動物園デート
「上野動物園のパンダが中国に返還されるらしいから、一度行ってみようか?」
何気なくニュースを見ていたら最近上野がざわついていた。長年中国から親交の証として譲渡されていたパンダが全て返還されるらしい。
確かに日本の気候は一部の動物以外住みにくいだろうし、色々整った場所に帰るのは致し方ない。
「パンダさん、いなくなっちゃうの?」
「ああ。でも他の市にはまだ違うパンダが居ると思うから、俺が働いて雪が大学行って少し時間取れるようになったら行ってみような」
「わあい、ひろちゃんとデートだ」
……家族旅行じゃないのか?
相変わらず雪はよく分からない。
翌週の土曜日に俺と雪音は偶然チケットを手に入れることが出来たので、子連れと学生で賑わう上野動物園に足を踏み入れた。
とにかく人が多すぎてどっと疲れる。
「ううう……ひろちゃん」
「どうした、雪?」
「ちょっと気持ち悪い……」
人波に吹き飛ばされまくった雪音は顔色を悪くしていた。普段は何ともないのだが、雪音の本当の父親はD Vをしていたらしいから、今も人が多い場所や男の人が多いところは苦手らしい。
かと言って少しずつ慣らしていかないと、雪音は永遠に俺の父さんと、俺しか男はダメになってしまう。これも雪音のリハビリだ、うん。
「ほら、腕掴まりな。飛ばされそうになったらしがみついて」
「うん!」
ああ、俺も甘いなあ……。結局雪音は俺の腕にしがみついたことで恋人感を得て一気に機嫌を直した。
「あっ! パンダいるよ、ここ」
「待ち時間の間も結構見えるんだな、並んでみようか?」
「うん!」
元々パンダを見るために来たのだ。週末で激混みだけど、並べるくらい余裕があったのは幸運だ。
待ち時間を終えて肝心のパンダとご対面したまでは良かったのだが、どうやら今日は体調がすぐれないようで奥に引っ込んでしまったらしい。
雄の方は笹を食べてカメラに慣れているのかこちらに目線を向けてくれたが、雌のパンダはやはりダメだった。
人が多すぎて俺と雪音は並ぶ場所を移動させられたが、雪音は先にパンダコーナーから出て違う場所にぴったりとくっついていた。
パンダが見たいって言っていたのに、何か見つけたんだろうか?
「雪?」
「ひろちゃん、このパンダ色が違うよ。タヌキみたいでかわいいね」
「それはレッサーパンダって言うんだよ」
「さっきのパンダと全然違うね。何でだろう?」
俺は動物博士ではないので雪音の疑問に即答出来なかった。確かにレッサーパンダはパンダと名前がつくけど、その姿形はあまりパンダに似ていない。そもそもパンダって何でパンダなのかと聞かれても説明に困る。
一応生息場所や名前についての具体的な表記はあるものの、疑問を持ちやすい雪音を納得させるものではなかった。
こういう時に飼育員さんに訊けばいいのだろうけど、忙しい中でこんな質問できない。
「まあ、帰ったらネットで調べてみようか」
「レッサーパンダ可愛かったね」
俺の腕にしがみつく雪音は先ほどの気分不快も忘れてご機嫌になっていた。
レッサーパンダの方が気に入ったのならば、別にこれからも上野動物園に来れるからいいか。




