだ絶望の尾を引いている部下を集め、急速に撤退していった。全滅を免れたのは地上戦闘機の高い性能と何よりアーベルの高い戦闘指揮能力にによるものだと後の研究では言われている。しかし、当時の司令部に、アーベルの戦闘指揮能力を評価する者は誰一人としていなくなっていた。

 ドゥナレシュツェウド軍の兵士たちは、勝利による喜びを皆隠しきれず、酒宴を開いていた。だが誰もそれを止めなかった。勝ったとはいえ、歩兵師団が壊滅し、砲兵隊も甚大な被害を負い、多くの兵の命が失われたのだ。だからせめて、生き残ったものたちにはその喜びを、死んだものたちの分まで味わってもよかろう。

 そして、死ぬのは兵士だけではなかった。


次回、敗北したナムレグは更なる失敗を犯す。そして、ドゥナレシュツェウドでは新たな計画が行われようとしていた。

 前線がどちらへ動くか、それはまだ誰も知らない。


~用語解説~


ローデリヒ・フォン・ベルガー

 年齢48歳

 出身ローデリヒ家(貴族)

 階級上級大将

 即位歴203年に士官学校を卒業し、機甲師団に配属される。その後隊内で出世していき、上級大将となった。兵士からの人気は絶大である。

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