14.主人公補正
第14話「主人公補正」
「クソが・・・厄介だな、氷結剣技・・・」
イフリートは凍りついた爪にブレスを浴びせる。
しかし、
「・・・なんだ、溶けねえ・・・」
氷結した爪が溶けることはなかった。
「溶けねえよ。それはな。」
私は剣を両手で持ち、正面のイフリートに向けて構える。
「ハッ!なんだよその構えは。」
「いいんだよ。これが俺の、臨戦態勢だから。」
その構えは、私にとっては馴染みのある、一方で忌々しい構えの型。
視線はそらさず、呼吸は落ち着ける。
冷静に、見極める。
相手も生物。
無敵じゃない。
「そうかい。それじゃあ・・・遠慮なく!!」
巨大な爪が正面から迫ってくる。
・・・いや違う。
これは・・・
「側面がら空きだぜぇ!?」
正面からの爪は囮だ。
側面から来ていた尻尾は先ほどと変わらぬ勢いで、
「知ってた。」
私はそれを剣の腹で受け止めた。
両刃の剣が尻尾と私の掌に挟まれる。
「ぐぬっ・・・!さすがの威力だな・・・」
攻撃は受けきったが、反動で大きく後退してしまう。
左手からは血が垂れていた。
「ギャハハハッ!おいおい。せっかく受けきっても、その方がダメージデカイんじゃねえかぁ?」
奴の挑発には乗らない。
尻尾の先は、青白く輝いている。
「・・・安心しろよ。ここから反撃開始だ。」
「ほう、そいつは楽しみだな!!!」
イフリートの爪が炎を纏う。
先ほどまでとは違う、本気できている。
落ち着け。
落ち着いて見極めろ。
あいつの一撃は強力。
でも、避けられない攻撃じゃない。
両手による爪の攻撃は、腕の根元には届かない。
私はイフリートの左腕の付け根に飛び込み、斬りつける。
しかし強靭な逆鱗に弾かれた。
「バカかッ!!」
右手の爪が迫る。
私は空中で、燃え盛る炎を斬りつけた。
剣の当たった場所から凍りついていく。
瞬時に右手の爪にまとわれていた炎が氷点下へと温度を落とす。
「だからどうしたッ!!」
「があぁぁッ!!」
しかし爪の勢いそのものは消せない。
私はギリギリで受けたが大きく吹き飛ばされた。
固い石の床を転がる。
「がはっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
だが、すぐに状態を起こし、剣を構える。
足にうまく力が入らない。
それでも、立ち上がる。
「ギャハハハッ!運のいい野郎だな。ギリギリで避け続けてやがる。だが、その運もいつまで持つかな?」
「運じゃねえよ。だから尽きることはない・・・」
「ギャハッ!運じゃなかったらなんだってんだよ!実力とでも言うつもりかぁ!?」
「いや・・・そんな大層なもんでもないさ。こいつは、『主人公補正』だ。」
運よく何度も攻撃を退けられる訳がない。
ご都合主義の不思議な力、それが主人公補正。
「訳のわかんねえことを・・・」
「ああそうだろうな。お前じゃ一生分からないよ。」
「チッ・・・そうかよ。」
イフリートが尻尾を地面へ叩きつけた。
ぐらり、と地面が大きく揺れ体制が崩れる。
「じゃあさっさと死ねやァァ!!!」
特大の炎をまとった爪が迫る。
受けて見せる。
剣を握る手に力を入れた。
「水鉄砲!!」
攻撃が私に当たる直前、横から飛んできた水の弾丸がイフリートの爪を撃ち抜いた。
「ギャアアアアッ!!!」
爪を大きく損傷した奴は叫び声をあげる。
「全く、下品な声ですわね、フレイア様。」
声の主は、戦場の風に金髪をなびかせ、戦火に碧眼を輝かせていた。
「ミクリ!さっさと立ち上がりなさい!私というヴァルキリーが来て上げたんだから、負けは許さないわよ!?」
彼女、ティラは上からの大きな態度で私を激励した。
その言葉に、自然と力が戻ってきた気がする。
「ははっ・・・口の悪いヴァルキリーがいたもんだ。」
この時点で既に負ける気はしなかった。
何故って、
今、私史上最強の主人公補正が働いてるから!