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妹が可愛いすぎて困ってます。  作者: 蒼龍 葵
弘樹高校2年生
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彼女その2

上野動物園は日曜日という事もあり、かなりの家族連れで賑わっていた。

相澤さん──由紀ちゃんは俺の右腕にくっついたまま嬉しそうにはしゃいでいる。


「パンダ生で観るの初めて! 笹食べてる可愛い〜!」


「オスとメスって何処で区別してるんだ? シッポの色とか?」


「ううん、パンダって胸とか生殖器が分かりにくいみたいよ、どっかの県でも大人になってからオスとメスが間違えてる事に気づいたりとかあるみたいだから」


あまりにも子供が多すぎてパンダコーナーは本当に一瞬しか見れなかったが、それでもゆったりして人懐っこいパンダを一目見ただけで気分が癒された。

それにしても由紀ちゃんは本当に動物に詳しい。パンダの生態は初めて知った。


「しかしすごい行列だな……俺達が終わった後もずっと続いてるし。早くに来て良かったね」


「うん。状態によっては観覧禁止だったりもするみたいだし、弘樹と見れてラッキー」


あれ、今弘樹って呼んだ?

ああ、そうだった。今日は彼氏として一緒に居るんだった。

俺は親友の田畑以外に名前を呼ばれた事は無い。しかも、女の子にだ。

ちょっとだけ照れくさいような、嬉しいような……こんな感じで相澤さんと少し仲良くなれたら、修学旅行も楽しめるんじゃないだろうか。


「あ、弘樹って呼んだのマズかった?」


「いやいや違うよ、ちょっとぼけーっとしてた」


俺が黙って色々考えていたものだから、由紀ちゃんは不安そうな目で俺を見つめてきた。


今日はデートだからなのか、由紀ちゃんの印象がいつもと違うみたいだ。

ピンク色のリップに頬も目元も主張の少ないピンクで可愛らしい。


「なんか、いつも時間に追われているみたいな弘樹でもぼけーっとする事あるんだね」


「俺なんていつもぼーっとしてるよ。そういう時間があると落ち着くんだ」


それは本当の事。確かに雪が居るから早く帰らないととか、バイトすると寂しがって泣くからなるべく傍に居ないととか、結局学校にいる時も帰宅時間を計算したり時間に追われている。

でも本当の俺はただ黙ってぼーっとする時間が欲しい。

今も通路に設置されているベンチに座り、楽しそうにはしゃぐ親子を見てほっこりしていた。



「パパあ、次トラさん見たい」


「あっちにキリンたんいるぅ」


両腕を小さな男の子と女の子に引っ張られながらお父さんらしい男性がはいはいと笑いながら歩いている。


うちは父さんが毎日夜勤みたいなものだから日中どこかに出かける事は無かったな。

昔は遠出したいと思った事はあったけど、母さんも仕事忙しいし……。


「弘樹って、子供好きよね」


俺が子供達を眺めている目線でそう感じたのか、アイスを食べていた由紀ちゃんが唐突にそう言った。


「子供って言うか、まあ無邪気で可愛いよな。見ててコロコロ変わるから飽きないし」


「そっか、弘樹は子供欲しい?」


「ん〜……どうなんだろう。俺が欲しいって言っても産める訳じゃないから、それは何とも言えないな」


「そっかそっか」


何故か由紀ちゃんは嬉しそうに笑っていた。もしかして、彼女も子供好きなんだろうか?


俺達はその後も動物園をぐるっと1周して、2時間半くらいのんびり散策した。

水族館でみたアザラシもいたし、初めて見るトラやクマにも驚いた。

後は見たことの無い希少な生物。細かい文字で説明板が置いてあったけど、泣いている子供が近くに居たのであまり長居出来なかった。


「ん〜! 堪能した。弘樹、今日は本当にありがとう!」


「こちらこそ、こんな素敵な機会をありがとう。見た事のない動物がいっぱいいて楽しかった」


「弘樹と一緒に居ると居心地がいいんだよね。あのさ、このまま……私の彼氏になってくれる?」


由紀ちゃんとは今日恋人気分で──という話だったが、俺は何もしていないけど楽しかったらしい。

お互いに楽しめる空気で過ごせるというのはすごくいい事だと思う。


彼氏……と1口に言われても俺は今まで女の子と仲良くした事が無かったのでどう返事したら良いのか悩んだ。

別に由紀ちゃん──相澤さんは女子からも男子からも人気の高いスポーツマンだ。

顔立ちも整っており細身でスタイル抜群、誰に対しても平等で正義感も強い非の打ち所は無いタイプだ。


ってか、告白って普通男からするものじゃないのか?!

俺はいきなりの急展開に整理しきれない頭の中はかなり混乱していた。


「やっぱり、私じゃダメなのかな……弘樹、好きな人いるんだよね」


「えっ、俺好きな人は居ないよ?」


「何かね、子供を見つめている弘樹の目線の先に私は居なかったの。弘樹と一緒に居るのはすごく落ち着くし楽しい。でも、やっぱり私は入れないんだなって」


確かに、さっきお父さんに駄々をこねてた女の子を見てああ小さい頃の雪みたいだなとは思った。


「そんな事ないよ、あの小さい子を見て雪だと思っただけで……」


「えっ……?」


「雪も小さい時ああだったな〜とか、父さんに駄々こねて困らせてたのが可愛いなって思い出したらつい。それで嫌な気持ちになってたらゴメンな」


「う、ううん! 全然大丈夫! そっか……弘樹が私に対してそういう気持ちならいいの、ありがとう!」


「えっ……俺なんか変な事言った?」


「違う違う。嬉しくて……それじゃ、弘樹また明日ね!」


「あれ? 送らなくて大丈夫?」


「大丈夫よ、私方向逆だし。また明日ね!」


最後に由紀ちゃんは俺の頬に触れるだけのキスをすると真っ赤になって逃げるように帰って行った。

よく考えたら、相澤さんは「ゆき」ちゃん。

俺が今話したのは妹の「ゆきね」の事で、昔から雪と呼んでいるからつい雪と言ってしまった。

確かに俺は好きな人は居ない。でも、相澤さんの事をすぐに彼女と思えるかと問われると難しい。


「彼女って、やっぱり難しいな……」


俺は女の子の付き合い方についてもう少し勉強しなければと改めて感じた。

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