針金草
「やっぱりアズタン様は凄ぇよな。魔物を動物にしちまうんだからよ」
村のみんなに囲まれながら私は、簡単に今回の事の顛末を話した。
みんなに感謝されて驚かれたけれど、困った事に思いこみが激しいのか、いくら説明しても動物が魔物化するのではなく魔物が動物になったと誤解されたままだった。
どうやら動物が魔物になるわけがないと思っているらしい。
「なんせアズタン様だからな。俺の畑を元に戻してくれるくれぇ凄い娘なんだから、おっそろしい魔物だってチョチョイのチョイだぜ~」
「凄ぇよなー。ダニ共よりよっぽど頼りになるじゃねぇか」
「ダニ共に貴重な食料を食わせるより、アズタン様に食ってもらった方がよっぽどマシって思わねぇか?」
「どーせシューラドじゃ大した物を出してねぇんだろ? ここは一つ、皆でアズタン様に感謝を込めて腹一杯食ってもらおうぜ」
「シューラド。アズタン様に、だかんな。こっそり懐へ入れんなよ」
「わかってるよぉ。俺だってアズタン様には申し訳ねぇって思ってたんだからよ」
良かったぁ。なんかちゃんとしたものが食べられそうな話になってきている。
まだ危険は去っていないのだけれど、すぐにどうこうなる話ではない。
なにより魔物化したのはグラーカルだから行動範囲はかなり広い事を考慮に入れないとならない。
単独で暮らすグラーカルは獲物を求めて一日でかなりの距離を移動する。魔物の報告があった記録等があれば腐気の場所を絞れるのだけれど。
「シューラドさん。魔物の話はいつ聞いたの?」
「巡回兵が来るって連絡があった時だ」
「それはいつ頃なんですか?」
「三日前だ。それで一昨日から準備で大忙しになってたんだ」
となると腐気が発生しているのはこの村の近くではない。
森でもない。森に腐気が湧けばまずダリュエンナが気づくからだ。
グラーカルはこの村を目指してやって来きた訳ではないだろうから、最低でも二日。おそらくは四、五日程の距離に腐気が湧いていると考えるべきだろう。
「ふざけてんのか。なんであのガキが一緒なんだよ……」
「化けモンみたいな魔物を手懐けちまうガキがいたら姉ちゃんと楽しめねぇじゃねぇか……」
「しかも、むさっ苦しい親父まで……」
「ふぇんふぁい、これふまいっふ!」
私は村の中心にある教会で夕食を食べていた。
シューラドさんは私の身を案じてくれたのか、隣で一緒に食べている。懐にパンを隠したのは見ないでおこう。
ようやく少しはまともな食事にありつけたのだ。
ダリュエンナの娘として恥ずかしくないように、テーブルマナーには気をつけて食べている。
ところが、この人達ったら、もう少しお行儀よく食べられないのかしら?
手づかみで肉を口に放り込むは、お酒も樽ごと飲み出すは、まるで飢えた獣が食い漁っているかのようなのだ。
それはさておき、魔物に関してシュードラさんは巡回兵が来る事しか知らなかった。
そこで巡回兵に聞いてみようとご一緒したのだ。
隊長が自分の隊に来ないかと誘ってくれたのだから少しは協力してくれるかと思っての事だ。
そして、隊長が聞いていた魔物の目撃情報や襲われた村の日時から腐気の発生場所を絞り込もうとしているのだ。
