宇宙魚
宇宙魚。
どうやら、宇宙にも魚が泳いでいるらしい。
私はまだ、宇宙には行ったことがないからわからないけれど、私は、空も好きだし、海も好き。できることなら地上ではなく、海の中か、空の上に行きたいと、いつも思っている。私は水族館が好き。魚が好き。魚が泳いでいても、泳いでいなくても、水の中で息をしている姿がとても大好き。
私が一体どこで宇宙に魚がいるということを知ったのかと言うと、インターネットの掲示板でたまたま、本当にたまたま見かけたのだ。私はただ、いつものように雑多に流れる多くの情報を収集していただけだった。
私が今、空を見上げても、上に見えるのは空と雲と飛行機と鳥と電線だけ。下を見てもコンクリート、たまにマンホール、排水溝、雑草、投げ捨てられている空き瓶。そのくらいである。私は空き瓶を拾った。
不意に、その空き瓶で遊びたくなった。近くの公園で瓶を洗い、持っていたポケットティッシュで軽く拭いた。その中に、この間別れた彼氏といったときに買ってもらったイルカのネックレスをいれてみた。いざ蓋をしようとおもったのだが、あいにく蓋はなかった。栓に代わるものがないかと考えているところに、声をかけられたのである。
「おねーちゃん何してるの?それアタシもほしい。」
見ると全身びしょ濡れの小さな少女だった。水遊びでもしていたのだろうか。手には少し柔らかそうなスーパーボールのようなものを持っていた。これだ。
「ねぇキミ、そのボールお姉さんにくれない?」
大きさもかなりちょうど良い。少し柔らかそうな素材だからぴったりはまるような気がした。
「その中にはいってるやつとコーカン。」
物々交換を要求されたのである。まぁ私も、少女の要求を無視してお願いした訳だから、仕方ない。でもこれをあげると中に入れるものがなくなってしまう。
「この鎖の部分と、イルカの部分、どっちかなら良いよ。」
「じゃあイルカ!」
まぁそうなるだろうとは思っていたが、これで成立。私はネックレスについていたイルカを少女に渡し、ボールをもらった。結局瓶の中には鎖だけになってしまったが、まぁいいだろう。少女は喜んでいた。
「ありがとー!アタシイルカすきなの!」
「お姉さんも海の生き物大好きだよ。」
「イルカといっしょにくらしたい!」
この少女も私と同じ海好きらしい。私はこんな幼い子相手に変な話を始めた。
「宇宙にも、お魚さんが泳いでるって知ってる?」
「うちゅ?」
「んーっと…空、だよ。」
私は指を指す。
「え!みたことない!どこ?」
「うーん、すっごく高いところにいるから、ここからは見えないかなぁ。」
そういうと残念そうにしていたが、空にもいるなんて知らなかった、空のイルカにのったら空を飛べちゃうね、なんて少女はまた元気に話し始めた。
「じゃあお姉さんはそろそろ帰るね。」
少女に捕まる前に私はすぐ近くの港へ向かった。
堤防の1番奥まで行き、ゴムボールでキャップした瓶を、なるべく、なるべく遠くに投げたつもりだった。あいにく運動音痴の私にはそんな遠くに飛ばすことはできず、漁師さんに拾われないことを願う事くらいしかできなかった。
投げてから1時間くらいは瓶の行方を黙って見つめていた。港からはだんだん離れていってくれてたので、もう大丈夫だろうとその場を離れた。
それからだいぶ経って、私は宇宙飛行士になった。どうしても宇宙魚を見たかったからだ。人に話せば馬鹿にされたが、私は信じていた。みんな、見たことがないだけなのだ。私が見ればいい。そう思っていた。
しかし、いざ宇宙に行っても、魚を見つけることはできなかった。すぐに地球に戻るわけではないから、私は起きている間は必死に魚を探していた。というより、宇宙についてから、魚探しに必死であまり眠れてなかった。仲間に、きちんと寝ないとダメだと怒られてしまったので、とりあえず一度足りてない分の睡眠も取ろうと、ゆっくり寝ることにしたのである。
朝。朝なのかわからないけど多分朝。なんだか眠れたような眠れてないようなそんな気分で目が覚めた。正直何時間寝たのかわからない。ここ最近全く寝てなかったから。ひどく疲れてたようで、最後の記憶すら曖昧。気が付いたら病院っぽくはなかったが病室らしき部屋のベッドの上にいた。どこかの研究室?ここを私は知らない。
