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妹が可愛いすぎて困ってます。  作者: 蒼龍 葵
弘樹高校2年生
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アイスクリーム


まだ4月半ばと言うのに異常な気温で日中27度を優に超えていた。

俺は日頃家に居るせいで身体が鈍っており、少し散歩がてら外に出たもののあまりの強い日照りに木陰に逃げた。


「あいしゅたべたいのぉ〜」


「1口だけな」


「うわぁ〜い、あいしゅ! あいしゅ!」


お兄ちゃんのソフトクリームを貰って喜ぶ4歳くらい年下の小さい子が飛んで喜んでいる。


「あ……」


ぺろぺろ舐めるのが上手く出来ないとコーンからはみ出したソフトクリームがボタボタ零れる。


「あいちゅ、おいちぃ〜ねぇ」


「ああー! なんだよ、1口って言ったのに〜! 何こぼしてんだよ」


両手をクリームで真っ白にしたまま幸せそうに喜ぶ少年の姿は微笑ましいな、と俺は1人でほっこりしていた。


「お待たせ〜って、ひろちゃん何ニコニコしてるの?」


俺がベンチで休んでいると近くのショッピングカーからソフトクリームを買いに行っていた雪がきょとんとした顔でこちらを見ている。

俺の視線の先にいる兄弟の姿が丁度雪にも映ったらしい。


「にーに、あいちゅ、あいちゅ〜!」


「やーだよ、全部なくなっちゃう」


「あーん、あいしゅ〜! あいしゅ食べちゃいのぉ〜」


足をじたばたさせてお兄ちゃんのソフトクリームをせがむ弟の姿に自分が重なったのか、雪は先に首を振った。


「雪はひろちゃんのアイス全部食べたりしないもん……ねえ?」


「どうだかなぁ」


俺は昔の雪を思い出して苦笑した。何度も何度も今の少年のように俺の目の前でじたばたして、結局俺のソフトクリームを全部平らげていた。

流石にあの時の雪はまだ小さかったから覚えていないのかも知れないが、なかなかの食いっぷりだった。


ベンチに並んで座ったまま、俺と雪はそれぞれ違う味のソフトクリームを食べる。まだ視界の隅に映る兄弟がまたお兄ちゃんから結局ソフトクリームをゲットして喜んでいた。


「あいしゅ! にー、あいしゅおいちぃね」


「俺のなくなっちゃうじゃんかよぉ〜……もういいよ」


お兄ちゃんのソフトクリームは全て弟君の腹におさまってしまったようだ。

まだお兄ちゃんの方は不貞腐れているが、少し後ろを歩いている両親がその様子を微笑ましく見守っている。


「あの子可愛い〜。雪もあんな感じだったのかなあ」


「雪はとにかく食べっぷりが凄かった。母さんにアイス買って貰っても、結局ひろちゃんの食べたい!って俺のまで全部食っちまってたよ」


「そ、そんなことしないもん……」


雪は自分のソフトクリームを握りしめたまま視線を泳がせ始めた。何となく雪があのチビちゃんに重なってしまい、自分のソフトクリームを食べつつ当時を振り返る。


「あのチビちゃんよりも酷い。1口じゃ済まないんだよ。だって全然俺に返してくれないからな」


「うぅ……」


少しずつ雪が小さくなるのが分かる。子供の時の失態など勿論覚えていないだろう。でも、あれが微笑ましいくらい可愛かったのは事実だ。


「一番酷かったのは──」


まだ笑っている俺の口にソフトクリームが無理矢理押し当てられた。雪は真っ赤になったまま唇を尖らせている。


「ひろちゃん、雪のアイスは美味しいですか?」


「──アイスってか、ソフトクリームな。俺は別にそんなに甘いものが得意じゃないし、どのみち1個丸々食べきれないから、雪が食べてくれて丁度良かったんだよ」


「そうなの?」


それは嘘ではない。俺は甘党と言われるとそうでもない部類のようで、別に好んでおかしや甘いものを食べたいと思ったことは無い。

どちらかと言うと父さんが晩酌の時に食べているナッツが好きなので、お前は若いのにオッサンみたいだなと父さんによく笑われていた。


「ああ。今でもバレンタインになると雪と父さんが俺が貰ってきたチョコレート全部食べてくれるだろ? 勿体ないから、2人で1つ食べるくらいが丁度いいんだ」


「そうなんだ、そっか。そっか〜」


「と言うわけで、俺の残り半分も雪にあげるからな」


俺は結局貰ったはいいが全然食べきれないソフトクリームを雪の手に握らせた。

2本に増えたソフトクリームを持ち、子供のように雪はにっこりと微笑んでいた。


「わ〜い、アイス2個だ〜! 雪のはチョコレート、ひろちゃんのはミックス味だね、嬉しい」


「だから、これはソフトクリームだって」


両手にソフトクリームを持ち、美味しい美味しいと顔を綻ばせてそれを幸せそうに食べる雪を見つめていると、俺も何となく幸せな気分になる。


「雪、ソフトクリーム美味しいか?」


「うん! どっちの味も美味しいね。今度はモカにしようかな」


「……まだ食べるのかよ、お腹壊すぞ」


「甘いものは別腹になるんだよ、ひろちゃんにも別腹があるといいね」


「そうだな……俺も別腹作って、今度は一緒に誕生日ケーキ食べ切れるといいな」


「ひろちゃん、何か言った?」


「な〜んも」


ソフトクリームの甘ったるい口を消したくて俺は隣の自動販売機で水を買ってきた。

まるで海賊食いのように雪はソフトクリームを交互に食べて幸せそうに喜んでいる。


「ひろちゃん、アイス美味しいね」


「ちゃんと俺の分も食えよ。あと食べた栄養が胸にいくように、きちんと牛さんに祈っておけよ」


「ああっ! そうだ、そうだ! アイスは牛乳使っているから牛さんだ! 今からしっかりお祈りしなきゃ……!」


ぶつぶつソフトクリームに願い事を言いながらしっかり1口1口噛み締める雪を見て、俺は昔の雪が重なった。



『ひろちゃん、あいしゅおいちぃね』



あの頃と雪の笑顔は全く変わらない。ソフトクリームがきちんと言えなくて、ずっと雪の中でアイスはアイスなのだ。

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