「……という事は、この辺りが怪しそうですね」
脂にまみれた指で隊長さんが簡単な地図を書いて説明してくれた。
それによると、ゼッセルという町から南北に延びる街道の西側で魔物の姿が確認されている。ちなみにエグ村は南に進んだ東側にあった。
「この先には鉱山があるが、そこにはなんもねぇぞ。昔は村があったらしいが魔物によって壊滅したって聞いた事あるからな。古びた道標くらいはあるだろうが道は残ってねぇだろう」
エグ村から街道に出てゼッセルへ行く途中で西に折れると鉱山があるらしい。怪しそうな場所はその途中から北に延びる廃道を見つければ行けるようだ。
「なにかがある、ない。は関係ないんです。腐気は私達とは関係なく湧きますから」
「となるとなぁ、ここからかなり離れてっからなぁ。俺等じゃどうしようもないぜ。鉱山は鉱山で正規兵がいるし」
「鉱山を目指して行けば良い訳ですね。案内を頼めますか?」
「俺等はこの村に派遣されてっから勝手に持ち場を離れる訳にはいかねぇんだよ」
「なるほど。それでは私一人で」
「ば、馬鹿言っちゃいけねぇ。アズタン様一人に行かせんのかよ!」
汚いなぁ……
ずっと私達の話を聞いていたシューラドさんが口からパンくずを迸らせながら叫んだ。
「って事ぁ、手前ぇが案内するって事だよなぁ?」
「そ、それは……。鉱山なんて行った事ねぇし……。俺なんかじゃ、役に立つどころか足を引っ張るだけだし……」
元気よく意見してくれたが、隊長さんに睨まれただけで呆気なく小さくなってしまった。
「ルシカ、ちょっと来いっ!」
隊長さんの声で頬張っていた肉を咥えたまますっ飛んできたのは、巡回兵の中でも一番若そうな男だった。
「ふぁいひょー、ふぁんれすか?」
「俺等は動けんから、こいつを貸してやる。まだ隊に入ったばかりだから大した腕はねぇが、その分スレてねぇからな。少しはまともだ」
「ふぁぁ?」
「ルシカさん、それでは案内を頼みますね。明日の朝出発しますから、よろしくお願いします」
「ふぇ?」
「馬鹿野郎、いつまで食ってんだ。詳しい説明すっから、しっかり覚えろよ」
「ふぁ……ゲホッ」
ルシカさんは慌てて口の中の物を呑み込み、そして喉を詰まらせた。
翌朝、私はルシカさんの案内で昔に壊滅した村へと向かう準備をしていた。
街道に出たら北へ進み、途中で西に折れて鉱山へと進み、その中ほどにあるであろう壊滅した村への道を探す。歩幅が子供だから廃道となってしまった道の入り口までで徒歩で三日程かかる。そこから道を探しながらなので、滅んだ村まで片道で四、五日はかかるだろう。さらに腐気の場所を探し当てるのにどれだけかかるか? 片道十日くらいはみておいた方が良い。
「アズタン様、腹減ったらこれを食べるんだぞ」
「いいかい、雨が降ったら、ちゃんと雨宿りするんだよ。これ、あたしが作った弁当だからね」
「こっちは俺のかかあが作った弁当だ。道が分からなくなったら誰かに聞くと良いらしいぞ」
「人さらいにゃ気をつけろ。アズタン様はちっちぇえからサラッとさらわれちまうぞ。ウチの弁当が一番美味ぇからな」
なんか大事になってる。
持ちきれないほどのお弁当の山ができている。
こんなに持てないよぉ。どうやって断ろう?
