夜這い3
雪がどこから聞いたのか、おなにぃということを気にして俺のベッドに夜這いしてくることが増えた。
正直に不眠が悪化して授業中も眠くて仕方ない。けれども雪に何度も自分の部屋に戻るように言っても聞いてくれないのだ。顔に似合わず頑固なのが困る。
本当にどうしたら良いのか分からないこの攻防。雪が裸で来られるのは本当に参ったので、俺は父さんが夜中に帰ってきたタイミングでこの事を話した。
「う〜ん。雪音も年頃だからなあ。少しずつ見た目も身体も変わるだろう? 授業でも男女の違いの勉強したんじゃないか?」
「父さんから言ってよ、俺は寝れなくて困っているんだ」
「いやー、そういうのは父さんから言ったらちょっと倫理的に問題がなぁ……弘樹の方が歳も近いし話しやすいだろ」
「そんな……無責任だよ。雪にどうやって教えたらいいの、そんなの」
今夜も雪にパイプベッドを占領されていたので、俺は泣く泣くリビングでF1を見ていた。
頼りの父さんからも言い難いと逃げられてしまった。
問題は天然記念物ばりに鈍感で思い込みの激しい雪にオナニーをどう説明したらよいか分からない。
しかも、雪は友達の言葉を100%信用している。厄介な事に、「おなにぃはひろちゃんを気持ちよくさせる方法」だと勘違いしている。
た、確かに……言葉の意味は半分あってるけど、半分捉え方が間違ってる……。
でも中学生の妹で抜いてしまったら俺はもうダメな気がする。
こういう時、きっと女好きの田畑だったらうまく流せるんだろうけど、俺は切り返しの方法を知らない。
「弘樹、雪に真実を伝えるんだ」
「……それで俺が雪に嫌われたら父さんが責任とってくれるの?」
「……」
俺の言葉には返事をせず、父さんは頷きながら俺の肩を叩くと風呂に入る為そそくさと脱衣所に向かっていった。
重いため息しか出ない。俺はまだ朝日が昇らないことに幻滅しながら部屋に戻った。
流石にパイプベッドは狭く、雪が占領しているので一緒に寝るわけにはいかない。
──そうだ! 雪のベッドがある。
俺は思いついたように雪の部屋に入り、綺麗に整っているピンク色のベッドに腰掛けた。
……何で俺は妹の部屋で寝ないといけないんだ。本来逆だろ、逆……。
完全に腑に落ちないがここ数日、雪との攻防のせいで全く眠れていない。
勉強で疲れも溜まっていた身体はすぐに心地よいまどろみへと落ちた。
夢の中での雪は大学生で、今と全く変わらない可愛らしい微笑みを浮かべていた。
発育も良くて、スタイル抜群。そして俺のことを相変わらずひろちゃん。と甘い声で呼んでくれる。
──雪は、将来あんな感じになるのだろうか?
長いさらさらストレートのロングヘア―。二重のアーモンド型の眸は俺だけを一途に見つめてくれている…
小顔に浮かぶぷっくりしたピンク色の唇。
あれが、雪……?
──ちゃん
「ん……?」
「へへっ。ひろちゃん」
語尾にまるで音譜でもつけそうなくらい満面の笑顔を浮かべた雪が、何故か俺の上に圧し掛かっていた。
これは馬乗り!?
俺が完全に逃げられないように腕をロックしている。一体どこで覚えてきたんだそんな技! まさか、田畑の妹か……!?
俺は残念なことに、未来の雪の夢なんて見ていたもんだから、若干気分が良くなっていた。
そりゃあ健全な男の子だし、そこはかとなく下半身が疼く。
「ひろちゃん! もしかして、おなにぃしちゃったの?」
「違うっ!!!!」
「ひろちゃんはユキが気持ちよくするのっ! だから早くおなにぃ教えてよぉ~!」
雪が俺を揺さぶる度に、雪が馬乗りになっているあと10センチ下に俺のアレが。
ちょっと、今激しい振動は勘弁して欲しい!
若干刺激に感じそうになってる。あ、いやそうじゃなくて、俺の理性の糸がぷちっと切れそうな気がしてやばい!
雪に余計な嘘を教えた彩ちゃんという子がちょっとだけ嫌いになりそうだ。
このままでは俺は自分の部屋でも雪の部屋でも平和に眠ることが出来ない。
誰か助けて……。
そんな弘樹の切ない思いは、悲しくも暗闇の中に吸い込まれていったのである。