「あ、起きたんだ!」
私の所属してる宇宙研究グループのメンバーが居た。
「ほんと死んでるかと思ったよ。息してるから流石に死んでるとは思ってなかったけどね!お医者さんも見てくれてたし。」
「矛盾してるよ…どのくらい寝てた?」
「すごいよ〜3日間!」
「ごめん何もできなくて。」
「大丈夫大丈夫。もう1人がなんとかしてくれるって!」
「ありがと。」
「あ、ちょっとお医者さん呼んでくるから診てもらって!」
そういうと走って部屋を出て行った。ここはどこ?と聞けばよかったが、自分で外に出て確かめる事にした。すぐに医者は来ないだろう。
どうやら小さい建物で、すぐに外に出られた。自販機があったのでポッケに手を入れるがもちろんお金は入ってなかった。しかし、お気に入りのイルカのアクセサリーが入ってた。それを見てふと思い出す。
「宇宙魚かぁ。」
ふと上を見る。起きたばかりであまり意識がしっかりしてない。私の脳は魚を探した。すると目に、キラキラと何かが映ったのである。何かが、浮かんでる。でも少し遠くて分からない。
「…宇宙魚か。」
分からない。でも宇宙魚かもしれない。でも私は自分の今置かれてる状況を忘れすぎてた。
急いで建物に戻ると、もうメンバーと医者が来てた。
「ごめん、ちょっと急ぎの用があって。」
「まだ安静にしてないとだめだよ!」
「空に浮いてるキラキラしてるものを捕まえて欲しい、お願い。」
「空?何言ってるの?上にキラキラしてる何かがあるの?」
「いやわからないけど…居なくなっちゃう前に捕まえて欲しいの。」
「お医者さん…どうしましょう?」
「まあまず横になって貰えますかね?」
「早く!お願い!居なくなっちゃう!」
必死に伝えた。するとメンバーは仲間を呼んで捕獲を試みてくれたみたいだが、見失ってしまったらしい。時間が経ってたし仕方ない。
結局、わからなかった。
けど、私は宇宙魚なんだろうと思い込んだ。
もう一度、探しに行こうかな。そう決意をした。
起きてから復路でも目を凝らして宇宙魚を探した。
結局、見れなかったなぁ、宇宙魚。とついこぼしてしまうくらいには、疲れていた。
やらなくてはならないことを数日かけて終え、自宅に帰る途中の道で、公園に寄った。するとびしょ濡れの大学生くらいの女の子が立っていた。つい声をかけてしまった。
「あの…大丈夫ですか?」
こんなんでは足りないだろうとは思いつつもタオルハンカチを出した。
「いえ、すぐ乾くから大丈夫です!」
「いやいや…どうしたんです?」
「ちょっと海に入ってたんです。気にしないでください。」
女の子は苦笑いしていた。今は秋だし、相当おかしい行為である。何かわけでもあったのだろうか。
「どうしてこんな時期に?もしかして海が大好きとか?」
「好きですよ。落ち着いたら帰ります。」
「寒くない?あ、ちょっとまってて。」
私は近くの自販機であたたかいココアを2つ買った。
「これ飲んでよ。」
「わ、ありがとうございます!」
2人で飲みながら、特に会話もなかったが穏やかな時が流れた。
「捨てて来ますね。」
女の子は私の分の缶もいれて2つと、いつ飲んだのかわからない空き瓶をもってゴミ箱に向かった。
私は空を見上げた。探してしまうのである。魚を。
「何見てるんです?」
「いやー、何かいないかなって。」
魚を探してるなんて言えなかった。
「あー、私もつい見ちゃいますよ。探しちゃうんですよね。」
「探すって…何を?」
自分が答えられないことを聞いてしまった。
「馬鹿にしませんか?」
「まさか。しないよ。」
緊張した。
「やっぱやめときます。」
内心、私もホッとした。
「そっか。いいよ。」
「居なかったんです。いると思ってたのに。」
「そうなんだ。私も、見つけたいものは見つからなかったよ。」
「…そうなんですか?」
「うん。似てるね。私たち。」
「なんか安心しました。」
夕日が強く、女の子のつけているネックレスが光った。
「そろそろ日も暮れて来たし、風邪引くから帰りなね。」
「ありがとうございます!ココアご馳走様でした。」
2人はその場で別れた。
女の子は眩しい港の方に帰って行った。
こちらも突然書きたくなり2時間程度で仕上げました。