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妹が可愛いすぎて困ってます。  作者: 蒼龍 葵
弘樹高校2年生
39/82

バイトその2 ☆


俺がバイトに入った事で小野田のお母さんから物凄く感謝され、バイト代が何故か上乗せされた。


「雨宮のお陰で新しい客が増えたって母さん喜んでたよ。お前、以外と話題がオッサン受けなんだな〜」


「え? 別に大した話してないんだけどな……昼間のサラリーマンとは株の動きと最近の日本経済状況について聞いてただけで、こないだカウンターに座ってた人なんてS大学の小児科の先生だったんだよ! だから俺色々聞きたくて質問攻めにしちゃった」


「……」


あれ、なんか田畑も小野田も冷めた目で俺を見てる。

だってなかなか大人からマトモな話を聞くチャンスなんて無いんだから、バイトの時に色々な職業の人から話を聞けるのは凄く有難いと思う。


「ま、まあ……要するにSNSメインで来る若い子じゃなくて、固定のサラリーマン達が来てくれる方が店の雰囲気に合うから母さん的には嬉しいんだとよ」


「は、はぁ。まあ俺もバイト代貰えてすっげー助かってるし」


よく分からないけど、俺でお役に立てるなら光栄だ。さて今日は社会科の宿題を持ってバイト頑張ろう。この程度の課題なら休憩の合間で終わらせられるはず。




──────




「いらっしゃいま……」


ディナータイムで少しずつ混んできた中、カランカランとまた来客を告げる鈴が鳴った。

俺は業務用スマイルを扉の方に向けた瞬間、入ってきた人物をみて固まった。


「3人でーす」


「お、お席までご案内致します……」


多分初見だが、今元気よく指で3を出したのが彩ちゃんだろう。

その後ろから申し訳無さそうな顔の麻衣ちゃんと、雪がニコニコしながらついてくる。まさか、俺のバイトを邪魔しに来たのか?

俺はギクシャクしながら最初3人に水を提供した所でカウンターに戻り、小野田に助けを求めた。

あのテーブルだけ小野田に対応を任せ、俺は他のディナー客の応対に回る事になった。


「ありがとうございました〜」


粗方ディナー客が引けて残りは雪のいるテーブルともう1つカウンター席のみになった所で俺は洗い場へ戻った。

オープンカウンターになっているので、洗い物をしながらフロアの様子が一望できる。


(──しかし不気味なほど静かだ……雪は一体何を考えてここに来たんだ……?)


そもそも、ここの喫茶店は家から電車を1時間くらい乗り継ぎしないと来れない。

俺のバイトの邪魔をしに来たわけじゃないならいいか……。


「ん〜! 美味しい!」


幸せそうな顔でオムライスをパクパク頬張る雪の横顔をみて、何だか俺まで幸せな気分になり、可愛いなと思ってしまった。

──いかんいかん、雪は妹なんだから。


「弘樹くん、あのテーブルに妹さんがいるんでしょ? 外も暗いし一緒に帰ってあげた方がいいわよ」


「えっ……まだお客さんの2テーブルありますし、まだ働けますよ」


「ホント真面目な子ねぇ。いい? お兄ちゃんはきちんと妹さんを安全にお家に帰さないとダメよ。ここら辺は地理詳しくないと夜道は暗いし、変な人は居ないと思うけど何があるか分からないから。弘樹くんのシフトは早帰りにしないでおくから、あの子達と帰りなさい。いいわね?」


「はい……」


まるでもう1人の母さんのようだ。ハッキリと言われてしまっては雪と帰るしかない。

結局俺のバイト邪魔しに来たんじゃないか……あともう少しで小児科の先生が夕飯で来る時間だから話色々聞きたかったのに。

不満たっぷりで俺はエプロンを外し、私服に戻ると会計を終えて外で待っていた3人娘に声をかけた。


「……お前らは何でこんな遅くにここに居るんだ? 田畑はどうした」


「え〜。だって雪ちゃんがお兄さんの働いてる姿見たいって言うからぁ」


「……ごめんなさい。兄貴には言ってない」


彩ちゃんと麻衣ちゃんは返事したが、肝心の雪は黙ったままだ。それがまたイライラする。


「あのな、俺は真面目に仕事してんの。お前らがただ遊びに来るなら迷惑だ」


「そんな言い方しなくてもいいじゃないの〜」


「……行こう、彩ちゃん。雪ちゃんごめんね、私達帰るから」


残りの2人も送るべきなのだが、彼女達とうちは方向が真逆だ。麻衣ちゃんがいるからあっちは最悪田畑を呼び出しして帰れるだろう。

問題の雪はまだ下を向いたまま黙っていた。普段びーびーうるせえのに何で都合が悪いとこうも静かなのか。


「ほら帰るぞ、雪」


「帰らない」


「はぁ? 俺はお前のせいで早退きになったんだよ、送れって言われたんだし帰るぞ」


「……帰らない」


意味の分からない頑固。ここまで来るといちいち付き合うのも面倒くさい。これなら黙って先生が来るまで待ってりゃ良かった。

俺は雪を無視して先に駅の方まで歩き始めた。流石についてくるだろうと思いきや、雪はその場から全く動こうとしない。


「はぁ……雪、早く帰るぞ。腹減ったし」


「ひろちゃん、雪のこと嫌いになった……」


「何だよそれ。めんどくせぇ……」


「パパにひろちゃんのバイト邪魔しないように言われてたけど、ひろちゃん毎日遅いし、雪ひとりでご飯食べても美味しくないし、ママも帰り遅いし、ひろちゃん……雪の事嫌いになったからバイトしたんだ」


ああそうだった。雪はあまり友達が多い子じゃないし、付き合ってくれるのがいつものあの2人くらいだ。

うちは両親が殆ど仕事で居ないから、俺まで帰りが遅くなったら雪はひとりぼっちだ。

鼻水を垂らしてグズグズ泣く雪の頭をポンポン叩く。まだこいつも中学生。俺が側に居ないと寂しい年頃なんだろう。


「……ごめんな雪。バイト、少し減らすよ。そうだ。帰ったら雪の作るオムライスが食べたいな」


「うん! 雪ね、ひろちゃんのバイト先が美味しいオムライス食べられるって聞いてそれで来たの! 上手く作れたらひろちゃん喜んでくれるかなって」


もう泣き止んでいた雪はオムライスの構想で帰り道ずっと俺に話しかけてきた。

こんなに喋る雪は珍しい。泣き虫なのはいつもの事だが、よほど寂しかったんだろう。


雪のコロコロ変わる話をうんうんと聞きながら、俺は恋人繋ぎで絡めた指に力を込め、心の中でごめんなと呟いた。

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