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トレーナーの行方


 四人家族とは言え殆ど毎日洗濯しているのであまり服や下着が無くなるということはなかったのだが、長く愛用しているトレーナーが一枚足りない。


「おかしいな……ボロいし母さん捨てたかなあ」


 長く着用しているので必然的に愛着はあったのだが、流石に私服で学校に通っているのであまり古いものは家でしか着ないようにしている。

 それに、同じような服しか着ないと休日のお父さんみたいになるよと友人に言われてから少しだけ通学の服は気をつけるようになった。


「母さん、部屋着のトレーナー知らない?」

「雪ちゃんが最後に洗濯していたから聞いてみて?」


 どうやら母さんが捨てたわけではないらしい。

 最近ちょっと物騒で、外に洗濯物を干すと何やら物取りにあうらしいので俺達は各々部屋に干していた。それでもすぐに乾くし今のところ困ってはいない。

 コンコンと雪音の部屋をノックすると、何か作業をしていたのかバタバタと片付ける音が聞こえた。


「雪、入っていいか?」

「だ、だめ! 5分待って!」


 いつも部屋を綺麗にしている雪音が珍しい。とはいえ、年頃の女の子の部屋に勝手に入るわけには行かず、俺は黙って5分待った。


「お、お待たせ、ひろちゃん。どうしたの?」

「ああ、最後に洗濯したのが雪だって聞いたから。俺のトレーナー知らない?」

「し、ししししし知らない! 知らないよ!」


 うん、とっても分かりやすい。何を隠したんだ今度は。


「捨てたのか?」

「ち、ちちちがう、違うよ! 雪、知らないもん!」

「ふーん」


 雪は結構単純で、なんか変な恋愛漫画の読みすぎなのか壁ドンが好きらしい。

 まだ身長差があるので部屋のドアの前で壁ドンすると雪はだらしなく顔を綻ばせた。

 ──って、俺はたかがトレーナーの為に妹を脅迫してどうすんだっ!


「はう……ひろちゃんが壁ドンしてる」

「あ、いや……これはなあ」


 でもこの状態の雪音は何もかも白状してくれるというありがたい洗脳状態になる。


「雪、俺のトレーナーはどこにある?」

「ううう……お布団の中」

「はあ!?」


 なんで俺のトレーナーと仲良く添い寝してるんだよ。妹が変態になりそうで怖い。

 確かに白状された通り、俺の愛用しているトレーナーは雪音が添い寝している巨大なクマのぬいぐるみに巻いてあった。


「もしかして、クマに服が欲しかったのか?」

「うん!」

「それなら使用済みじゃなくて買えばよかったのに……」

「それじゃダメなの! ひろちゃんの服が欲しかったから」

「結局そのクマ、トレーナー着れてないじゃん……」


 俺の部屋着はよれよれなので流石にクマさんに着せるには少し可哀想な気がする。


「今度クマさん用の服あげるから、そのトレーナーは返してもらうぞ」

「ううう……ひろちゃんの匂いが……」

「え? なんか言ったか?」

「う、ううん! 何でもない! クマさんの服待ってるね」


 何やら雪音が不穏な言葉を話した気がするけど、俺は敢えて聞き流した。

 使用済みの俺のトレーナーを添い寝するぬいぐるみに渡すのはどう見てもやばい。


 道を踏み外す前に、早く磯崎に相談して雪音に彼氏ができるよううまく手解きしてもらわないと。


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