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誕生日

「もーいーかい?」


「まぁだだよぉ~!!」


 今日は雪音の誕生日。

 珍しく女の子のお友達が4名も狭いアパートにやってきた。


 家の中で遊ぶのは広さの問題で絶望的だった為、外にある公園で遊ぶことにした。

 俺は拓斗に野球の助っ人で呼ばれていたが、雪音に誕生日なのにひろちゃんが居ないのは嫌だ、と朝から泣きつかれ……結局友人との約束をキャンセルしてこちらに付き合うことになった。


「もーいいよぉ~!」


 3つ下の子供達がきゃあきゃあ言いながら公園の中を隠れていく。

 俺は鬼なので、やれやれとため息を吐きながら、ガサガサ木をかき分けて隠れている子供達を見つけてはタッチで捕まえていく。

 全員捕まえたところで、かくれんぼは終了する。

 もう終わっちゃったねと残念そうに呟いた雪音は、うーんと顎に手を当てながら次の遊びを考えていた。


「ひろちゃん、今度も鬼ね。みんなでやっつけろー」


「ちょ……待て待て!」


 いかにかよわい女の子とは言え、5人で襲い掛かられては流石の俺でも太刀打ちできない。

 仕方なく周囲に落ちていた小さな木の棒を手に持ち、悪役お決まりの台詞を吐きながら妹の友達達とヒーローごっこをして楽しんだ。



 3歳しか違わないと言うのに、雪音の友人達はパワフルだ。

 アパートに戻った後もヒーローごっこの続きを楽しみ、雪音の持っているカエルのぬいぐるみや、丸いモンスターのぬいぐるみを俺にひたすらぶつけてくる。


「悪のひろちゃんをやっつけろー」


 雪音の掛け声で、周りの友人達も楽しそうにぬいぐるみをぶつけてくる。

 兄としての威厳は全くない状態であったが、みんなが楽しんでくれるならそれでもいいやと諦める。


 30分程相手をしただけで全身汗びっしょりになり、もう参りましたと先に降参すると、キッチンに居た母が笑いながら昼食と、雪音の為に作ったバースデーケーキを出してきた。

 やっと解放された安堵感に、俺は大きなため息をつくと、冷蔵庫を開けてペットボトルの水を取り出す。


 俺はソファーに座り、ダイニングテーブルの方では雪音達が綺麗な色で飾られたちらし寿司と手作りケーキに感嘆の声を上げているのを横耳で聞いていると、母も弘樹の隣に座りごめんねと詫びてきた。


「弘樹、雪音のこといつも面倒みてくれてありがとう」


「え?だって母さん忙しいし、父さんも1日置きに車引きこもらないといけないし。俺、妹ほしかったから雪音のことは好きだよ」


 今も無邪気に女友達と遊んでいる雪音を見ると心がほっこりする。

 産まれて間もない頃に母さんを亡くし、一人っ子で男手一つで育てられてきたが、こっそり妹か弟が欲しいと保育園ではサンタさんにお願いを書いたくらい、下の子が欲しかった。

 俺の心からの本音を聞いた母さんは安心したようで、少しだけ目を細めて笑っていた。


「そう言ってくれて本当に嬉しい。雪音は男の人が嫌いなのよ。心を開いたのは弘人パパと、弘樹だけ」


「女の子って難しいからなぁ……雪もいつまで俺のことひろちゃんって呼んで懐いてくれるか……」


「――そんな悲しいこと言わないで、雪音は弘樹に会ってからあんなに笑える子になったんだから」


 自分が雪音に与えた影響なんてわからない。

 ――ただ、自分は妹ができて嬉しかっただけ。

 

 雪音も突然とは言え、兄が出来たことが嬉しかったのだろうか?


 ふとそんなことを考えていると、雪音がずいっと俺の目の前に顔を近づけてきた。

 考え事をしていたので驚いて俺は思わずソファーから落ちそうになる。


「ひろちゃん!マッチマッチ!」


「はいはい……」


 ソファーからダイニングテーブルの方へと移動した俺は、母さんが作ってくれたバースデーケーキの前でマッチの箱を取り出した。

 目を輝かせているお姫様達の前でマッチを擦り、一本ずつロウソクに火を灯していく。


「ほら、消していいよ」


 ハッピーバースデーの歌と共に雪音は嬉しそうにロウソクの火を消していく。

 ご飯とケーキを食べた後は眠くなり、俺は寝室でうたたねをしながら雪音達の無邪気な声を聞いていた。


 夕方になり、友人達の母親が迎えに来てくれたところで雪音の誕生会はお開きとなり、俺は本格的に寝る準備をした。

 女の子達と全力で遊んだせいか疲れがとれない。


「ひろちゃーん」


「うぐっ」


 寝返りを打った瞬間、腹の上に雪音が圧し掛かってきた。

 その全体重を腹の上だけにかけられて少しだけ脇腹が痛む。


「雪、ちょっと重いよ」


「ひろちゃん、メグちゃんに鼻の下伸ばしてた」


 ぷぅと頬を膨らませながらご機嫌斜めのお姫様。

 横向きでは雪音の相手もできないので身体を布団から起こす。


「メグちゃんって誰だよ……4人もいりゃ誰が誰だか……」


「……ポニーテールの子」


「あー、あの子か。確かに可愛かったなぁ」


 他人を褒めると、益々雪音の機嫌が悪くなるのがわかる。

 眼を逸らしながら口をへの字に曲げる雪音の頭を優しく撫でてやる。


「……うちのお姫様が一番可愛いよ」


「ホント?ホント?」


 眼を輝かせてこちらを見てくる雪音はいつものような天使の笑顔だった。


「あぁ……俺にとっては」


「ひろちゃーん、あのね、ユキもひろちゃんのこと大好きだよ」


「はいはい……」


 妹がほしかったから、雪音のこと好きだよ。と言った言葉が聞こえていたのだろうか。

 猫のようにごろごろ抱きついてくる雪音を抱きしめながら背中を撫でてやる。

 トントンの刺激が気持ちいいのか、雪音はそのまま俺にもたれかかって眼を閉じている。


「遊び疲れたんだな……誕生日おめでとう、雪音」


 ――俺の声が聞こえたのか、聞こえていないのか、雪音の寝顔は本当に幸せそうだった。


2016.8.2(11.27)

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