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不眠症その1


俺は無事にN大学に入り、研究と勉強で忙しい日々を送っていたので同じく高校生になった雪との接点が益々減っていた。

そんなある月の日曜日。俺は久しぶりに遅くに起きてきた雪の顔を見て驚いた。


「雪、どうしたんだその顔……」


「またクマクマ出来てる……これどうやったら消えるんだろう??」


まだ眠いのか目を擦っている雪の目の下にはくっきりとクマが浮かんでいた。心なしか痩せたようにも見える。

少し帰りが遅くなったとは言え、一緒にご飯を食べるようにしているし特に普段は変わった様子は無かった。そうか、あのクマは今まで化粧で隠していたのか!

雪は北海道産まれの母さんの血を強く継いでいるのでかなりの色白で少しでも寝不足の痕が残るとクマが取れない。進級試験の1ヶ月前くらいは確かにクマがあったような気もするが、もう入学して2ヶ月近く経過している。


同じS女学校内とは言え、クラスは変わっただろうし、もしかして雪は今のクラスに馴染めて居ないのだろうか?

かと言っていつまでも俺が心配していたら雪も兄離れ出来なくなりそうだし、ここは見守るのが1番か。


「ねぇねぇひろちゃん。最近雪ね、夜になると胸が苦しくなるの」


「えっ、何だそれ、母さんに聞いてみたか?」


病気に関しては母さんの方が専門だ。ところが雪は困ったように唇を尖らせていた。


「ママの病院にある循環器内科に行って心電図とレントゲンと、あと血を取ったんだけど、何も異常は無いんだって先生が言ってた。」


確かに思春期の女性特有の病気は色々あるって聞いた事がある。

女の子は生理ってのもあるし、ホルモンバランスとかは俺にはよく分からないけど、体が大変なのかも知れない。

確かに原因不明なのに眠れないのは辛いだろう。しかも高校になると中学から一気に勉強のレベルがアップするし、科目も増える。

麻衣ちゃんや彩ちゃんと一緒のクラスであれば雪も少しは話せる子がいて心強いだろうが、この感じだと2人とは違うクラスになっているのかも知れない。

だからと言って俺に出来る事が何かあるのか? 代わりに寝てやる事も出来ないし。


「……また明日から学校なんだし、今日は夜更かししないで早めに風呂入って寝るしかないな」


「雪、夜更かししてないよ」


「あれだぞ、寝る前にテレビ見たり携帯いじったら眠れなくなるからな」


「は〜い」


珍しく素直に俺の話を聞いた雪はフラフラしながら脱衣場の方に消えた。


「雪、まだ昼前なのにもう風呂入るのか?」


「……夜に全然眠れないから、先にお風呂入って寝る」


余程辛いらしい。ある意味昼夜逆転生活じゃないかと思うが、どうも夜になるとその謎の発作?があるみたいなのでお昼寝をするとの事だ。

まあ今日は日曜日だし、雪が落ち着いて1日過ごせるか俺も様子を見るしかないな。




────




お風呂から出てきた雪は宣言通りまた部屋に戻り死んだように眠っていた。昼寝するから夜に眠れないんじゃないか? と思うが、多分そうしないと毎夜眠れなくて体がしんどいんだろう。でも検査しても異常がなくて眠れないって一体何の病気なんだ?

俺は夜に母さんが帰ってきたタイミングで雪の病気について聞いてみた。


「雪音は不眠症なのよ」


「不眠症って、それって治るの?」


「あの子、高校生になって環境が変わったでしょう? 牧野さんは帰国したし、お友達の田畑さんと坂口さんは違うクラスみたいで、今ちょっと話が出来る子が居ないみたい。雪音が頑張って新しい友達作りに行かないとね……」


確かに俺は恵まれている。自分から頑張らなくても田畑がいてくれたから磯崎とも仲良くなったし、他のクラスメイトも体育で交流あったし、人間関係で悩むような高校生活では無かった。

でも女の子はグループで行動している姿が多く見られたから、きっと雪もそういう状態なのかも知れない。

確かにグループに入れなければひとりぼっちになる可能性はある。でも俺は学校も違うし環境も全く違うから何も助言出来ることは無い。


「私も学生時代はなかなか友達が出来なくて苦労したけど、雪音は元々明るい子だし、何かキッカケがあれば新しい友達も出来て眠れるようになると思うのよ」


「確かに。こればっかりは見守るしかないか……」


S女に通う知り合いは田畑の妹さんである麻衣ちゃんしか居ない。それが違うクラスなのだからもう俺が助けられる事なんて何一つ無いのだ。

雪は母さんの声で目覚めたのか俺たちが喋り終わった所でパジャマのまま階段から降りてきた。


「ママおかえり〜、ごめんね今日雪何も作ってないや……」


「何言ってるの、土日はママの担当だから雪ちゃんは寝てていいのよ。2人がしっかりしてるお陰でママも自由に仕事させて貰えて助かってるんだから」


母さんは嬉しそうにキッチンに立っていた。元々料理の苦手だった人だが、俺達が全く手のかからない事で休みの日は料理教室に通っていた。

雪が高校生になったら学校も遅くなるだろうという事で料理担当が変更になったのだ。

それでも雪は何かしないと気が済まないのかぼーっとした顔で母さんと一緒にキッチンに立っていた。


やはり不眠症のせいか事件は起きる。

いつもよりも手つきの悪い雪は包丁で指先を切ってしまい、しかもあまりの眠気で俺のマグカップを落として割ってしまっていた。


「ひろちゃんのコップ割っちゃった……ごめんね……どうしよう、これ買って来なきゃ」


「んなもんすぐ買えるからいいって、ほら指見せて。切っただろ、さっき」


俺はすぐにリビングから救急箱を取り出し、カットバンを雪の指に巻こうとしたが、なかなか血が止まらない。


「結構深くいってんなこれ……」


圧迫止血してカットバンではなくガーゼと包帯をグルグル巻きにして様子を見る。すると雪はしょんぼりと床に座り込んでいた。こんなに元気ない雪を見ることはほとんど無い。


「母さん、雪ちょっと寝かせてくる」


「いつも悪いわね弘樹。よろしくね」


こんな状態だとまた怪我をしてしまう。俺は珍しく抵抗する雪を無理矢理部屋に戻し、再度寝かせることにした。

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