それはさておき、村人達は私が遠くまで出かけると理解しても、どこまで行くかまでは分かっていないようだった。なにしろ自分達では行ったことのないところの話なのだ。実感が湧かないのだろう。
「遅れて悪いっ! アズタン」
ガラゴロと音を立てて幌なし馬車が近寄ってきた。
御者をしているのはルシカさんだ。
「隊長が貸してくれるって。俺等の移動用だから乗り心地は悪ぃけど」
「これ、馬じゃないですよね?」
「中央の奴等は馬なんだけどな。まあ、騾馬で勘弁してくれ」
「へぇ、ラバっていうんですか。ずいぶん大人しいのですね」
「言うこと聞くし、粗食に耐えるし、なにより丈夫だ。
食料は二週間分積んである。水樽もあるけど小さいからな。けど、途中に泉があれば問題なしだ」
歩くのは苦ではないけれど食料なども積み込んであるみたいなのでこれなら速く楽に移動できそうだ。
さっそく馬車に乗り込み、箱の中に転がっている物を見て驚いた。
「二週間分って、固そうなパンしかありませんよ?」
「当たり前だろ。そんなマジな顔で冗談とか言うなよな」
ルシカさんが「なに馬鹿なこと言ってんの?」という顔で私を見ていた。
どうやら粗食に耐えなければならないのはラバだけではないみたい。しかも水樽の水にが微妙に濁っている。これでは魔法で水を出さなければお腹を壊してしまう。
「ぜってーアズタン様に危険な事させんなよ」
「これはアズタン様の弁当だかんな。お前ぇは食べちゃダメだぞ」
「アズタン様、なにかされたら容赦なくやっちゃっていいかんな」
村のみんなが荷台にお弁当を積み込んでくれる。
心配されているのは分かるけれど、ルシカさんはずいぶんと酷い言われようだ。
そんな村のみんなに見送られて私達は進み出した。
馬車に揺られながらお互いに改めて簡単な自己紹介をする。というよりルシカさんが勝手に喋り始めた。
ルシカさんは新入りと言っても本当に巡回兵になったばかりで、今回が初仕事だった。
配属された初めての土地。しかもいきなり魔物退治だと知って自分の運のなさに呆れたけれど、無事に済んで何よりだったと何度もお礼を言われてしまった。
ルシカさんは、一旗揚げようと町へと出たものの文字が読めない田舎者には力仕事しかなかったと言う。
その仕事は嫌いではなかったが町ではまたそろそろ戦争が起こると噂が流れていたので、どうせやるなら兵士を目指してみようと考えたらしい。
戦争が始まれば、国中の若者が狩り出される。
しかし剣や槍は与えられても使い方など教えてはくれない。
それならば誰でもなれる準正規兵の巡回兵に就いておいて少しでも剣を使えるようになっておいた方が良いだろうと考えた。生き残れる確率が上がるし、なにより戦で名をあげれば正規兵の道も開かれる。
ところが、そう考える若者は多くても実際になる者はほとんどいない。
誰でもなれる巡回兵ではあるが、二種類ある。
一つはルシカさんのように各地を巡回する危険な外回り専門の巡回兵。そしてもう一つはコネがなければ配属されない町に常駐するあまり危険のない巡回兵だ。
外回りでも慣れてくればルシカさんのような新米でも害獣退治くらいであればそれほど危険はない。しかし、魔物退治となれば死ぬ確率が一気に高くなる。
そのくせ給料は知れている。
その上、年のほとんどを担当地域の巡回に当てられる。巡回兵の食費をピンハネする目的もあるらしい。
だから移動の食事は固いパンだけ。村に着くと誰もが食い漁るようになる。
村人にも嫌われるから各地を回る巡回兵のなり手は少ないと言う。
「だからダニって言われてたんですね。ん、美味しい」
「だろうなー。俺の田舎でも似たような呼び方してたし。って、これも美味ぇな」
「ところで、ダニってなんですか?」
「はあ? ダニはダニだろ。なに言ってんの? この弁当もなかなかだぜ」
「私の国と呼び方が違うので」
「ああ、それでか。ダニは人にくっついて血を吸う虫だよ」
「バルミの事かしら?」
「ブリョ…違うな。ブリェ…ミュン……くっそ難しい言い方すんだな。まあ、そんなとこだろ。いやー、腹一杯だ」
さっそくお弁当を広げている。
ルシカさんは先を争って食べなくても良いので安心した顔で食べている。
暖かいので腐っても困るから、二人で食べながら話しているのだ。
ルシカさんの話はシューラドさんから聞いた話とは違った。
もっと互いを良く知れば変わるのかも知れない。
それにしても喋るのが好きな人だなぁ。身振り手振りを加えて延々と喋っている。
ラバの馬車は順調に街道を進んでいく。
ルシカさんが言ったように確かに乗り心地は悪いけれど、これも良い経験だ。
なにより歩かなくてももゆっくりと風景が流れていくのが楽しかった。
荷馬車から見つけた動物の名前も教えてもらった。
人の社会で生きていく以上、少しでも名前が分からない言葉はなくしたい。
ただ、半日で飽きてきた。
見かける動物はあまり変わらないし、行けども行けども代わり映えのしない所々に木々の点在する草原の風景が続くのだ。
あの時の感動はどこへ行ったのだろう?
