天空水族館デート
先日プラネタリウムに行った場所に水族館が併設されている。水族館と言うと一階を広々と解放しているものを想像していたが、この水族館は下から動物の泳ぐ様子が見られるよう工夫が凝らされていた。
雪音はカピバラさんに会いたいと熱望していたが、残念なことにこの水族館にカピバラはいない。代わりに、似たような可愛い小動物が沢山展示されているので、それを見て雪音は子どもよりもテンションを上げた。
「ひろちゃん見てみて! コツメカワウソだって!」
隣には小学生くらいの子どもが雪音と同じようにべったりと張り付いている。
どうやら妊娠中らしく、奥の方で身体を丸めて眠っていると飼育員から説明があった。
「コツメカワウソみたいよう……」
「妊娠中だから刺激しない方がいいだろ、それに、餌のタイミングで動くかもって言ってたから」
「じゃあ、雪、コツメカワウソが出てくるまでここに居る!」
いやいや、あまり人目に触れ過ぎるのもストレスじゃないのか?
ああ、でもよく考えたら本当に動物にとってストレスになる場合は展示自体ストップするはず。
雪音と同じ考えなのか、隣にいた小さな男の子が母親の服を引っ張り「カワウソみたいよ」と言っていた。
「次の餌タイミングまで他も見てこようか」
「うんっ!」
雪音の機嫌がいい。どうやら俺とお出かけするだけで満足らしい。確かに雪音は両親共働きで水族館なんて来たことなかったし、俺も社会科実習でだいぶ前に来たくらいの記憶しかない。
「コツメカワウソ、出てくるかなあ」
2階の魚達を一通り見てからまた同じ場所に戻る。雪音はどうしてもコツメカワウソをみたいようで、またぺったりと張り付いていた。
飼育員もタイミングが悪いと一日動かないことも……と言って雪音をやんわり追い返そうとしているが頑固な雪音は一度気になるとてこでも動かない。
「雪、そんなにじっと見ていたらコツメカワウソもストレスになるだろう?」
「そうだね……残念」
流石に長居し過ぎた。水族館をぷらっと見るつもりで昼前には家に帰る予定だったのがもう14時になりかけている。
「それに、水族館は無くなるわけじゃないし、また来ればいいだろ?」
「ひろちゃん、また一緒にきてくれる?」
「あぁ。それくらいなら」
雪音はぱっと笑顔になり、俺の手を引っ張ってお腹空いたから帰ろうと言った。
どうやら、俺とお出かけするタイミングがこれから無くなっていくと思い込んでいるらしい。それに、雪音にいつか彼氏が出来たらそいつと一緒に行けばいい話だし。
「ひろちゃん、来年も雪と水族館にいこうね」
「ん〜、実習が厳しくなったら難しいけど、考えておくよ」
「約束だよ! コツメカワウソが子ども産んだらまた来ようね」
今日一番見たかった動物が見られなかったのだから仕方がない。
俺は人目が気になったので約束の代わりに雪音の小さな手をきゅっと握り返した。
「腹減ったから、サンシャインのレストランでも行くか」
「やったー! ひろちゃんの奢り?」
「うっ……まあ、高いけどたまには、な」
俺はコツメカワウソの丸まった背中に出産頑張れよ、と心の中で声をかけて雪音の手を握り直した。
来年は二人で子どもを観にくるからな。それまで元気でいてくれよ。




