磯崎の手解き
「弘樹、お前はいい加減彼女を作るべきだ!」
お互い別々の大学に進学した俺と磯崎だが、雪音に興味があるのか今も月一くらいのペースで俺の家に来てゲームしたり互いの近況を話して交流を深めていた。
ジュースを飲んでいるのに何故かセルフ酔っ払い状態の磯崎はテンションが上がるととんでもないことを話す。
「わかるぞ弘樹。可愛い雪音ちゃんと一つ屋根の下。そりゃあ別の女に興味湧かないのは理解出来る。でも俺達だってもうすぐ20歳だ、ハタチ」
「あ、ああ……」
だからどうしたと言いたいが、元々プレイボーイの磯崎が心配しているのは俺がいつまでも童貞でいることなのだろう。
「弘樹、もしかしてセックスに不安があるから彼女作れないのか!?」
「は、はあ!?」
一気に話が飛んで思わずオレンジジュースを吹くところだった。
「俺も最初先輩と付き合った時キスもうまく出来なくて歯がぶつかったりさあ……」
「ちょ、ちょっと待って磯崎!」
「何だよ」
不服そうな磯崎は弘樹の部屋のドアを開けたまま硬直している雪音の姿を見つけてフリーズした。
「ゆ、雪、ちゃん……」
「こんにちは! 磯崎さん、ゆっくりしていってね」
「あ、ああ……ありがとう」
やばい、雪音に聞かれただろうか。
磯崎の会話は結構やばいのがあり、すぐ誤解して勝手に不貞腐れる雪音が勘違いすると後が面倒くさい。
ニコニコしていた雪音がおやつを俺の前に置いて自分の部屋に戻ったのを確認してから話を続けた。
「──で、雪ちゃんっていまだに彼氏いねーの?」
「……うん。今も俺のこと大好きって言ってる」
「くはー、羨ましいんだけど、お前も複雑だよな。あんな可愛い妹がいたらお前も彼女は作れねえし、下手な男じゃ弘樹と比べて雪ちゃんも付き合わないだろ?」
「うーん、何で雪が俺に執着するのか今もよくわかんないんだよ」
小さい頃は雪音が寂しがらないようにお兄ちゃんを演じてきたし、一人っ子同士だから両親が仕事をしている時に支え合ってきたと思う。
でも、もう俺達は大人だ。流石に自分達の友達がいるし、交流の幅も変わってきた。
世間から見るとこの年齢になっていつまでも兄妹で仲良く遊んでいるのはどう考えてもおかしい。
「まずは弘樹が頑張って大学デビューだな」
「なんだよ、それ」
「あー、高校生までは真面目一本だったけど、せっかくの大学だから羽目外しちゃえってこと。俺のM大学の仲間紹介しようか?」
磯崎はサッカー部で運動神経抜群。体育教師を目指してM体育大学に入学した。勿論スポーツ女子しかいない。
そう言われても俺は運動神経なんていまひとつで、テニスを少し齧った程度だ。
「どっちかと言えば薬の研究を頑張る人がいいな。一緒に図書館で勉強したい」
「はああ……まあ、しょうがないか。お前薬剤師なりてぇもんなあ。でもこれから六年勉強するんだろ? 今くらい遊んだ方が良くないか?」
薬剤師への夢を語る俺に磯崎はがくりと頭を垂れた。長年仲良くしてくれる親友の図らいは有難いけど、俺は今彼女ということを考えられない。
きっと、俺に彼女が出来たらまた雪音が悲しむから。あいつの悲しそうな顔は見たくない。
「雪に彼氏が出来たら祝福して離れるよ」
「それが出来たら苦労しねえだろ……」
俺も雪音も、まだ先には進めそうもない。




