結婚してください!
「ユキちゃん、僕と結婚してください!!」
「うん! いいよ!」
思わずずっこけそうになるくらい軽い返事だ。絶対雪音は“結婚“という意味が理解出来ていない。
しかしプロポーズをあっさり了承されたタケシくんはガッツポーズをしてテンションを上げていた。
ことの始まりは某特撮アニメが影響している。
その主人公が守りたいヒロインに対して、「○○さん、僕と結婚してください!」とプロポーズしたらしい。
まあそれくらいは俺にだってわかるし、雪音も年頃になればそういう相手もできるだろう。
でも今は違う。明らかにヒーローごっこの流れで言ったよな絶対!?
小学校にあがった俺と雪音は近所の公園でタケシくんとヒーローごっこでまだ遊んでいた。
お互い両親が共働きでいないので、外でギリギリまで遊んでいた方が近所の人達の目があってちょうどいいらしい。
「あ、でもユキはひろちゃんと結婚するからタケシくんと結婚できないよ?」
シーソーに座っていた俺は飲んでいたジュースで思い切り咽せた。二人ともヒーローごっこの流れでそんな話をしたわけじゃないのか!?
当たり前だが、告白して速攻振られたタケシくんは俺を睨みつけてきた。
「ユキちゃん、弘樹は兄ちゃんだから結婚はできないんだよ」
「やだやだ、ユキはひろちゃんと結婚するの!」
駄々をこねられてもはっきり言って困る。せっかくタケシくんが真面目なことを言ったのに何てこった。
雪が泣くと煩いから近所の猫が機嫌を悪くする。とりあえず俺はシーソーから降りて雪音の機嫌取りに戻った。
「ユキはひろちゃんと結婚するのお!!」
「わ、わかった、わかったから……何でそんなに俺との結婚にこだわるんだよ。ヒーローごっこの話だろ?」
「そうだよ! だからなんでひろちゃんと結婚できないのー!?」
本気で告白したタケシくんには申し訳ないが、雪音にとって最後までヒーローごっこの延長上のセリフだったらしい。
「じゃあ、また俺がお姫様なのか……」
「そうだよ! ヒーローのユキが悪い魔物をやっつけて、お姫様のひろちゃんと結婚するの!」
木の棒を持ち不揃いの歯をにかっと見せて笑う雪音は本気だった。遊びの延長上で振られたことで少しだけ安堵したタケシくんと、いつもこのヒーローごっこでお姫様設定にされる兄貴はとても複雑だ。