やっぱり森の湖が一番だ。
楽しみがルシカさんのお話だけとなってしまっている。かなりお調子者っぽいけど。
やがて馬車は鉱山へと延びる街道へと入っていく。
そしてしばらくしてようやく景色に変化が出た。
「見ろっ。やーっと山が見えてきたぜ。あそこに鉱山があるらしい」
ルシカさんは巡回兵になったばかりなので、この辺りの地理には詳しくない。
隊長に言われたルートを進んできただけだ。
いつまでも遠くに山が見える。途中で一泊してゴトゴトと馬車は進むが、いつまで経っても一向に近づいているようには見えない。
「なんだぁ?」
ルシカさんの声で前を見ると、街道の先で土煙のような物が舞っていた。
小高い丘を越えている途中なので見えないけれど、こんな人気のないところでなにが起きているのだろう?
「ちょっと見てくる」
ルシカさんは馬車を止めると、飛び降りて様子を見に行った。
そして、丘の頂上付近まで近寄ると身を屈めて道端の草の陰から向こうを覗き、真っ青な顔で駆け戻ってきた。
「引き返すぞっ! 鉱山の馬車がもの凄ぇ速度で突っ込んでくるっ!」
「こんな道幅の狭い場所で!?」
一度に転回するには狭すぎた。
幸いこちらの馬車の積み荷はパンの入った木箱と空の水樽だけだ。
道端から落ちても、一人いれば押し戻せる。
馬車が無事ならば、の話だが。
「くそっ、馬車を端に突っ込ませるから、アズタンは降りて……」
そう言っている内に、ドドドドドッと凄まじい蹄の音を響かせて次々と鉱山の巨大な馬が姿を現した。
私が降りる時間すらなかった。
「アズタンしがみついてろっ! はあっ!」
叫んだルシカさんがラバに鞭打つ。
途端に馬車がガタン、バタンと何度も大きく揺れる。
荷台の端にしがみついたけれど、あまりの揺れに荷台の上を転がりながら馬車は街道脇の草むらへと突っ込んでいく。
そのすぐ後を鉱山の六頭立ての馬車が積み荷を撒き散らしながら駆け抜け、そして豪快にひっくり返った。
「間一髪かよ……。大丈夫か? アズタン」
「あ痛たた……。大丈夫、頭を少しぶつけただけだから」
油断してた。
もう少し護身の魔法を強めておけば良かった。
「一体なにが起きたんだよっ!」
私もルシカさんもなにが起きたのか分からない。
ひっくり返った馬車の近くに御者の姿がない。暴走して振り落としたのだろうか?
私達は馬車を飛び降り、口から泡を吹いて倒れている六頭の馬に近寄っていった。
「近づいてはダメっ!」
馬の様子を確認しようとしたルシカさんがビックリした顔で歩みを止めた。
「ビジャインの種が発芽してしまっている」
「ビジョ? 危険なのか?」
「下がってっ! 食われるわよ」
ルシカさんが一瞬で跳ねるように十歩も下がった。
そこまで下がらなくても……
途端にさっきまでルシカさんいた場所へ馬の頭から細い糸のような物が数本伸び、辺りを探るようにうねった。
「うわっ! なんだよ、これ? もしかして針金草か?」
「魔物化したビジャインの芽です。発芽したらもう救えない」
「どーすりゃ良いんだよ? 針金草ですら一人で倒すのに苦労すんのに……」
魔物と聞いてルシカさんが剣を抜いたけれど、情けない顔で私を見ていた。
ビジャイン――人が針金草と呼んでいる動く植物は、名前は頼りなさそうでもその細長い葉が鉄と同じくらいの硬さがあって剣ではなかなか断ち切れないから付いた名前だと説明してくれた。
獲物を求めて動き回るが基本は獲物が来るのをジッと待っている。
葉の一本一本が糸のように細いので気づかれにくい。気づいた時には容赦なく絡み付かれていて身動きできずに根を張られ養分を吸い取られる。
根を張られる前に倒せば良いのだけれど、街道を頻繁に行き来する巡回兵は実際に出会す者も多いから剣の手入れは必須らしい。
それが魔物となれば積極的に狩りに出るようになる。
