布団の中から、何かに巻き込まれるまで
起きると、綿の布団が重くのしかかっていた。私の寝相の治めるためにしかるべき重さだった。
窓が鳴っている。布団に温もりを残し窓の様子を見るためにカーテンを開けると、朝日と共に目に飛び込んできたのは窓猿だった。
「おい、今からこの窓に入りこんでやるぞ。おい、おい。お前から景色を搾取だ。搾取してやる。拍手、拍手」パンパンパン!両手をたたいた。ひとしきり叩き終わると、窓枠の四隅に両手両足で突っぱり毛を逆立てた。
このまま放っておくと薄っぺらく窓の中に入り込み、私から外の景色を奪ってしまう。そういう生き物だった。
そうならないよう、窓猿が窓に入り込むよりも前に、窓ごと窓猿を殴りつけた。
窓猿を殴るためには窓を割らなければならず、当然、窓猿を殴りつけた私の拳は窓ガラスも破壊していた。窓猿がふっとぶ。
「ギエー」
二階の部屋から落下。そのまま地面に激突。
そこにたまたま鳥警察が通りがかった。
「タイホー!タイホー!事件だー!ピーッ!ピーッ!」と鳴いていた。
たちまち玄関のドアがたたかれる。ドンドンドンドン!
「開けなさい!ピーッ!ピーッ!」通りがかったのとは別の鳥警察のようだ。さっきまで下にいたのにこんなにも早く玄関前に来れるわけがない。
この鳥警察はどこかに待機していたのだろうか。
ドンドンドンドン!
「警告!ただちにドアを開けなければ、ドアを破壊する!警告したぞ?はかーい!」
私が逡巡するよりも前にドアが破壊された。そのまま鳥警察の大群がなだれ込む。
インコ、オウム、スズメ、様々な羽毛が部屋を舞った。
「警告したぞ!我らのなかに鶏はいないが警告した!ケーコク!けいこく!鶏告!」
バサバサバサ!7~8羽の鳥警察が一斉に羽ばたいた。
「連行―!連行―!」先ほど下に見えた鳥警察が部屋に入り大声で言った。
「裁判所ぉでサーイバン!裁判所ぉでサーイバン!」羽ばたきながら鳥警察たちが歌う。
バサバサバサ!14~16本の翼で器用に私を持ち上げ部屋の外へ運びだした。彼らで言うところの連行は、私で言うところの強制拉致は、胴上げのように行われた。
「れーんこう!れーんこう!裁判所ぉでサーイバン!裁判所ぉでサーイバン!」と歌う鳥警察に、私は裁判所まで胴上げされ続けた。
「しゅってーーーーーい!」
法廷まで連れて行かれたとき、裁判官たちが整列しているのが見えた。パーティ用のカラフル帽子を被ったゴリラ裁判長が難しそうな顔をしている。
ガン!ガン!木槌が叩かれた。
「これより、『窓猿殺人事件、もとい、窓猿殺窓猿事件』の裁判を始める」ゴリラ裁判長が言った。
いろいろな手順をすっとばし、いろいろな問題が山積し続けている中、さっきまで布団にいた私は被告人となった。