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邂逅~act.Wi&L and more~

 小学5年生の夏休み。その日は友達と遊ぶことに夢中で6時のチャイムが聞こえなくて、友達のお母さんが怒りながら友達を迎えに来て6時を過ぎているのに気がついた。

 急がないと!

 怒られるのもあるけど、心配させるのが嫌でオレは道を走っていた。

「?」

 何かを感じてオレは足を止めた。

 カサッ。

 何か音がした?

 オレは辺りをきょろきょろと見回したけど何も気になるものはない。アイツが道の隅をじっと見つめているけど、それは放って……おけなかった。いつも何を考えているかわからないのに今は苦しくなるくらいの悲しい感情が流れ込んできているのを無視できるほどオレはアイツに薄情にはなれなかった。

「何があるんだ?」

 話しかけてみたけど、いつも通り返事は何も返ってこない。オレはアイツの視線の先に近づいた。

 道路の隅。電信柱と生垣の間に毛の塊みたいなものがあった。よくよく見るとそれは小さく上下していた。ケガをしていて所々が赤黒い血の塊で汚れているけど、その生き物は薄茶と黒の2色の毛の犬だった。

「お前、大丈夫か?」

 オレの声が聞こえたのか、犬は苦しそうに顔を上げこくりと頷いたように見えたかと思ったら、すぐにぱたんと頭が下に落ちた。

「し、死んだのか?」

 オレは慌てて犬の腹を見た。ほんのちょっとだけど動いてる。よかった、まだ生きてる。

 でも、どうしよう……。

 門限より帰りが遅くなったのに、犬を連れて帰ったら絶対に怒られる。

 オレは見なかったふりをすることにした。

「い、いいの?」

 立ち上がって家の方に向いたオレの耳元に弱々しく小さな声が聞こえた。知っているようで知らない声。

 周りを見回すけどオレ以外に人間はいない。何も言わないアイツはもちろん数に数えていない。

 気のせいだと思って、オレはもう一度家の方に身体を向ける。

「かわいそうだよ」

 アイツがオレの前に立っていた。オレの進路を塞ぐかのように両手を広げて。オレが何を話しかけても、何を話しても反応しなかったアイツが、オレの前に立ちはだかっていた。

「どけよ!お前はここにいないからいいかもしんないけど、オレは怒られるんだぞ!」

「でも、このままだと死んじゃうよ。助けてあげようよ」

 アイツの顔が歪む。涙は見えないけど、泣かせたみたいで何だか胸がもやもやした。

 コイツは一体オレの何なんだ?何でオレはコイツが悲しい顔をするのを見るとこんなに嫌な気分になる?何でオレはコイツの言う通りにしようとしている?

「わかった」

 心の中の疑問に答えは出ないまま、オレは犬を助けるために家に連れて帰ることにした。

 両手で犬を抱えようとすると、アイツが近づいてくる気配がした。

「手伝う……」

 小さな声と一緒にアイツは手を差し出した。そうしてオレ達は二人で犬を抱えて家に向かった。

 オレ達は家に着くまでの間何も話さなかった。話しかけても何も返ってこなかったこともあるけど、それよりも犬を見つめるアイツの表情が今にも泣き出しそうで、オレは何を言えばいいのかわからなかったんだ。



 家に着くと門の前で母さんが腰に手を当てて立っていた。恐い。

 ごそっ……。

 腕の中の犬が微かに動いた気がして、オレは犬を見た。乾いた血でガビガビの犬の毛が目に入る。

「母さん……」

 オレは恐る恐る、母さんの後ろ姿に声をかけた。

 ぐるっと音がしそうな勢いで、母さんがオレの方を向いた。

「あんたねぇ!……」

 怒鳴り声が降ってく……こない?

 オレはビビッて強くつぶった目をゆっくり開く。

 目の前に母さんの顔があった。だけどその視線は、オレ達の腕の中の犬を見ていた。

「かあ…さん?」

「この犬どうしたの?」

 口調は少し優しくなったけど、まだ怖い。でも……。

「帰る途中で見つけて、死にそうだったから。でも時間が…なのにコイツがかわいそうとか言うから……」

「誰かいるの?」

 これ以上怒られたくなくて、うっかりアイツのことを言ってしまった。しまったと思った時にはもう遅かった。母さんはオレの顔をじっと見つめてくる。

 オレは隣にいるアイツを見る。アイツもオレを見つめてくる。

「そこに誰かいるの?」

「オレ以外には誰にも見えないから言っても……」

「それでも教えてほしい。どんな人がいるの?」

 教えてほしいなんて言われるとは思ってなかった。見えないアイツの話をしたオレを怒るか、変人扱いすると思ってた。

 オレはじっと母さんを見つめた。母さんもオレを見つめてくる。

 「今日初めて声を聞いたから、名前は知らない。でも、顔も声もオレとおんなじやつがずっとオレの側にずっといる」

「まさか、×××」

 母さんは名前?みたいなものを言った気がするけど、小さすぎてはっきり聞こえなかった。

 母さんはオレの隣をじっと見つめる。その目からは涙が零れている。

「ごめんね。守ってあげられなくてごめんね……」

 母さんは膝をついて両手で顔を覆って泣き続けている。

「母さん……」

 オレの腕に重みが加わった。驚いてアイツの方を見ると、アイツはオレの隣から母さんに近づいていた。その顔は、少し不安そうだった。

 オレは道路に犬を静かに降ろす。

「もう少し待ってて」

 小さく犬に呟くとオレも母さんに近づいた。

「おい、お前」

 オレの言葉にアイツが振り向く。振り返った顔はやっぱり不安そうだったけど、嬉しい気持ちが伝わってくる。

 オレは、コイツが誰だかわからない。でも、母さんがさっき言った名前はきっとコイツの名前なんだろう。コイツは母さんに自分のことを覚えててもらえていたことが嬉しいと思ってる。俺はどうしたら……。

「母さんが泣いてるんだ、さっさとしろよ」

 オレはアイツの横をすり抜けながら小さく呟く。そして、母さんに抱きついた。それに続くようにオレの隣に気配がした。



 アイツが自分の意思を見せたのはこの日だけだった。次の日からはまた元通り見ているだけになった。

 本物のアイツに会った時聞いてみたけど、どうしてあの日だけそんなことが出来たのかは、ルフト自身にもわからないらしい。

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