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妹が可愛いすぎて困ってます。  作者: 蒼龍 葵
弘樹高校3年生
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受験勉強その4


受験生にとって冬休みは地獄の追い込み時間。

塾に通っていない俺が家庭教師と塾を併用している上流階級の人達と張り合うにはその倍以上の時間を効率よく勉強するしかない。

俺は偶然ジェシカちゃんのファンだという話から突然仲良くなったクラスメイトの外崎を頼る事にした。

こいつの両親は医者で、俺の目指す薬科大学方面で必要な勉強や塾で配布しているだいぶ昔の過去模試等を俺に提供してくれる。

しかも彼は頭がいいのでもう既に学校推薦枠で第1希望の大学に入学が決まっている。そうなれば後は卒業まで晴れて自由。少し羨ましい身分だ……。


俺は外崎に呼び出しを受けて彼の家まで来ていた。幸い電車で4駅程度なので時間もかからないし助かっている。

ただ、家のセキュリティが色々うるさいようで、俺はいつも玄関前で問題を受け取っていた。


「いつも助かるよ、外崎……これでまた図書館行ってくる」


「なあ雨宮。図書館なんて沢山ガキ共いるだろ? 良かったら俺ん家で勉強するか? 家はみんな仕事行ってるから静かだし」


「え……いいのか? そんな申し訳ない」


確かに冬休みに入ってから図書館に子供達が来る回数が増えた。

俺は午前中にも行くのでどうしても子連れのお母さん達のヒソヒソ声が気になっていた。

図書館は静かに、と言われても小さい子供達にそれが全て通用なんてしない。泣きわめいている声が一瞬でも入ると一気に集中力が削がれる。だからこそみんなお金をかけてでも塾に行ってるんだろうけど。


「いいって、いいって。俺ももうS大決まったから親もそんなにうるさくねーし。別に今も遊んでる訳じゃないからさ。それに、雨宮にはジェシカに会わせて貰った恩がある……!」


俺は有難い外崎の申し出を受ける事にした。巨大な入口の門を抜け、広い庭をさらに通過して漸くご両親のものらしい高級車が視界に入る。一体何処が玄関なんだ……。思わずキョロキョロしていると、今度は庭師らしい人が松の手入れをしていた。


「お前って、世界の違う所に住んでるな……」


「いや、これも全部親の趣味だから。なんか玄関まで遠くて嫌なんだけどさ」


「お帰りなさいませ、ご主人様」


やっと玄関が見えてきたと思いきや、俺と同じ歳くらいの女性が深々と外崎に礼をして出迎えてくれた。

顔をあげた彼女のあまりにも人形のような整った顔立ちにドキリとしてしまう。


「……何か?」


「あ、い、いえ……すいません。あまりにも綺麗だったからつい」


思わず本音がぽろっと出てしまい、外崎が目を丸めて俺を見返してきた。


「へえ、雨宮はこういう落ち着いた人が好きなのか。彼女は家の使用人で久川千尋(ひさかわちひろ)さん。大人っぽいけど俺らと同い年だよ」


「はじめまして、久川と申します。ご主人様がここに友人を招くのは初めてですね」


「んな事言うなよ。しょうがねーだろ……今まで親に気を使う大人ばっかで同年代のダチなんて出来なかったんだし」


そうか、外崎は両親が医者だから周りは大人が多かったのか。使用人が家に居るのもきっと子供の彼に寂しい思いをさせない親心なのかもしれない。

彼が一人っ子なら尚更、今もそうだが抜群に頭が良いし、友達と会話の合わない学校生活はつまらないものだろう。

俺は偶然田畑達が居たから学校生活は困らなかったが、こいつは一人で親に迷惑かけないように過ごしていたのか。


「俺で良ければ大学行っても仲良くして欲しいな」


「マジか〜! 雨宮って学校だと結構ぼーっとしてるし、普段何考えてるかあんまり分かんねえ奴だけど、お前の周りってめっちゃ友達居るよな。つまり根っこがいい奴って事なんだよ。ありがとな!」