「このままにして置く訳にはいかないわ」
「アズタンの魔法か?」
「そうするしかないけど、一応対応を教えておくわね」
魔物だろうが植物だろうが、針金草本体だろうと発芽したばかりの芽だろうと、燃やせば死ぬ。火に対する耐性がないから火には近寄らない。
ただ、発芽の元が今回は巨大な馬で、表面を焼く程度では中に残った根からまた生えてきてしまう。根まで完全に焼く事が大事なのだ。
「だから、対応を知っていればルシカさん一人でも倒せるんです」
「って言われても油とかねぇからな……」
「そうですね。でも知っていればいつか役に立ちます。問題なのは……」
そう言って丘の向こうを見つめた。
ここにいるのは魔物化した針金草の芽なのだ。
「そっか。向こうに親玉がいるって訳だ」
「そして腐気の場所もやはりこちらで間違いないようです」
腐気の正確な場所までは分からないけれど、黒ヒョウと違って針金草の移動速度は極端に遅い。
まずは魔物化した芽を始末しよう。
私は火炎魔法を解き放った。
「アズタン、ちっこいのに凄ぇな」
ラバは荷馬車の車輪が石に挟まって動けないのか、オドオドしながらも草を食んでいるから、しばらくは大丈夫だろう。
そのまま丘の向こうの様子を見に行って驚いた。
「マジか……。あれが針金草の魔物かよ……」
ルシカさんが身震いしている。
「あんなに大きいとは……」
そして私も無意識に声が出たほどの大きさだった。
こんなに大きな成体がいるとは知らなかった。今まで私より小さい物しか見た事がなかったからだ。
それが、成人男性、ルシカさんの三倍くらいの大きさはあるだろうか。見ている間にも少しずつ大きくなっている。今でも細長い葉が人の腕くらいの太さがある。どこまで成長する気なのだろう?
間違いなく魔物化した物の中でも特に危険な変異種だ。
それもそのはず、街道には痩せこけた巨大な馬が三十頭近く転がっていた。護衛や御者らしき干からびた二十数人の姿もある。
その全てに根が食らいついている。
その所為であそこまで大きくなったのだろう。食らい尽くせば、さらに倍くらいまで大きくなる。
足が遅いから六頭を播種用に使ったのかも知れない。
「あれも燃やせば倒せるのか?」
「そうですが、あそこまで大きいと近づくのさえ厳しいですね」
「どのくらいまで近づける?」
「あの大きさを見た事がないのでハッキリ言えませんが、おそらく四、五十メートル以内に入れば確実に襲ってくるでしょう」
「どんだけ油樽が必要になんだよ……。ってか、魔導具でも支給されなきゃ無理だろ……」
「必要なら支給してもらえるんですか?」
「無理だなー。隊長だって戦争の時にしか見たことがないって言ってたからな。俺等みたいなのにお高い物は支給されねぇって聞いてるし」
「まあ、今回は仕方ありません。ちょっと行ってきますね」
「へっ!?」
ポカンと口を開けているルシカさんを残して私は針金草へと歩み寄る。
もちろん纏っている護身の魔法を最大限に引き上げてだ。
あれだけの大きさだ。どれほどの力を持っているか読み切れない。
予想したより成長が早い。近づいていく間にさらに一回り大きくなって六十メートルまで近づいたら動きがあった。
そこから十歩ほど近づいたら、目の前の空気が弾けだした。
目にも止まらぬ速さで一斉に襲ってきた針金草の葉が護身の魔法に弾き返されているのだ。
確認したかったのはこの距離と攻撃力だ。
これだけ知れば、後は用がない。
一気に火炎魔法を解き放って針金草を燃やし尽くす。
要は枯れれば良いのだ。燃やす以外に水分を奪っても構わない。凍っても動きは止まる。ただ、これらは魔法を用いる為、ルシカさんでもできるように手本として燃やしてみせただけだ。
小さければ浄化して野に帰す事もできたけれど、ここまで巨大になってしまっては無理だ。動植物の均衡が崩れてしまう。