生理 ☆
「ねぇねぇ、雪ちゃんアレきた?」
「ん? アレって何?」
お友達の彩ちゃんがニコニコしながらユキに話しかけてくる。
「やだァ、あまり大きな声じゃ言えないよ。男子もいるし……」
「ほんと、来ると面倒くさい。うちなんてバカ兄貴が居るからトイレのタイミングとか大変だよ」
「あっ、麻衣ちゃんは来たんだ! そうなんだよ、初日がね〜。お腹痛いしお昼まで持たないし」
麻衣ちゃんと彩ちゃんがヒソヒソと大変な女子トークをしているけど、アレが何か分からないユキはその中に入れない。
どうしよう。アレについて聞いた方がいいのかなあ。でもみんな知っているのに、ユキだけ知らないってなったら……嫌われちゃう?
「雪ちゃんも、弘樹さんいるからアレの時大変でしょ?」
もしかして、うんちの事かなあ。でも消臭スプレーあるし……そんなに困った事はない。
「ユキのお家は困らないよ?」
「それすっごい羨ましい。やっぱりお母さんが看護婦さんだからだよね。弘樹さんもプライバシーしっかりしてるだろうから」
「雪ちゃんいいなぁ〜! アタシんとこは弟も2人居るから色々煩いんだよね。そういうの対応するだけでダルいし〜」
やっぱり2人の話を聞いていても何がアレなのか分からない。
もしかして、2人ともお家のトイレにうんちした時の消臭スプレーが取り合いになるのかな。確かにこんな話、男の子がいる教室でするのは恥ずかしいもんね。
ユキは最後まで麻衣ちゃん達の話のアレが分からないまま過ごしちゃった。
──────
お腹が痛い。
あれ? こんなにお腹が痛いの初めてだ。
「雪、どうした?」
お家で宿題をしていたら、突然お腹が痛くなった。痛くて動けない。ユキ、このまま死んじゃうのかな……?
ひろちゃんが心配そうに見つめてくる。どうしよう、お腹痛くて声が出ない。
「ひろちゃん、お腹痛い……」
「えっ、どうしよう、母さんに電話する? それともタクシー呼んで病院行くか?」
「うう、多分そこまで酷くない……トイレ行ってくる……」
少しトイレで頑張って、うんちが出たら良くなるはず。でもそんなのひろちゃんに恥ずかしくて言えないじゃない!
ユキはトイレに入った瞬間、床に落ちた血に具合が悪くなった。
「何これぇ! 血が、血が止まらない〜!」
「ど、どうした雪!?」
トイレのドアを叩くひろちゃん。でもユキはそれどころじゃない。太ももまで血が伝ってて、お尻から血が止まらない。ティッシュで拭いても拭いても取れない。
どうしてこんなに血が出るの、何これ、病気?
「雪、大丈夫か? 何か必要なものあるか!?」
「うう……どうしようひろちゃん……ユキ、死んじゃう」
「何がどうなっているのか分からないよ、鍵開けて」
それだけは絶対ダメ。こんな血まみれで、トイレの床も血がついている。もう収集つかない。
半泣きになってユキは床の血をごしごし擦ったけど、なかなか血が取れない。トイレマットも汚しちゃった。ママに早く言わなきゃ……
「ユキトイレから出たくない。ママが帰ってくるまでここに居る」
「便秘か? 救急車呼ぶ? 薬必要か?」
ひろちゃんがずっと心配してくれてるけど、絶対こんな姿見せられない。血のお漏らしなんて恥ずかしすぎる。
「ただいま〜」
珍しくママが早く帰ってきてくれた。ユキはひろちゃんに離れてもらうようにトイレの中から叫んでママを呼んだ。
「あらぁ、雪良かったわね! 今日はお赤飯炊かなきゃ」
「ええ? 何で? ユキ病気じゃないの?」
「うふふ、雪はね、これで女の子から成長したのよ。良かったわね、お友達も生理は来たんでしょう?」
せいり? せいりってなんだろう。
「あ、もしかして今日麻衣ちゃんと彩ちゃんが話してたアレってやつかなあ」
「ママの使ってるナプキンが棚にあるから、雪に説明するわね。そうだ、これ専用の下着も買わないとね」
ママに言われてユキはナプキンをパンツにつけてみた。オムツみたいで変な感じ。
これが違和感酷い場合は別の方法もあるみたいだけど、難しいみたい。
学校にはポーチにナプキンを入れて持っていくようにと、交換したものはビニール袋に入れて縛って家で捨てるよう言われた。
ママが血まみれのトイレをすぐに綺麗にしてくれたお陰で、雪もひろちゃんに事情を説明できた。
「良かったな雪。でも生理が来るとお腹痛くて動けなくなる人もいるらしいから無理するなよ。必要なものは買ってくるからな」
本当にいつでも優しいひろちゃん。誰よりも大好き。
雪はママに言われた通り最初は頻回にトイレに行ってナプキンの汚れ具合を見る。そしておしりがかぶれたり気持ち悪くなったらすぐ交換するよう、とにかく言われた通りにした。
そしてその日の夜はママが言った通りに「お赤飯」が出てきた。
赤飯大好きなパパとひろちゃんはすごく喜んでいたけど、なんで雪のお尻からこんなに血が出てお赤飯なんだろう。女の子の体って不思議だね?
結局、ユキの初めての生理は1週間続いた。




