大きくなりたい 2 ☆
雪音の様子がおかしい。原因は分かっている、昨日何故か仲良くAVを見る羽目になったからだ。
俺がやはりバカだった。磯崎に茶化されて感想求められようがほっときゃ良かった。
しかし、田畑はアレをどうやって麻衣ちゃんの目をかいくぐって観たのだろう。
先に風呂から出た俺はリビングでしょんぼりしている雪に声をかけた。
「風呂空いたぞ?」
「ひろちゃん、どうしたら雪はおっぱい大きくなるかなあ」
多分、その発言は先日みたAV女優さんと比較しているのだろう。
とは言え、雪はまだ中学生。正直漫画じゃないんだから、そこまで胸の大きい子は少ないのではないか?
それにしても……。
確か以前雪の胸が背中に当たった時、俺と変わらないなと思ったくらい無かった。そんな事勿論、口が裂けても言えるわけないけど。
「牛さんに頼めって言っただろ、牛乳飲んでるのか……?」
「ひろちゃん、牛さんはユキのおっぱい大きくしてくれないよ、彩ちゃん言ってたもん。おっぱいは好きな人に揉んで貰わないと大きくならないって!」
いやそれはそうなのかも知れないが、それだけではないはず。なんたらホルモンが出ると大きくなるんじゃ無かったか?
「はぁ……まぁ、そういう好きな人が居ればいいかも知れないけど、牛さんの方が確実だと思うけどな……」
「ユキ、ひろちゃんに揉んで貰えたら大きくなると思うの!」
何故そうなるんだ!? てか、何で俺!
満面の笑みで俺を見つめないでくれ。どうして雪はいつもいつも極端な発想なんだ。
他人に雪が胸を揉まれるのは絶対に許し難い事なんだが、俺が揉むのもどう考えたっておかしい。
「あのな、雪。胸は年齢と共に大きくなるものなんだよ……」
「でも、えっちなビデオのおねぇさんはお胸大きかった」
「それはそういう人を俳優さんとして使ってるからだろ、ほら……見た目のボリュームっつーか……」
「ひろちゃんもおっきい方が好きなんだ」
「いやまあ……どうなんだろう……」
いきなり巨乳が好きかと言われても返答に困る。確かにあった方が安心感というか……でも別に普通のサイズでいいんじゃないか?
確かに女子がよくそういう悩みの会話を教室の端でしてるけど、やっぱり気になるんだろうか。
「ユキもあのおねぇさんみたいになりたい……」
「よく考えてみろ、雪はまだあの女優さんの歳まで成長してないだろ? あと4〜5年くらいで同じくらいになるから」
「……ほんとぉ?」
うっ……珍しく雪が俺の話を信用しない。普段は盲目的に信用してくれるのに、こういう性関連の話だと途端に警戒を見せる。
「ホントホント。雪が大人になっても小さかったら、俺がどーにか牛さんにお願いしてくるから」
「むぅ……ひろちゃんがどーにかしてくれる方が早いのにぃ……」
俺がどーにかしたくらいで雪の胸がでかくなるんだったら、世の中みんな巨乳になるんじゃねぇかよと思う。
ただ、そんな非科学的な話は雪に通用しないし、彼女は困った事に話の断片しか信用しないので全てが通じる訳では無い。
「分かった、じゃあ雪があのAV女優さんと同じ年齢になっても胸が無かったらその時は俺が大きくしてやる」
流石にあの女優さんの年齢まで雪が成長する頃は彼氏の1人くらいできるだろうし、俺に興味も失せているはず。
「えっ! ひろちゃんがユキのおっぱい大きくしてくれるの!?」
「はい?」
「なぁんだ。じゃあ、ユキはこのままでいいや。4年でも5年でも待って、ひろちゃんにいっぱいいっぱい揉んでもらうね」
「あの……雪音さん?」
「じゃあねひろちゃん。ユキ、お風呂行ってくるね」
俺はとんでもない失言をしたようだ。空いた口が全く塞がらない。何故そこで俺を待てるんだ、早くおっぱいを大きくしたかったんじゃないのか?
ルンルンと軽い足取りでお風呂へ向かう雪の顔には既に巨乳になった期待しかない。超絶ご機嫌がいい時に歌ってる変な鼻歌まで聞こえてきた。
どうやら俺は雪音に仕掛けられたとんでもない罠を踏んだらしい。
本当にあの女優さんと同じ歳くらいまでに、雪の胸が大きくならなかったら──って、俺が話をまとめる為に提案したこれって、もしかしなくても家庭内犯罪になるんじゃないか?
「……牛乳さん、マジで頑張ってくれ……頼む」
俺はその日から冷蔵庫の中にある濃厚4.1牛乳に両手を合わせ、雪の胸が大きくなるよう本気でお願いした。
2016.12.02
 