「俺はは貶されてるのか、褒められてるのか分かんねえよ……」


「ご主人様はいい方に巡り会われたのですね。安心しました」


俺達のやり取りを聞いていた久川さんが口元を軽く押さえ、嬉しそうに目を細めて笑っていた。何とも上品でひとつひとつの動作が整っている。


やっと玄関を抜けて3階にある外崎の部屋に入るとまたその部屋の広さに驚いた。子供部屋なのかと思えるくらいの巨大なワンルームは家のリビングよりも遥かに広い。

その部屋の半分程はジェシカちゃんグッズやポスター、写真で埋め尽くされていたが、残り半分は落ち着いた勉強エリアになっていた。


無音がいいか音楽をかけるか相談された俺は無難なクラシックを流してもらい、まるでカフェにいる気分で苦手な物理から取り掛かる事にした。


「雨宮って頭良いのに、何で物理だけ全然ダメなんだ?」


「うん……何だろう、覚えが悪いのかな。数学は得意なんだけど」


「変だなぁ。テストで数学があんなに出来て物理が正反対って……考え方を変えりゃ一気に点数上げられるかもな」


外崎の恐ろしい所は自分のテスト結果だけではなく、他のクラスメイトの点数もそこそこ把握している。

学年1位を独占している外崎だが、数学の点数だけは俺に1度も勝ったことが無い。

だから何も取り柄のない俺に勉強話を持ちかけてくれたのかもしれないけど。


それから3時間半ほど、俺は久川さんが運んでくれた3時のおやつのケーキと紅茶を美味しくいただき、外崎に物理の勉強を復習させてもらい赤ペン先生のように再試験をチェックされ、久しぶりに充実した勉強をして帰路についた。


『雨宮、今日は勉強だけじゃなくて色々話しできてすげえ楽しかった! お前がN大学受かったら家で絶対に祝勝会しような!』


『ありがとう、お陰ですごく勉強になった。これで年明け最後の確認テストで何とかなりそうだよ』


『俺はいつでも暇してるから、図書館やべーなと思ったらいつでも来いよ! 親はどうせ仕事で毎日夜遅くまで帰って来ないし』


何気に外崎も両親共働きでほとんど家に居ない。つまり俺と同じような家庭環境だ。久川さんが一日中居るとは思えないし。

そう考えると俺は雪が居たから寂しいとか感じる事は無かったけど、もし居なかったら親は毎日仕事で居ない一人ぼっちの家は寂しいだろうなと思う。


真っ暗になっても家に帰ると明かりがついている。それだけでどれほど寂しさが救われるか。

玄関の鍵を開けるといつものように雪が笑顔でパタパタと走ってきた。


「おかえり、ひろちゃん!」


「……俺には雪が居たから良かったなあ」


しみじみとそう呟くと雪は不思議そうな顔で小首を傾げていた。


「なんでもねーよ、今日は物理勉強したから疲れた……」


「あっ! 今日はね、麻婆豆腐作ったんだよ、新作」


「そっか、いつもありがとうな。楽しみだ」


「んん? ひろちゃん、何かあった?? 珍しいね、ご飯楽しみだなんて」


スリッパの音をパタパタ立てながら俺が洗面所でうがいをするまでついてきた雪に再度告げる。


「別に。俺には雪が居てくれて良かったって話」


俺は最近受験勉強でカリカリしていたせいか、雪と会話する事がかなり減っていた。

雪の作るご飯が楽しみ、ありがとう。という当たり前だが大切な言葉を言うのも忘れていた自分を恥じた。

嬉しそうにデレデレ笑う雪の頭をポンポン撫でると俺は顔を拭いたタオルを置いてリビングへと戻った。


さあて雪の新作料理で腹を満たしたら勉強再開だ。

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